Interview
2018.04.11
What’sソーシャルフィットネス? その可能性について!
2018.4.11
日本ポールウォーキング協会 特別顧問
一般財団法人健康医療産業機構 ソーシャルフィットネスマーケティングマネージャー
杉浦 伸郎 氏
高齢者を中心に、今やあちこちの公園やアウトドアフィールドで見かけるポールウォーキング。
そのポールウォーキング指導者として、また伝道師として大活躍している杉浦さんが最近ソーシャルフィットネスという領域を提唱し始めています。今回はその流れやビジョンに関して伺いました。
プロフィール
杉浦 伸郎[すぎうら しんろう]
日本ポールウォーキング協会特別顧問。テラススタジオ121北鎌倉オーナー・株式会社コーチズ代表取締役。一般財団法人健康医療産業機構ソーシャルフィットネスマーケティングマネージャー。
1988年米スプリングフィールド大学大学院修了。ケネスクーパー研究所(IAR)研究員を経て、世界最大級のフィットネス組織「米フィットネス協会(AFAA)」の日本代表に就任。以来、30年間健康教育プログラムの研究開発とフィットネス指導者の養成に努める。2006年ポールウォーキングを開発し、全国の市町村で健康増進・介護予防の切り口より健康政策の提言ならびに現場指導にあたる。特に福島での地域・健康づくりの経験よりソーシャルフィットネスの必要性を実感し、2017年より普及に奮闘中。
Q1 まずはポールウォーキングとの出会いを教えてください!
私がフィットネス業界に従事させていただいてから、早いもので35年の月日が流れようとしています。振り返ると、そこには大きな2つのステージがありました。
前半はフィットネスクラブというハコの中で、アメリカ発信型の「元気なひとを更に元気にする」ハイエンドなメソッドの普及でした。
ステップ運動、水中エクササイズ、ヨガ、ピラティスなど、手を変え、品を変え、パッケージを変え、いわゆる「SOMETHING NEW(新しい何か)」をがむしゃらに提供し続けてきました。あらゆるフィットネスプログラムの日本語版マニュアルもつくりました。翻訳が難しいものは、そのままカタカナ表記にして。日本語として意味が通じないほうが、意外とうけたりしました。その頃の私は何かにつけて「海外では、アメリカでは、、、」とはじまっていたので、「出羽守」と揶揄されていました。今思うと、今日のビール戦争と同じような「カニバリゼーション(共食い)」現象しか巻き起こしていなかったと大いに反省するところです。
そこで、最も参加人口の多いウォーキングに注目し、パーソナルトレーニングメニューとして提供することを考えました。それも日本オリジナルで。しかしながら、ほとんどの方が「歩くだけならタダでしょう!」といわれるので、新しいメソッドを開発することにしました。発想の原点は北欧のノルディックウォーキングでしたが、「狭い日本の街中を、ポールをもって歩く新しい健康法」として、整形外科医の安藤邦彦スポーツドクターと共同開発したのが12年前です。そう、後半ステージは、生活習慣病や介護を予防するために、地域・職域・屋外で身体活動量を増やすための超高齢国家日本ならではのオリジナルメソッドで挑みました。
Q2 ポールウォーキングの普及活動の中で感じた課題や可能性
安藤先生は整形外科専門医なので、ポールを持つことによる転倒回避や機能改善といったリハビリや筋バランス・ADLの獲得を主目的としてポールのスペックを考案しました。ノルディックのそれとは、まったくデザインの異なる日本オリジナルでしたが、当初は「2本の杖で歩いていて大丈夫?」「電車で席を譲られた」「何か格好悪い」といった声が多く、普及とは程遠い状況でした。フィットネス現場のインストラクターからもあまり注目されませんでした。しかしながら、国が地域包括ケアシステムの構築にむけ本腰を上げてから流れが大きく変わってきました。
じっと我慢して、良かったぁです。
私達もフレイル(虚弱)層向けといったマーケティングを根本的に見直し、まずはアクティブシニアにターゲットを絞るようにしました。求められていたのは、高齢になっても誰もが生き生きと健康に暮らし、社会参加できるようなコミュニティ、元気高齢者が「担い手」になれる社会の実現だったのです。
2025年には、世界のどこの国よりも速い超高齢社会の本格化が待ち構えていますが、高齢化は個人にとっても、社会にとっても新しい可能性を示すものであり、その未来は明るいものと捉えています。高齢者市場がどのような状況であるのかを理解すると、まさにブルーオーシャンの出現だったのです。
Q3 ソーシャルフィットネスへの思い
これからの地域行政や健康政策を考える上でとても大切な2点、「地域づくり」と「健康づくり」の受け皿となる「愉しい通いの場」が日本全国津々浦々で求められています。「SOCIAL」の意味には「楽しみながらの社会的な活動」という意味づけと価値づけがされているので、コラム連載させていただいていた業界誌「CLUB BUSINESS」の古屋編集長がネーミングされた「SOCIAL FITNESS」をコンセプトにしました。
私は、これまで延べ1万人以上の指導者にライセンスを発行させてもらいましたが、認定取得後の活躍の場の創出は本人任せでした。フィットネスクラブで頑張っているインストラクターたちを取り巻く環境も大きく変わってきました。昔と違って、管理業務や家庭のことなど現場以外にやることも増え、正直皆さん、いっぱいいっぱいの状況です。そんな頑張っているインストラクターの皆さんに、ほんの少しの切り替え作業により、この先もワークライフバランスを実現しながら社会に必要とされ続ける人でいられる領域がソーシャルフィットネスだと思っています。なぜなら、「愉しい通いの場」づくりにこれ以上ベストマッチな人材は他に見当たらないからです。
Q4 ソーシャルフィットネス事務局の今後の可能性
地域高齢者の社会参加のエンジンを稼働するためにソーシャルフィットネスは誕生しました。目下のところ、最も効果的な切り口は介護予防となりますが、実際の参加者層はプレフレイル層からアクティブシニアといった元気高齢者がほとんどです。介護予防教室は自治体が主導してきましたが、これからはフィットネスクラブ事業者や民間事業者の参入、すなわち受け皿機能の強化がこれまで以上に求められるようになります。
そこで、いつでも、どこでも、道具がなくてもできるウォーキングや筋トレといった生活フィットネスの必要性が顕在化してきました。どうしても必要だったのが、エビデンスに基づく普遍的な健康づくりの指標でした。それも、我が国のみならず世界的に高く評価されているモノサシ。
行き着いたのが“中之条研究(青栁幸利先生)”と“貯筋研究(福永哲夫先生)”の知見でした。そして驚いたことに、この両先生とプログラムのマネージメントをしていた人物がいたのです!それが、なんと旧知の仲の山羽教文氏(株式会社健康長寿研究所・FIELD OF DREAMS社長)だったのです。すぐさま彼に相談したら、その場でパートナーシップのオファーを受け、ソーシャルフィットネス事務局を立ち上げました。今思うと必然的な出会いを感じます。
この奇跡的なマッチングによりエビデンスアプローチは完璧にクリアされたので、我々は得意とするグループコーチングを核とするソーシャルフィットネスのマニュアル編集に着手しました。大川さんのスポルツ社が体系化された健康行動の継続に作用する支援技術「継続ドライバ」の考え方も随所に盛り込ませて頂きました。健康運動に関する世界的権威である青栁幸利(中之条研究)・福永哲夫(貯筋研究)両先生の長年の研究エビデンスをもとに身体活動基準を設定、“歩き方検定”と“貯筋検定”の2つの検定制度も創りました。
この2つのプログラムをもって、出前フィットネスとして地域在住の高齢者向けにアウトリーチするのが“ソーシャルフィットネスコーチ”と位置づけました。
「介護予防」と聞くと、虚弱な高齢者が対象になると思われるかもしれませんが、シニアの8割は元気高齢者です。この層に”歩き方検定”や“貯筋検定”にチャレンジしてもらえれば、早い段階から歩行機能と筋力を高めることができ、貯筋残高を稼ぐことができ、将来の介護予防にもつながります。その際には、「セッティングス・フォー・ヘルス(Settings for health)」の視点、すなわち健康になってほしい人たちがどこにいるか、どのような仕掛けが必要かということを常に意識しています。
介護予防の運動教室の目的は、機能改善が主目的ですが、コーチには正しいフォームや運動方法もさることながら、学ぶ過程で個人とグループがどのような関係の中で気づきや発見があったかを重要視してもらっています。さらに、シニアの「学び方」の多様性と特徴を理解した上で、検定進級チャレンジ環境を提供します。このあたりの切り替えを従来のCommercial Fitnessが適応できるようになると、Social Fitnessの領域は無限に拡がってくるであろうと信じています。2020年までに、全国200ヶ所のウォーキング貯筋ステーションの開設を目標に、チーム一丸となって取り組んでまいります。
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一般社団法人 日本ポールウォーキング協会
一般財団法人 健康医療産業推進機構
Terrace Studio 121 北鎌倉
http://terrace121.com/kitakamakura.html
編集後記:
ソーシャルフィットネスという言葉はまだ生まれたばかりですがとても大きな社会的な意義を感じているのは僕だけではないはずです。杉浦さんと出会ってから10年経ちますがますますエネルギッシュな活動を応援していきたいなと考えています。
インタビュアー:大川耕平
[取材日:2018年4月7日]
[取材日:2018年4月7日]