メタボ健診の「見える化」を考える!(その1)
「健康データ『見える化』のヒント」は、個人と集団の健康、それを向上させるための健康増進活動、またその状況を「見える化」する
指標、データ、随時モニタリングをしながら適正化していくための管理プロセスなどについて考えていくコラムです。
今回以降数回にわたり、特定健診・特定保健指導(通称:メタボ健診)を題材にして、実際のデータを用いながら「見える化」のポイント
について考えていきたいと思います。
(もはや説明するまでもないかもしれませんが)特定健診・特定保健指導制度を簡単にまとめると、
・メタボおよび予備群の生活習慣の改善を図ることにより生活習慣病を予防(⇒医療費の適正化を目指す)
・そのために、40歳以上の方に対して「特定健診」を実施し、またその結果に応じて「特定保健指導」を行うことを健保組合等の
医療保険者に義務化というものであり、この制度の実績を評価するために、以下3つの評価指標が設定されています。
指標① 特定健診受診率
指標② 特定保健指導実施率
指標③ メタボリックシンドローム該当者・予備群の減少率
今回は、厚生労働省による公開データを基に、実態を明らかにしてみたいと思います。
例えば、H20年度の特定健診・特定保健指導の実績を例にすると、
H20年度の特定健診対象者は、約5,200万人(図1の母集団)。その内、受診者数は約2,000万人、特定保健指導対象者は約400万人、
終了者数約30万人、メタボ該当者減少数約10万人となっています。
先述の3つの指標で言うと、特定健診実施率38.9%、特定保健指導終了率7.7%、メタボ脱出率32%です。
これらの数値をより直感的に分かるように示してみると・・・
このように、少なくとも平成20年度の段階では、特定保健指導によってメタボ脱出に成功した人数は、たった0.5%と、
ほんのひと握りであったことがわかります。
※メタボおよび予備群は、40歳以上の男性の2人に1人、女性の5人に1人、と言われています(厚労省調査)。
これらのデータから、以下2つのことが見えてきます。
① 特定保健指導だけでは、母集団全体に対する生活習慣病の予防効果はごく限られた範囲しか期待できない。
⇒特定保健指導によるメタボ・予備群脱出効果は0.2%(5,200万人中の10万人)
母集団全体に生活習慣病予防効果を生み出すためには、特定保健指導以外の施策にも取り組む必要があることが分かります。
ただし、単に追加施策として実施した場合には費用が膨大になりかねません。そのため、対象(ターゲット層)と期待効果を明確にした
施策全体像を描くことが重要です。
② 母集団全体を「見える化」するためには、3つの指標だけでは不足している。
⇒99%以上の方の生活習慣病予防の取り組み実態が「見えない」(見えているのは5,200万人中の30万人だけ)
⇒99%以上の方の生活習慣病予防の取り組み実態が「見えない」(見えているのは5,200万人中の30万人だけ)
「特定健診受診率」「特定保健指導実施率」「メタボリックシンドローム該当者・予備軍の減少率」の3つの指標は、特定健診・特定保健
指導制度の評価のために作られた指標であるため当然かもしれませんが、母集団全体の生活習慣病該当リスクを「見える化」する
ためには、これらの指標以外についても測っていく必要があることがわかります。
例えば、特定保健指導実施(終了)者に限らず、前年・前々年の健診でメタボに該当していた方が次回の健診でどのような結果を
迎えているのか、あるいは、前年はメタボに該当しなかったにも関わらず、新たに該当してしまう(新規突入)方はどの程度いるのか、
などが挙げられます。
このように、「集団の健康」を見える化し、向上させていくためには、ある限られた範囲の情報だけではなく、母集団全体を俯瞰し、
個別パターンの種類やボリュームを明らかにして、それらの方々に対して適した施策を講じることが重要と言えます。
次回は、ある健保組合の実際のデータを使い、一般的に公開されているデータからは見えてこない実態を明らかにして、
母集団全体の生活習慣病予防のために採るべき施策について考えていきたいと思います。