【海外ユニーク事例編】メンターを患者支援に活かす製薬企業「UCB」
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【海外ユニーク事例編】メンターを患者支援に活かす製薬企業「UCB」
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こんにちは。株式会社スポルツ、ヘルスビズウォッチ編集長の脇本和洋です。
「ひと薬(くすり)」という言葉を聞いたことがありますでしょうか。
病気は、単に薬だけで治るものではありません。
ひと薬は、自分と同じ病気の「人」の存在自体が薬になるという考え方です。
「ひと薬」が大切なことに正面から向き合う製薬企業があります。
UCBという、抗てんかん薬のグローバルシェア1位の企業です。
同社は、
・メンター
・アドボケート
・コミュニティ
という3つの「ひと薬」を提供しています。
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企業概要:抗てんかん薬のグローバルシェア1位の企業
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■企業名:UCB
■設立:1928年
■本社:ベルギー(海外40か国以上で展開)
※日本支社
■ミッション(表記):難病患者の生活を改善することで、患者を中心とする
グローバルなバイオ製薬企業としてのリーダー的存在を目指す
(UCB aspires to be the patient-centric global biopharmaceutical
leader transforming the lives of people living with severe
diseases )
■企業スローガン(表記):患者から学び、科学を使って進める事業を行う
(Inspired by patients,Driven by science)
■事業内容:免疫系疾患、中枢神経系疾患に対する医薬品開発及び販売
(Epilepsy=てんかん に対する医薬品が中心)
■てんかん
世界中で約5,000万人の患者がおり、疾患率は人口の約1%とされ
日本には約100万人の患者がいると言われている。
適切な治療により10人のうち7人は発作がおこらなくなるとされる。
■売上:約4,000億円(3.4billionユーロ)/2012年
■実績
1999年販売開始の「ケプラ」という抗てんかん薬は、世界90カ国以上の
販売実績があり、グローバルのてんかん薬市場ではトップシェア製品となって
いる。
(日本では、大塚製薬と組み「イーケプラ」という商品名で、2010年から
販売。発作をおさえるだけでなく、薬の相互作用が少ない)
■同社の患者支援のとりくみ
同社のミッションで語られている「As a patient-centered company」として
「Patinets Program」と称して、てんかん患者向けに、複数の「ひと薬」を
展開している。その中の特徴的なものを下記に紹介します。
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患者支援(1):H.O.P.E. Mentoring Program(てんかんメンタープログラム)
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■メンターって何?
まず、「H.O.P.E」とは、Helping Other People with Epilepsyの略で、
自分以外の他のてんかん患者のことです。
次に、「Mentor(メンター)」とは、お手本となる人、目指したい人
といった意味の言葉です。
つまり、「H.O.P.E. Mentoring Program」は、
てんかん患者が、その体験を生かし、他の患者やその周囲を助け、
目指したい人になるプログラムのことです。
ここで大切なことは、
・患者自身が患者に教える
・患者のお手本になる患者になる
ということです。別な言い方をすると、
「患者でありながらも、患者に教える人」(patient educators)です。
このプログラムは米国てんかん財団が運営しており、UCBはこのプログラム
を支援しています。
■メンターになるには?
・自身がてんかん患者、もしくは家族がてんかん患者であること
・財団規定のてんかんの教育を受けていること
■メンターがすること
「自分の経験に基づき」患者としての言葉で、
てんかんについて正しく教えることです。
そのために、カリキュラムを用意。
カリキュラムは、
・てんかんと発作
・病気が与える影響(周辺症状)
・支援者とセルフ・マネージメント(家族とのあり方と対策)
・発作の今後
という4つのシンプルなモジュールで構成されており
メンターが自由に選択し、組わせて簡単に
レクチャーができるようになっています。
■メンターが行ったレクチャー例
パワーポイントのスライドで、標準例として掲載されています。
簡潔な説明内容ですが、「患者体験に基づき」このレクチャーが
行われることが最大の特徴です。
※上記ページのH.O.P.E. Mentoring Programの、View this module
をクリックしてください。
※メンタリングプログラムの全体概要
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患者支援(2):Epilepsy Advocates(てんかんアドボケート)
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Advocates(アドボケート)とは、てんかん支援者を指します。
支援者はてんかん患者や介護者で、
治療や人生に前向きな人を指しています。
UCBが提供する「Epilepsy Advocates」は、
「前向きな生き方のお手本がわかる」サイトです。
サイトの中には、多くの人の患者ストーリーが掲載されています。
※参考:日本でもアドボケートを紹介している(6名へのインタビュー動画)
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患者支援(3):PatientsLikeMe(病気の見通しがわかるウェブコミュニティ)
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PatientsLikeMeは、「患者情報共有型」コミュニティサイトです。
UCBは2010年に「PatientsLikeMe」と提携を開始。
同サイトの中に「てんかん患者コミュニティ」を開設しています。
「てんかん患者コミュニティ」では、患者のプロフィール(年齢、病気年数
など)とともに、治療経過、対策、周辺症状について、コミュニティ参加者
全体の定量データとして見ることができます。それにより、病気の進行を
予測したり、対策を見直すことができます。
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今回の学び:実効性のある患者支援
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近年、製薬企業の患者支援の取組みが活発化してきています。
UCBは企業ミッション、スローガンに基づき
「ひと薬」という考え方の患者支援を行っています。
今後、製薬企業には、こうした実効性ある患者支援が必要になります。
一方、これら「ひと薬」は患者側へのメリットは十二分にあるとして
自社の薬の売り込みにどの程度貢献するのでしょうか。
その点、(3)PatientsLikeMeで提供されている患者情報は、
情報加工により、貴重な症例的内容にもなっており、自社のMRが
医師へ情報提供できるものとして、UCBらしいものになっています。
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