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2014.9.24
株式会社グローバルニュートリショングループ 
代表取締役 武田 猛 氏

武田さんには2010年9月に最初のインタビューで健康食品業界においてグローバルセンスが重要であることを解説していただいた。
 
2014年の今、グローバルセンスの重要性は以前にも増して業界に求められるものになっていくと武田さんは言う。今回は機能性食品における新たな機能性表示の基準をめぐる議論のプロセスからウォッチされて今後どうなっていくのかを伺った。
 
プロフィール
武田 猛[たけだ たけし]
アピ(株)、サニーヘルス(株)を経て、2004年1月(株)グローバルニュートリショングループ設立、現在に至る。海外企業の日本市場参入及び国内企業の海外市場進出の支援、新規事業の立ち上げ、新商品開発などのコンサルティングを行う。現在まで、国内外合わせて220以上のプロジェクトを実施。起業前は原料販売および製造受託会社で12年、通販会社の商品企画、新素材・新技術の探索部門で6年勤務するなど、原料、製造、商品開発、マーケティングの最前線で経験を積んだ実践派コンサルタント。
 
(独)中小企業基盤整備機構 国際化支援アドバイザー/東京商工会議所 中小企業国際展開アドバイザー/健康食品認証制度協議会 委員、日本を健康にする!研究会 幹事、など。著書『健康ビジネス大全』(パブラボ社)

日本の健康食品に関わる制度の背景

「日本の健康食品の制度はトクホがつくられた当時は世界中から注目されて、日本は機能性食品研究の最先端を行っているときがあったのですが、その後20年あまり進化せずにきました。
 
元々、1980年代に日本が機能性食品という言葉をつくった経緯があります。食品の三次機能をもとに機能性食品をつくるというのがトクホの目的だったのですが、農林水産省、文部科学省の意図とは裏腹に厚生労働省から見れば医薬品の領域に踏み込んでもらっては困るということで、結果的にトクホは骨抜きの制度になってしまいました。
 
本来のトクホに許された表示内容はEUや米国に匹敵する、もしくはそれ以上のことが制度上可能になっていましたが、その後90年代の規制、規制によって立ち後れてしまったのです」
 

新制度は大きなターニングポイントに

武田さんは“食品の新たな機能性表示制度に関する検討会”(消費者庁)に数度参加し、議論を直接ヒアリングしている。この制度のもたらす影響について伺った。
 
「新制度は製品自ら機能性を評価する方法と、文献をレビューするという方法でも可能です。この20年間日本の企業は効果効能を言えないということでサイエンスに投資をしてこなかったのです。どんないい研究や論文を出しても事業には活用できなかったので、その代わりにマーケティングに多大な投資がされてきました。
 
では、機能性表示ができるようになったとき、国内にエビデンスと言われるものがあまり存在しない。そうなると海外のヒト試験の文献を集めてレビューするということにならざるを得ないのです。
 
今後は新制度によってサイエンスへの投資も多くなり海外にも発信されていくでしょうから日本の国際競争力も上がっていくと思います。
 
業界の中でも温度差があります。新制度では機能性表示をする大前提として機能性関与成分、いわゆる有効成分ですが定量的・定性的に明らかであるということが条件としてついています。そうすると、日本に多いのですが、何が効いているのか分からないのだけれど全体で効果がありますというものがあります。
 
例えば、お酢はクエン酸アミノ酸どっちが効いているか分からない。あとロイヤルゼリーなどのお守り系食品にとっては(機能性関与成分が明確ではないので)厳しくなるということです。こういった食品グループは機能性関与成分をがんばって探していくしかない。新制度への対応を躊躇しているのはこのグループです。
 
一方、アメリカ系マルチレベルマーケティングの会社は、既にアメリカで機能性表示をして売っているので大歓迎でこの制度に対応するでしょう。
 
この制度の特徴は機能性だけでなく、安全性の確認をしっかりすることと品質管理に対する取組み、例えばGMP(Good Manufacturing Practice)などの情報も消費者庁へ届け出ることになっています。
 
消費者庁はホームページ上にデータベースを構築して新制度に届け出のあったものは順次公表していくことになっています。そこには順番やIDがついていて、商品と連動して検索も可能です。
 
商品製造の秘密以外の情報全てがオープンになるので、そうしたことをする企業はイメージが良くなると思うのです。商品に対する安心感、信頼感は高まると思います。
 
データベースに載るということが一定のステイタスになっていくと思っています。
 
科学的根拠を証明したモノに関しては消費者に分かりやすい平易な言葉を用いてサマライズを出すことになっており、それも公表します。ということは消費者教育の要素も多分に含んでいると思います。
 
これらによって保健の用途の表示としてルールではトクホと同じ言葉が使えるようになります(但し、疾病リスクの低減は不可)。
 
新制度によってマーケティングも明らかに変わっていくことになります。今までは正攻法のことができなかったので、イメージ戦略や本来関係ない要素での付加価値をつけていたのですが、今後は製品の品質ありき、科学的根拠ありきになっていきます。その上でお客様へ何を提供するかということになります。
 
ただし、トクホが機能性表示できるから売れているかというと必ずしもそうではありません。機能性表示だけで売れる訳ではないのです。今までは9割が情緒的マーケティングで機能的マーケティングは1割あればいい方だったのですが、今後4-6割が機能的マーケティングで残りが情緒的マーケティングになっていくと思います。
 
小売りも大きく変わっていくと思います。小売り現場の棚がもっと機能別にわかれるとか。既にドラッグストア協会は考え始めているとも聞きます。
 
広告も改正景品法が出ますので今まで以上に表現条件が厳しくなるはずです。今までは消費者庁が自ら動いて措置命令を出していたのですが、今後は都道府県単位の担当になるのできつくなります。
 
表現に関しては曖昧な表現が消費者団体やアカデミアから嫌われています。例えばサラサラ、プルプルなどの表現を使った広告が目をつけられやすくなるのではないでしょうか。一定の範囲でしか表現できなくなるということで、そうしたとき新制度に対応していくか否かは徐々に事業者間の差を生むことになっていくと思います」
 
 
食品事業者にとって新制度をどう捉えるかは極めて重要な企業スタンスとして結果的にマーケットから見られるという構造になっていくと思われる。この制度をきっかけに、グローバルセンスに磨きをかけていく日本の食品メーカーがワールドワイドで事業展開をしていくことも決して夢じゃないということだ。
 
今後増々、武田さん率いるグローバルニュートリショングループの門を叩く食品メーカーは増えていくと思う。



取材後記:
はじめて武田さんにグローバルニュートリションの国際流通性とトレンドの存在をご教示いただいたのが5年前でした。個人的に俄然機能性食品の動向に興味を深くしたものでした。今回は制度の影響を中心に伺いましたが、その後どうなっていくか?もぜひまたインタビューしたいです。
 
 
 
インタビュアー:大川耕平
 
[取材日:2014年9月16日]