新たなコンディショニング法について
スポルツ アドバイザー 今村貴幸
Trigger Point Performance Therapy
まだ日本では一般的に馴染みのない言葉かもしれませんが、Trigger Point(トリガーポイント)に着目したコンディショニングの方法が最近になって日本でも見られるようになってきました。米国や欧州では以前から行われている方法ですが、日本にはつい最近になって取り入れられた新しいコンディショニングの考え方です(但し、トリガーポイントという概念は以前から日本でもありました)。今回はその新しいコンディショニングの方法をご紹介したいと思います。
Trigger Pointを直訳すると、Trigger(引き金)とPoint(点)となり、「身体のある部位に生じた疼痛(筋筋膜性疼痛症候群)に関連する場所」を示します。このことを関連痛とも呼びます。Trigger Pointが形成される原因としては、筋のOveruse syndrome(使い過ぎ症候群)や外傷などによって引き起こされた微細な損傷が元になります。また、同じ動作を繰り返したり、長時間同じ姿勢でいる状態が続く場合でもTrigger Pointが形成されるきっかけとなります。Trigger Pointが形成されることによって、関連する部位(例えば、腰、肩や膝など)に痛みが生じることになります。実際に疼痛が生じている部位に問題が認められない場合、その部位と関連するTrigger Pointを刺激することで、状態が改善されることが認められています。
Trigger Pointは、簡単に言うと硬いしこり状の部位で、鍼灸などに用いられている「ツボ」と高率で一致すると言われています。しかし、Trigger Pointが「ツボ」と違う点は、索状硬結上(筋膜内にあるピンと張った場所)に見られ、圧迫すると疼痛の症状が再現され、跳びあがるほどの痛みを発することなどが認められます。
Trigger Pointが起こす症状としては、
● 腰痛、肩関節痛、頭痛、歯痛、四肢痛などの痛みやコリ。
● じんじんするしびれ、ピリピリするしびれなどのしびれ感
● めまいや耳鳴り
● 冷え性
● 筋力低下
● 発汗異常
● 関節の可動域制限
● 自律神経失調症
● 全身の疲労、眼精疲労、睡眠障害
● 静脈瘤、むくみ
慢性化した上記のような症状がある場合には、Trigger Pointが起因している可能性があり、その症状に適したTrigger Pointを刺激することによって症状が緩和、消失する可能性があります。
例えば、腰痛に対してのTrigger Pointの例として代表的な部位は、太腿の裏側です。また、おへその横にTrigger Pointが生じた場合でも背中の腰椎の際あたりで痛みを感じることになります。これらの部位を、圧をかけたりほぐしたりすることによって腰痛の症状が緩和されます。
また、Trigger Pointが生じている側の筋肉に力が入ると痛みを生じるので、自然と力が入らない方向へ傾きます(伸ばします)。そうすることで逆側が短縮し、姿勢が崩れてしまいます。姿勢が崩れている原因がTrigger Pointにある場合は、縮んでいる側を伸ばそうとするのではなく、Trigger Pointを緩めることが重要になります。
Trigger Point Performance Therapy では、幾つかの用具を用いてUltimate6と呼んでいる、いくつもあるTrigger Pointから代表的な6ヶ所を取り上げ、身体的コンディションの改善を目指します。疼痛の原因となっているTrigger Pointに対するアプローチ方法は幾つかありますが、そのなかの虚血圧迫法という方法をTrigger Point Performance Therapyで開発した特別な用具(参考:http://www.tptherapy.com/)を用い、Trigger Pointに対しての圧迫を自分自身で行います。
米国では、Personal Trainerがクライアントに対して行っている場合が多くみられますが(個別であったり、場合によっては集団プログラムとして用いたり)、アスリート(トライアスリートやマラソンランナーなど)が身体的コンディショニングの改善を目的として用いる例も見られます。アスリートによっては、レース前のウォーミグアップ時に身体バランスを調整するために用いたりもします。
実際に私も試して、指導している競泳選手に使用させていますが、練習前やレース前に使用すると足の動きが軽くなる、肩の動きが軽くなるなど、関節の動きが良くなるようで、選手からは好評です。
現在、バランスボール、バランスディスク、ソフトジム、ストレッチポールやエナジーボールなど様々な身体的コンディション改善のためのツールがありますが、これらのツールは基本的に、身体の機能的な改善を目指して用いられる場合が多くみられます。一方で、Trigger Point Performance Therapyでは、機能的なコンディションの回復と身体バランスを乱している原因の一つである筋筋膜性疼痛症候群の改善の両方を目的としています。
アスリートが競技パフォーマンス改善のためのコンディショニング法として用いるだけではなく、例えば、慢性的な腰痛や肩こりに悩まされている方が、Trigger Point Performance Therapyの用具を自宅などでセルフコンディショニングツールとして用いて痛みやコリの症状を改善することが出来ます。
また、筋筋膜性疼痛症候群による姿勢のアンバランスを改善し、正しい姿勢に戻すことも出来ます。家庭で自分自身だけでも行えることや効果が分かりやすい点、つまり、痛みの緩和や消失、正しい姿勢の回復を実感しやすいと言えます。効果が分かりやすいということは、継続性が期待でき、幾つかのパターン化された方法を用いることで一般の方のコンディショニングツールとして非常に興味深い方法の一つだと考えます。