今、運動指導に求められること

スポルツ アドバイザー 今村貴幸


今年の4月16、17日と2日間開催された「第12回埼玉心臓リハビリテーションセミナー」に参加してきました。講師の先生方はトップランナーばかりで、「AT(呼気ガス)を応用した運動処方の解説」「レジスタンストレーニング」「リハビリプログラムの立て方」や「心理学的患者指導法の解説」など運動処方について科学的かつ最新のデータや情報を聞くことができました。

中でも印象的だったのは、高齢者に対する筋力トレーニングについてです。少し前までは高齢者の筋力トレーニング、まして心疾患の高齢者に筋力トレーニングを実施させることは、関節に対する整形外科的な問題や運動時の怒責による血圧の上昇などの問題があり、積極的に行うことはありませんでした。しかし、昨今、筋力トレーニングは高齢者であっても、安定した心疾患患者であれば安全に行えることが多くの研究で明らかとなり、また、高齢者の筋力を維持改善することはQOL(生活の質)を高める上で欠かせないものであるとの認識が高くなってきています。

また、筋力(上肢、下肢)を維持することで生命予後が良くなるという研究結果も発表されるようになってきました。つまり「高い筋力や筋量を維持している人は活動的であり、あるいは活動的でいられるため、生活の質も高くなり、より良い状態で生活が送れる」ということです。更には、中枢神経系(脳)との関連性も言われるようになりました。関節の動きが中枢神経を刺激し、脳の活性化につながっているとのことです。今後の研究が待たれますが、認知症の予防や改善の可能性も考えられます。

これまでは、筋力トレーニングといえば、筋力を高めたり、シェイプアップでスタイルを整えたり、整形外科的な問題を改善することに注目が集まってきていましたが、近年の研究では、それだけにとどまらない新しい可能性が見えてきています。特に、高齢者や内科的な疾患を持っている方たちの筋力トレーニング方法が確立していけば、健康で自立した生活を送ることが可能となります。

今後かなりの効果が期待できるとして、多くの方が実際に筋力トレーニングを実施する環境を考えなくてなりません。一般的にはスポーツクラブや地域の施設に出向くことになるため、普段仕事をしている人にとっては時間的な制約や予算的な問題などでなかなか実施するのが難しい場合もあります。また、これまで筋力トレーニングをしたことの無い人にとっては、スポーツクラブに行くことは少し勇気が必要になるかもしれません。

これからうまく活用していきたいのが「ホームエクササイズ」です。以前にくらべジムボールやバランスディスク、チューブ、ストレッチポールなどのトレーニング器具がかなり豊富で気軽に購入できるようになりました。また、健康系の雑誌などのホームエクササイズ特集、ウェアメーカーなどでホームエクササイズを紹介するウェブサイトなども増えて、情報も得やすくなってきました。

しかし環境はかなり整ってきましたが、未経験の高齢者など、それら器具や情報をうまく活用でき、継続的な運動になるかと言うとまだまだ難しい状況です。

これからは生活者それぞれの目的に合わせたトレーニングプログラムを提供できるような、ソフト面の充実、高齢社会に備えた高い医学的な知識を備えたパーソナルトレーナーの育成や充実が期待されます。