新たなエクササイズの兆し
2007年からプロジェクトノートに記事を書いてきました。サイトのリニューアルに合わせ、気持ち新たに健康指導に役立つ、
単に流行りの情報にとらわれることなく、エビデンスに基づいた正確で効果的な運動の実践方法を紹介していきたいと思います。
今回は、フィットネス先進国のアメリカに今年の初めに滞在していた時に感じたエクササイズの傾向と研究者の間では以前から
言われていたことを踏まえて、「新たなエクササイズの兆し」というテーマでお話をしたいと思います。
近年、運動実践によるカロリー消費が注目されている
これまで、低強度の有酸素運動を実践することによって、運動エネルギーとして『体脂肪がどのように利用されるか』という点に注目されてきました。しかし近年では、運動の実践によって『消費カロリーがどれくらい増加するか』ということに着眼点がおかれるようになってきました。この流れは、現代の食生活に欧米型の高カロリー食が増加し、一方で日常生活における活動量の低下が消費カロリーを抑えているため、余剰カロリーによる肥満の増加が背景としてあります。この余剰カロリーを抑えることが肥満の予防改善に有効であると考えられるようになってきました。
これまでの運動様式と問題点
健康のため、また体脂肪燃焼のために行う有酸素運動の実践方法として、低強度で、ある程度の時間連続して行うというのが一般的でした。これは、低強度の有酸素運動をすることで、体脂肪が有酸素運動エネルギーとしての利用効率を高めるためです。これから運動を始める人や、体力の比較的低い高齢者や女性などには有効な方法と言えます。
しかし、忙しいビジネスマンなど有酸素運動のためにまとまった時間の取りにくい人にはなかなか実践することが難しいと考えられます。そこで、まとまった時間を使って有酸素運動を行わなくても、例えば1回10分程度の有酸素運動を1日に3回繰り返すことで、トータル運動時間を30分とし、連続的に30分間運動した時と同等とする方法がとられるようになりました。運動強度が同じであれば、トータルでの運動時間による消費カロリーが等しくなり、少しの時間を有効に活用して運動を行う事ができます。しかし、この方法では現状を維持することは可能かもしれませんが、体脂肪の改善には非常に時間がかかってしまいます。
今後の運動様式の流れ
そこで現在、高強度の運動実践を推奨する動きがみられるようになってきました。高強度の運動では低強度の運動と比較し、単位時間当たりの消費カロリーが高くなります。つまり、短時間で効果的に運動を行う事が可能となるのです。
例えば、体重65㎏の20代男性が100kcalを消費するためにかかる時間は、ゆっくり歩行に比べランニング(7~10Km/h)であれば、1/3〜1/4の時間で十分です。
また、運動強度の違いによる効果について調べた研究では、食事制限+低強度の有酸素運動(40%VO2max)と食事制限+高強度の有酸素運動(80%VO2max)を比較したところ、高強度の有酸素運動を実施した群において、体力や体組成および冠危険因子(LDLコレステロールや空腹時血糖など)の改善に効果的であり、内臓脂肪を特異的(優先的)に減少させることを報告しており、非常に興味深い結果となっています。
実践方法
高強度運動をどのように実践していけばよいか、いくつかの案をご紹介します。
<ケース1:ウォーキングからランニングへ>
ウォーキングからランニングに切り替えるだけでも効果があります。以下の方法ではじめると、無理なく切り替えることができます。
・運動開始直後はウォーキングから始め、身体が温まったところでランニングに切り替える
・無理のない程度走ったら、クーリングダウンとして再びウォーキングを行う
<ケース2:すでにランニングをする人の強度アップ>
・インターバルランニング(高強度のランニングと低強度のランニングを交互に行う)
・ファルトレクトトレーニング(公園や山などで平地では低強度のランニングをし、上り坂で高強度のランニングに切り替えたりする)
を取り入れる。
<ケース3:体力が十分にあり、シェイプアップをしたい人の強度アップ>
・サーキットトレーニング(例えば、「腹筋→縄跳び→背筋→1kmマラソン」などのように筋力トレーニングと有酸素系の運動を組み合わせて行う)
指導への取り組み
現在、アメリカでも権威ある学会の一つであるACSM( America College of Sports Medicine:アメリカスポーツ医学会)では、高強度の運動について議論が盛んになってきています。現在のところ、高強度で運動することによるメリットが高く評価され、高強度運動の実施を推奨する意見が主流になってきています。
高齢者や低体力の方が、いきなり高強度の運動を行うのは難しいかもしれません。しかし、これまでの運動では物足りないと感じ始めている方や短時間で効果的に運動を行いたいと思っている方にとって、今回ご紹介した実践方法は有効な方法です。ぜひ指導に取り入れて見てください。