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2005.12.22 株式会社クラブビジネスジャパン 代表取締役社長  古屋 武範 氏

今回、お話をお伺いしたのは、フィットネス業界の経営情報紙『フィットネスビジネス』の編集長であり、フィットネスクラブに関するポータルサイト「フィットネスオンライン」を運営されている古屋武範さん。新しい業態のフィットネスクラブの誕生など、活発な動きを見せているフィットネス業界の今後について伺いました。
古屋 武範[ ふるや たけのり ]
1962年生まれ。1985年セノー株式会社入社。1995年編集長として『クラブマネジメント』創刊。1997年「フィットネスオンライン」開設。2002年セノー株式会社を退社し、株式会社クラブビジネスジャパンを設立。編集発行人として『フィットネスビジネス』を創刊。経済産業省「スポーツ情報ネットワーク構築事業」委員、厚生労働省「運動指導者普及定着方策検討委員会」委員他、様々な委員、理事を歴任。

-2005年まで、フィットネス業界では、新しい形態のフィットネスクラブが誕生するなど、様々な動きがありました。そのトレンドについて、どう思われますか?

古屋さん そうですね。私は、2005年に起こったことを振返り、2006年のトレンドを10の文字で表現しています。 それは、「少」「内」「協」「楽」「個」「人」「若」「地」「絞」「体」です。

-では、それぞれについて、お話をお伺いさせてください。まず、「少」について。

古屋さん 特徴としては、集中戦略による差別化といえるでしょう。希少価値という意味での「少」です。 最近、話題になっている本で、『ブルーオーシャン戦略』があります。未開拓な市場を開拓して、競争自体を無意味なものとするビジネスモデルの創造について述べられています。ワインのイエローテイルやショーのシルクドソレイユが、例に挙げられています。 フィットネス業界では、ホットヨガスタジオや、ダイエットやボディメイクなどの目標を設定し達成することをテーマとする都心の成果志向型ジムなども、ブルーオーシャン戦略をとるビジネスモデルといえると思います。

-2005年に日本に参入した、女性専用の小規模サーキットトレーニングを提供するカーブスなんかも、そうですか?

古屋さん そうですね。先ほどの本の中にも成功例として取り上げられています。日本での展開では、フランチャイズの形態をとり、少し高めの会費でチャレンジしています。まだ日本ではオープンして間もないため、今後の動きが注目されます。 -カーブスのようなサーキットトレーニング形態を持つ小規模スタジオは、日本に根付くでしょうか? 古屋さん カーブス同様のモデルを試みるスタジオは、既にいくつかあって、その中には成功裡にビジネスを進めているところもあります。 例えば、福岡にあるビーラインというスタジオは、アメリカのイットフィギュアズというところをモデルにしています。こちらは、独自のオペレーションノウハウを確立していて、さらにフランチャイズに対する事業主の負担が軽いという点で、今のところ優位にあります。 他には、ABCクッキングスタジオの子会社が展開している、ボディーズというスタジオもありますね。こちらは、クッキングスタジオに隣接する場所にあるという立地における優位性を活かしています。

-では、次のキーワード「内」について教えていただけますか?

古屋さん これには、二つ意味があって、一つは、ヨガやピラテス、バレエといったように、からだの内側の筋肉、いわゆる深層筋を鍛えるものが増えてきているということです。もう一つが、からだの内面、心ですね。癒しをキーワードに、スパやマッサージを併設しているフィットネスクラブが増えてきています。 これらは、安心感を与えるものとして高齢者の方々に人気です。

-なるほど。続いて、「協」は、どのようなものでしょう?

古屋さん コラボレーションのことです。フィットネスクラブがコラボレーションする相手は、3つのカテゴリーに分けられます。 一つめは、医者。スポーツプレックスなどがとっているビジネスモデルですね。 二つめは、自治体。2006年は、指定管理者制度導入期限(公共施設の管理を民間業者へ移行し、住民サービスの向上と運営の効率化を図る制度)の最後の年ですから、この制度を本格的に利用するフィットネスクラブが増えてくると思います。 そして、三つめはその他ですが、これは、学校、企業、商店街、介護事業者、各種団体、メーカーなどと行うというものです。

-何か具体的な例はありますか?

古屋さん 海外の例となりますが、フロリダ州のゲインズビル市にあるフィットネスクラブで商工会議所とそこに所属する企業とのコラボレーションを行っているクラブがあります。 これは、そのまま医療費の削減や労働生産性の向上にもつながりますし、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の推進にもつながります。また、それがマスコミに取り上げられることで、クラブのPRにもなり、集客につながります。フィットネスクラブが、地域の健康の拠点となる自然な流れができるでしょう。 日本でいうと、関西地区でKMF(京阪メディカルフィットネスネットワーク)というコラボレーションが行われています。これは関西医科大学と付近のフィットネスクラブが連携して、運動療法の普及や、トレーナの育成をしているものです。

-では、「楽」について教えてください。

古屋さん これは、「楽しんでフィットネスを行って貰いましょう」ということです。楽しくないと、人はやらないし、来ないし、続かないですから。季節性を持たせたり、イベントを行ったりすることが重要なのです。大きい意味では、エクスペリエンス(経験価値)の高いクラブにしなければ、いけないということです。 面白い取り組みとしては、メガロスが行っている「青春学校」っていうプログラムがあります。これは、フィットネスに関する授業を楽しく行う座学と、実技、そして、卒業式までを一貫してイベント仕立てで提案するんです。座学では、始めと終わりにチャイムが鳴り、フィットネスクラブのトレーナーが先生風の格好をして行うんですよ。

-「個」については、どうですか?

古屋さん パーソナルトレーナーのことです。現在のプログラムは、グループエクササイズが主流です。もちろん、これも大切なのですが、優れたトレーナーによるパーソナルトレーニングについても、各々のフィットネスクラブがその質を競う時代に入ってきていると思います。ピラテスやペアストレッチ、またダイエットなど目的別の少人数のトレーニングなどが、プログラムとして提供される例ですね。

-これが、「人」のキーワードにもつながるのでしょうか?

古屋さん 「人」のキーワードについて、私は「IT」が重要だと思っています。これは、情報技術のことではなくて、「愛」と「手」なんですけど(笑)。これからは、ますます皮膚感覚のサービスが大切だと思っていて、人との触れ合いを重要視したプログラムやイベントとかが増えると思います。 アメリカで、ヨガなどのオリエンタル系への傾斜がぐんと強まったのは、あの9.11以降で、それらが人々の心のケアやストレスに対応したということもあったと思います。そういう心のケアも「愛」「手」につながっているのではないでしょうか。

-それでは、「若」というキーワードは?

古屋さん これは、ズバリ「高齢者より若者をマーケティングせよ」ということですね。高齢者は、やりたいと思えば何もしなくても、自然とフィットネスクラブに通ってきますし。それならば、アンダー25くらいの年齢層をターゲットにしてみよ、ということです。この中には、フィットネスクラブで働く(若い)者の従業員満足度を向上させるという意味も含まれています。 まぁ、確かに、高齢者は豊かで、若者は貧しいという構図もありますので、高齢者向けマーケティングへ偏るのも分かりますが。

-今、子どもの運動についても、話題になっています。先ほど、アンダー25という数字がありましたが、それよりもさらに若い、子どもという観点ではどうでしょうか?

古屋さん 確かに、欧米でもフィットクラブというプログラムがあって、対象年齢を2歳〜4歳、4歳〜6歳というように分けてプログラムを提供しているのですが、たいへん人気が出てきています。日本でも、2005年は、フィットネスクラブが行っている各種スクール事業への子どもの参加者が増えました。 日本もエンジェル係数という言葉があるくらい子供に費やす費用は大きいものです。ただ、子供に対する運動や体操教室は、経験が乏しい企業がするのには少し難易度が高いビジネスといえるかもしれません。子供たちは、運動は喜んでやるけど、その背後にいるご両親の満足を得なくてはなりませんし、安全管理も万全にしなくてはいけませんからね。

-では、「地」とはどういう意味なのでしょう?

古屋さん 地域密着、地道な啓発活動の「地」です。これを私は、EDHPと表現しています。エブリディヘルスプロモーションの略ですね。 地域への日常的な健康増進啓発活動がより大切になってくるということです。エリアマーケットに対して、日々、日常的な健康づくりを訴求していくこと。これが、フィットネスクラブが生き残っていくために、より大切になってくると考えています。

-「絞」について、お聞かせください。

古屋さん これは、コンセプトやターゲットが大切だということです。フィットネスクラブのスタンスとして、「これならうち」、「これがうち」というものをしっかりと持たなくてはいけないということですね。今は、情報量がとても多い時代ですので、きちんと絞りこまないと、メッセージが相手に伝わらないことがあります。コアニーズをいかに抽出するかが重要です。

-では、最後のキーワード「体」について教えてください。

古屋さん 今のフィットネスクラブって、「ウェルネス」という曖昧な言葉に逃げているところがあるように思うんです。それ以前に、きちんと「フィットネス」を追求する必要性があります。ハードの部分に関しては、ある程度整っていても、ソフトの部分で勉強不足であることが多いですね。マシンの使い方をちゃんと説明できなかったり、疾病に関する知識もまだまだだったり… 勉強が足らないのではないかと思うことがあります。あえて業界に苦言を呈しておきます。

-10のキーワードについてご説明ありがとうございました。では、国の動きとしては、どうでしょう。アメリカなどでは、Get Active Americaというようなスローガンを掲げているようですが…

古屋さん そうですね。Get Active Americaというような動きは、まだ日本にはないですね。今のところ、「敬老の日にフィットネス!キャンペーン」くらいでしょうか。 ただ、厚生労働省などは、「1に運動、2に食事、しっかり禁煙、最後にクスリ」というスローガンを掲げて、運動を推奨しようとしていますよ。

-そうですか。では最後に、古屋さんのお仕事についてお伺いさせてください。運営されているポータルサイト「フィットネスオンライン」について、現在と今後の展望などをお伺いできますか?

古屋さん 現在、試験的にトレーナー、インストラクター向けのSNS(ソーシャルネットワークサイト)の運営も始めていて、そちらの充実を図っています。トレーナーやインストラクターの求人、養成コースやセミナーの開催等を通して、彼らの安心をサポートしていきたいと思っています。 また、今後は、経営層の紹介や、トレーナーやインストラクターを派遣会社と提携しながら派遣する事業も検討してみたいと思っています。

-最後に、御社の今後の取り組みについて教えていただけますか?

古屋さん サービスの充実としては、現在、チラシや企画書に使えるようなフィットネス関係のイメージ画像の販売を行っています。ASPで行っているサービスなのですが、年間3万6千円で、画像を自由に使っていただけるというもので、その画像も2ヶ月に1回、入れ替えます。フィットネスクラブ向けに行い始めたサービスなのですが、意外と広告代理店の方なんかにも、ご利用いただいているんですよ。 その他には、フィットネス市場として、フィットネスグッズや機器の販売も行っています。 また、今後は企業のPRの場として、PR市場というサービスを行おうとしています。ニュースリリースの配信なのですが、お寄せいただいたニュースリリースを、500ほどのマスコミの担当者に一斉配信をしようと思っています。当社が原稿をリライトして、配信するので高い効果が期待できますよ。

-本日は、お忙しいところ、ありがとうございました。

■取材を終えて

今回のお話で改めて感じたことは、ファーストトライアル(きっかけ)とモチベーション(継続)の重要性。10のキーワードは、そのためにフィットネス業界で起こっている様々な工夫です。これらは、健康ビジネスにおける他のマーケットにおいても、十分応用可能なはずです。
今回のビジネスキーワード
ブルーオーシャン戦略、エクスペリエンス、コラボレーション、地域密着、運動、癒し
[ インタビュアー:脇本和洋 ]