2011.10.05
ブラザー工業株式会社
JOYBEATプロジェクトリーダー 武田 薫 氏
プリンタ、複合機やミシンなどのメーカーとして認知されている
ブラザー工業株式会社。モノづくりの1つの形として、1992年にグループ企業である
株式会社エクシングが設立され、画期的な通信カラオケシステム
『JOYSOUND』を開発した。ブラザー工業では、その『JOYSOUND』で培ったエンタテイメント性を活かし、ヘルスケアにおいても、より楽しく運動してもらうレッスンシステム『JOYBEAT』を開発した。すでにフィットネスクラブに導入が進んでいる
『JOYBEAT』の企画、開発からプロモーションまで手がけるJOYBEATプロジェクトリーダー 武田薫氏にお話を伺った。
武田 薫[ たけだ かおる ]
1978年慶応義塾大学卒業後都市銀行に勤務。その後いくつかの転職を経て2007年ブラザー工業の新規プロジェクトであるJOYBEAT事業に参画しプロジェクトリーダーを務める。学生時代は陸上競技の選手としてスポーツに深く係わり、また銀行の融資担当や老舗旅館の支配人を勤めた経験を生かして事業成功を目指している。
なぜフィットネス向けのツールを開発したのか?
2009年に『JOYBEAT』という、バーチャル映像によるトレーニングサポートツールが登場した。
ブラザー工業はもちろん、ブラザーグループとしてフィットネス業界に初めての参入。
『JOYBEAT』はまったく新しい取組みだった。
「まずは開発の経緯ですが、2つの点があります。
『JOYSOUND』で培った技術やコンテンツ(カラオケの音源)を活かしたいと思っていたこと。もう1つは社内の新規事業展開として『健康』がテーマになっていたことです。
『JOYSOUND』のコンテンツを活かすことでは、音楽と3Dアバターを組み合わせたダンスなど、新しい楽しみ方を研究していました。一方『健康』に対しブラザー工業としてどのように取り組むか調査、検討してきました。当時は団塊の世代が定年を迎え、高齢者も増えていくだろうと言われていた頃で、そのような方々に末永く健康でいてもらうための提案をしたいと考えたのです。
どのような形で参入するとよいか、いろいろ検討する中で、フィットネスクラブの年間退会率が高いことを知りました。フィットネスクラブではすでにいるお客様に楽しんでもらうためのものは充実していましたが、初心者、特に高齢者には敷居が高く、定着率が低かったのです。そのような初心者に向けて、何か提供できないかと思い、音楽とダンスを組み合わせた研究を生かすことになりました。
もちろん、自分達で施設を作って独自のサービスを提供することも考えましたが、やはり需要があるところからスタートするのが望ましいと思い、フィットネスクラブで活用できるものを開発していきました。
コンテンツ開発ではすでに研究していたとはいえ、最初は大変でした!ヨガやエアロビクスの先生に協力いただき、モーションキャプチャーを付けて、3Dの動きを作っていくことからはじめました。本当に手探りでしたね」
市場導入から約2年、見えてきたこと
人が教えて当たり前とのイメージがあるフィットネスクラブでどのように受け入れられたのだろうか?
「最初、フィットネスクラブの方々にデモを見せたところ、やはり人がやるべきものだろうという意見がありました。人と人とが一体になってやるものだという固定観念があったようです。しかし『JOYBEAT』は人の代わりに画面に合わせて勝手に運動しなさいといったものではなく、画面を見ながら運動している会員の方を、インストラクターが個別に指導することができます。今までのスタジオプログラムでは、個別に指導するのが難しく、初心者や高齢者には、なかなかついていけなかったのですが、インストラクターが順次個別にアドバイスすることで、理解とやる気を高められます。実際に使ってもらうと、3Dだから嫌だといった意見はありませんでした。3Dならテンポが変化したときの動きなどに違和感もでませんので、動作に集中できるのではないかと思います。
またスタジオプログラムを作りたくても、人材不足で困っているフィットネスクラブも多くあります。『JOYBEAT』なら毎月コンテンツが更新するので、常に新しいプログラムを提供できます」
スタッフ側も使いたいと思うものでなければ継続利用にはつながらない。現場ではどのように使われているのだろうか?
「『JOYBEAT』は、曲と動きを自由に組み合わせられるのが特長です。すでに発表から2年経ちますので、導入したフィットネスクラブごとに個性的な使い方をしてもらっています。例えば80年代に流行った曲や演歌で統一しようとか。同じコリオ(振り付け)でありながら、独自のレッスンを作っています。中にはコリオを自分なりにアレンジしたい方もいますので、我々が作業用で作るツールを開放しています」
今後の展望
ブラザー工業のイメージといえば、昔はミシン、今はプリンタや複合機などの機器である。今後は「ブラザーと言えば健康も」とイメージされることを目指したいと武田氏。現状はフィットネス向けでの展開だが、今後はどのようなコンテンツやサービスが提供されるのだろうか?
「今までは運動がしたいと思っている初心者を対象としてきましたが、高齢者に向けた取組みもスタートしています。
セントラルプライムプラザ ラフレさいたまという介護予防施設があり、そちらに機器を貸出して、介護用の運動プログラムとして使っています。今はセントラルスポーツ様と試験運用的な位置付けで、今後は、より適したコンテンツを検討していきたいと思います。
他にも議論していますが、幅広く提供できることを考えたいです。そのためには『JOYBEAT』だけではないと思っています。もちろん軸にはなりますが、多くの人に健康行動を楽しんでもらえるものを提供したいです」
『JOYBEAT』は売りっぱなしの商品ではない。毎月の更新のために1コンテンツの制作にかなりの時間を要しているという。健康行動はどう継続させるかがキーになるが、そうした点を踏まえたサービス体制が作られているといえるのではないだろうか。今後、多くの人々に継続しやすい健康サービスを研究、開発し続けてもらいたい。
[ 取材日:2011年8月9日 ]