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2008.10.17 日本ケロッグ株式会社 広報室 課長/栄養・PRマネジャー/博士 (栄養学)  井出 留美 氏

現在、ダイエット食品は商品を売るだけでなく、継続することで効果を上げる仕組みとして商品と連動したインターネットサービスも多くなってきている。そんな中、シリアル販売大手のケロッグではユーザーに適したダイエット方法の紹介と毎日のメールによる励ましを行う「2週間チャレンジ」というサービスにより、2週間をワンサイクルとした食習慣の改善への取り組みをサポートしている。広報室の井出さんに、日本ダイエット市場におけるシリアルの可能性についてお聞きした。
井出 留美[ いで るみ ]
奈良女子大学家政学部食物学科卒業。ライオン(株)家庭科学研究所入社、スキンケア製品評価としみ・しわ等皮膚老化研究。1994年、JICA(国際協力機構)青年海外協力隊員としてフィリピンへ。1996年帰国、1997年、日本ケロッグ(株)入社。 2001〜2006年の5年間、女子栄養大学社会人大学院で栄養学を学び、修士課程、博士後期課程修了。シリアルが肌や腸内環境に良い影響を与えるテーマを研究。講師としても活躍中。

日本におけるシリアルの位置づけの変遷

発売当初の子供向けのおやつとして栄養補助の役割を担ってきたシリアルだが、健康志向の高まりや少子化を受けて、ターゲットに変化がみられるようになった。 「ケロッグでは、すでに1980年ごろから、玄米などの健康によい素材を使った製品を発売し『食事』として提案、ターゲットを子供だけでなく、大人へもシフトしてきました。スーパーなどでも、それまではお菓子売り場に置かれていたものが、パン売り場の近くにも並べられるようになるなど、市場全体の意識も変わってきたようです」と井出さん。 ケロッグでは世界各国で、さまざまな取り組みをおこなっており、その成功例を各国で共有する仕組みがある。シリアルがすでに食事という位置づけになっていた海外での事例は、日本においても有益な情報源だった。

「2週間チャレンジ」導入の背景と結果

2000年代に入って、イギリスケロッグで『2ウィークスチャレンジ』というキャンペーンが実施される。「2BOWLS 2MEALS 2WEEKS(2杯のシリアルを1日に2回、2週間続けよう)」というもの。これが予想外の好評だったため、各国のケロッグでも次々に導入され、TVCMやウェブサイトを通じて広くPRを行うことにより、参加者を増やしてきた。 日本ケロッグでも2005年から『2週間チャレンジ』キャンペーンを実施。同時に、米と小麦から作られた『スペシャルK』という商品を発売した。 「『2週間チャレンジ』はその国のユーザーのニーズにあわせて、また法規制などを考慮して様々な形で実施されました。日本では、食事・運動・睡眠という3本柱を設定し、健康的な生活習慣を取り戻すために『2週間チャレンジ』を取り入れましょうという内容になっています。ケロッグは食品会社ですが、商品を売るだけではなく健康や栄養に貢献する研究や啓発活動に力を入れていくというのが創業当時からの考え方であり、商品開発段階から生活行動全体を視野にいれています。そのため単なる商品PRではなく、生活習慣にまで踏み込んだ提案は、日本ケロッグとしては当然の考え方でした」

「飲むだけダイエット」など他社製品との相違点

一定期間、食事を規定のものに置き換えるダイエットといえば、ドリンクタイプのものが真っ先に思い浮かぶが、井出さんによるとシリアルとそれらとの一番大きな違いは「咀嚼」だという。 「咀嚼の効用は色々ありますが、なかでもダイエットにおいて満腹感を得られるというのは大きなメリットです。ドリンクタイプだとどうしてもあまり食べた気がしないのでお腹が空いてついつい挫折しがちですが、米と小麦を使っている『スペシャルK』は噛み応えがあり、牛乳などを加えてもさくさく感が残ります」 さらに、近年次々と話題になる新素材を使わず、食経験の歴史の長い素材を使うのも、ケロッグの特徴だ。 「日本の場合、ひとつの食品でダイエットするというのが非常に多いのですが、結局それらの食品が市場に根付くとは限りません。一時的なブームになって市場がかきまわされて、ブームが過ぎた後はかえって市場が小さくなりかねません。『スペシャルK』はそういう一過性のものとしてではなく、食生活の中で長く取り入れてもらいたいと思っています。そのため原材料として使用しているのは米、小麦のほか、過剰摂取の心配がいらないビタミンB群と、ダイエット時に不足しやすい鉄、カルシウムなど毎日食べ続けても問題がないものばかりです」

2週間でいかに効果を実感させるかが継続のカギ

安全性についてはかなり配慮がされている『スペシャルK』だが、その反面、素材がシンプルだけに、ユーザーにその良さをわかってもらう仕掛けが必要になる。 「まずは2週間と期間を区切っているのは、この商品を試してもらうきっかけづくりという意味もあります。いきなり1ヶ月というのはハードルが高いけど、2週間ぐらいならなんとか続けられるのではという人も多いのではないでしょうか。また、ケロッグの臨床実験データによると、なんらかの効果が出る期間がちょうど2週間ぐらいなのです」 この期間に明らかな効果を実感できたユーザーは、継続してその商品を購入し続ける傾向が高いと考えられる。つまり、いかにこの時期にしっかりと生活改善に取り組ませるかが、ポイントになってくるのだ。 「ダイエットは1人でやっているとどうしても挫折しがちです。そのため、ケロッグのウェブサイトから『2週間チャレンジ』にエントリーしたお客様には、応援メールが毎日届くようにしました。また、同じくエントリー中の人がどれくらいいるのか、前日食事に気をつけた人の数、前日エクセサイズを頑張った人の数というように具体的に数字を出すことによって、仲間の存在を意識できるような仕掛けもつくっています」 さらに、実況中継としてコメントを投稿することで自分の頑張りをアピールできたり、他人と競い合ったりと、『2週間チャレンジ』がメインターゲットとしている20〜30代女性が楽しみながら続けられるような工夫もされている。 ユーザーのコメントを見ると「体重が減った」「体型が変わった」にとどまらず、「体脂肪率が減った」「肌の状態が良くなった」「朝ごはんを食べる習慣がついた」「便通が良くなった」など様々なことを効果としてあげている人が多い。

今後の展開

現在『スペシャルK』は発売後売り上げを伸ばしており、日本においても『2週間チャレンジ』の取り組みを更に拡大させようとしている。 「実際、様々な研究データからも穀物中心の食生活が体重・体型管理に有効という結果は出ているので、いたずらに派手なイメージ戦略を行うことはこれからも考えていません」という井出さん。 「ただし、脂質の高い食事をしている欧米人と違って、日本人はもともと毎日の食事の中で脂質摂取量が多いわけではないため、劇的に変化が現れるということがなかなかありません。そのため、すぐに目移りして新しいものに飛びついてしまう傾向があるのも否めないのです」 そこで、食習慣の中で無理なく楽しく取り入れてもらうためには、「美味しさ」や「目新しさ」も必要だと考え、商品のラインナップを増やしていくことも検討しているという。 「『スペシャルK』は発売当初はプレーンタイプ1種類でしたが、2007年の2月にビスケットタイプのものを発売しました。アイテムが増えることによって、朝ごはんにはシリアル、おやつにはビスケットと、取り入れてもらうシーンが増えました。さらに、2008年にはレッドベリー味が発売され、より選びやすくなったと思います。フランスでは『スペシャルK』シリーズは11種類。チョコレートだけでも4種類もあります。今後もより消費者の嗜好に合った味の商品を発売していくことで、飽きずに食べ続けてもらえる環境を作っていきたいと考えています」

取材を終えて

「体重を落とす」ダイエットだけではなく、痩せすぎの方への対応、ダイエット後のリバウンド防止、また太りにくい体質を作るということを含めた広い層を、心身ともに健康な生活を送るための生活改善という大きなくくりで取り込んでいるケロッグ。多くのユーザー層にその価値を届けてもらいたいと感じた。 [ 取材日:2008年10月3日 ]