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2006.04.11 快眠コンサルタント 岩田 アリチカ 氏

今回は、快眠コンサルタントとしてご活躍中の岩田アリチカさんです。快眠に関わる様々な企業とのコンソーシアムにおける取り組みや心地よく「眠る」ための秘訣などをお伺いしました。
岩田 アリチカ[ いわた ありちか ]
1983年家業である京都の老舗寝具メーカー入社。88年より独学で睡眠の研究を始める。94年睡眠環境のアドバイザーの養成を目的とした「睡眠環境塾」を主催。02年日本初眠りのセレクトショップ・スリープケアショップ開店。03年睡眠に関わる7社と共に快眠コンソーシアムのスタート。04年日本スリープケア研究会発足。06年学識経験者と共に日本睡眠改善協議会発足。自然派高機能寝具メーカー  株式会社イワタ 代表取締役社長、眠りのコンサルティング会社 有限会社アウェイク 代表取締役社長、眠りのセレクトショップ・スリープケアショップ代表、日本スリープケア研究会代表、睡眠環境塾主宰 、ねむるねっと主宰、日本睡眠改善協議会評議員など幅広く活躍。

-まず、睡眠の研究をしようと思ったきっかけについてお伺いできますか?

岩田さん 弊社が製造する寝具の新作発表会でのことだったのですが、当時、新入社員だった女性に「今年の新作って、どれですか?」と聞かれたことがあります。 新作発表会でのことだったので、出展しているものはすべて新作だったのですが、「寝具って、柄が変わると新作になるのですね」と言われてしまいました。もちろん、柄とか色とかではなく、素材や中身も変わって新作となっていたのですが・・・ その時に、寝具メーカーでありながら睡眠のことを知らずに、ただ布団を売っていたことに気が付いたのです。そこから睡眠そのものを学び、生活習慣や睡眠環境の提案を行いたいという思いが生まれてきました。

-なるほど。では、どのようにして睡眠の研究をされてきたのでしょう?今でこそ、睡眠に対しての関心は高まっていると思いますが、当時はなかなか難しかったのでは?

岩田さん 異業種交流会でたまたまお隣にいらした方のご主人が睡眠の研究をされている方で、ご紹介いただいたというのが大きいです。そのご縁から日本睡眠学会に入会させていただいて、睡眠そのものについて深く学ぶことができました。

-では、現在の岩田さんの取り組みについて教えていただけますか?

岩田さん そうですね。まずは、日本睡眠改善協議会(以下協議会)についてお話しますね。実は、今日が協議会の主催する第1回目の睡眠改善指導者検定の講座でした。

-そうですか。日本睡眠改善協議会はどのような方々の組織なのでしょう?

岩田さん 協議会は睡眠に関する学識経験者と睡眠関連で市場創出を目指す異業種企業からなる「快眠コンソーシアム」が協力して、2006年1月に発足しました。「快眠コンソーシアム」に参加しているのは、エスエス製薬、グンゼ、太陽化学、パラマウントベッド、松下電工、ロフテー、と弊社、イワタです。

-岩田さんが主催されている「睡眠環境塾」の睡眠環境アドバイザーとは、違うのですか?

岩田さん 睡眠環境アドバイザーは、まず私にできることからと思いまして、寝具店が睡眠について学べる場として「睡眠環境塾」を開設し、そこで学んでいただいた方を認定していこうと始めたものです。 寝具店が、寝具をお客さまに提案する時に必要な、睡眠の科学、睡眠環境や寝具素材の知識などを修得していただいています。現在は、150名ほど認定されています。

-では、協議会が運営している睡眠改善指導者についてお伺いさせてください。

岩田さん 名前の通り、睡眠改善の手法を指導する者ということで、科学的事実に基づいた正しい睡眠に関する知識の普及と、睡眠に関して不満を持つ人それぞれにあわせた指導ができる人材の育成を目指しています。 検定は、初級、中級、上級と3つの種類を作ろうとしているのですが、今回は、第1回目ということで、初級にあたるインストラクターを養成する講座でした。協議会に評議員としてご参加いただいている、睡眠に関する各分野の第一人者の方々から、それぞれの基礎となる知識をレクチャーしていただき、最後に認定試験が行われます。 今回は、企業のマーケティング担当者、商品企画担当者、販売員、執筆家、宿泊関係者などが参加されていたようです。

-なるほど。今後、どのような方々の受験を想定されますか?

岩田さん 個人的には、企業の方だけでなく、介護士、教育関係者や養護教員、幼稚園の保育士などにも広がれば良いと思っています。 というのも、最近、高齢者や子供の睡眠問題が深刻になってきているからです。 国民の3人に1人が睡眠に不満を感じていると言われていますが、高齢者の場合は2人に1人とも言われています。 さらに、子供の寝不足というのは、かなり深刻になってきていて、高校生、中学生はもちろん、小学生の高学年くらいから「よいっぱり」の習慣があるといわれ、今では、幼稚園児の睡眠までもが問題視されています。3歳児で10時以降に睡眠をとる子は50%を超えるという調査結果もでているようですよ。

-そんなに深刻なのですね。では、子供の睡眠に対しては、どのような取り組みが考えらるでしょう。

岩田さん 子供の夜更かしや睡眠不足は、「イライラ」や「成績の悪化」にもつながります。家庭における生活習慣の指導が主となりますが、教育現場での取り組みや学習塾での取り組みなどを検討するといいかもしれません。 現在のように、共働きの家庭が多く、仕事の都合で親の帰宅時刻がどうしても遅くなってしまうような社会情勢では、子供の睡眠時間を正すのも、なかなか難しい状況ではあるのですが・・・

-確かに難しい問題ではありますね。

岩田さん このような習慣を持った子供たちが大学生になると、睡眠時間帯が極端に後退したり、昼夜逆転のような生活になったりします。大学を卒業して社会人になっても、生体リズムが戻らないと5月病につながったりもするのです。

-社会全体が夜型化してきていますね。

岩田さん 24時間勤務体制を取る事業所は全体の15%以上だと言われ、就労者のおよそ7%が夜勤や交代制で働いているのだそうです。ですから、近年では、労務管理における睡眠問題も発生しています。睡眠障害に関連する産業事故も何件か起きているので、記憶に新しいかと思います。アメリカでは、夜勤者の労務管理を専門とするコンサルティング会社もあるくらいです。 一方で、労務管理に睡眠を取り入れようとする取り組みに、無呼吸症候群の有無の検査などがあるのですが、チェックすることで逆に就業の機会を失うことになるのではないかといった弊害も憂慮されています。 人間の体は、24時間より少し長い周期で回るように出来ていること、そのことから睡眠時間帯を夜更かしする方向へずらすのは、比較的簡単にできてしまうことを伺いました。 また、そのリズムを24時間にリセットする手がかり(同調因子)としては、「光」の働きが大きいこと。特に、朝の光を浴びることが同調因子として大きな働きを担っているとのことです。そのほかに、約2時間のリズム、約12時間のリズム、約1週間のリズム、約1か月のリズムなど、人間はいくつかの生体リズムを持っているのだそうです。

-では、続いて先ほどお話にありました快眠コンソーシアムについて伺います。近年盛んに行われている協業スタイルのコンソーシアム形式の中で、継続して活動されているコンソーシアムだと思うのですが、その秘訣などありましたら、教えて下さい。

岩田さん うまくいっているかどうか、まだまだ活動として模索中なところはあるのですが。大きく2つあると思います。 まず、睡眠に関して、科学的根拠の裏づけを持って活動しているということですね。科学的な部分で基本がしっかりしているといいますか、根幹の部分をしっかり持っているグループだと思っています。 そして、もう一つ私が感じるには、コンソーシアムに参加する企業が、人間そのものへの思いやりを持って参加しているということでしょうか。もちろん、企業の集まりですので、利益の追求は行わなくてはならないのですが、利益だけとか、一過性の取り組みではなく、長期的に「快適な睡眠を提供する」というビジョンを持っていることだと思います。 それぞれの取り組みが末梢部分だけへのこだわりだと本当にめざしたいものは何なのかがわからなくなってしまいます。上記二つの共通認識を参加企業が持てたというのがよかったのだと思います。

-なるほど。本気で睡眠対してアプローチするかという思いが大切ということでしょうか。岩田さん自身は、具体的にどのように睡眠に対してご提案をされているのでしょうか?

岩田さん 先ほども触れましたが、基本的には科学的根拠のある事実を元にして、その提案を行うようにしています。伝承的な事柄については、「科学的な根拠はないけれども」という前提を伝えながら、話すようにしています。 それから、睡眠の問題は人によって生活習慣や環境などのバックグラウンドが違いますので、それを尊重しながら、できることから少しずつ変えていただくように助言しています。

-快眠をビジネスとして捉える場合、「眠れない人にアプローチしていくのか」や「よりよく眠りたい人にアプローチしていくのか」など、どのような領域で関わるかということが難しいと思うのですが・・・

岩田さん 快眠ビジネスを行う場合は、まずは「医療か」「非医療か」ということで線がひかれると思います。その状態に病名がついているかとどうかを考えると判断がしやすいのではないでしょうか。 非医療の部分が快眠ビジネスで取り扱える分野になります。具体的には、「生活習慣の指導」と「睡眠環境の整備」ですね。医療の分野とこの2つを組み合わせてアプローチされる場合もあると思いますが、医療と快眠ビジネスは現状では分けて考えた方が良いでしょう。

-非医療の分野で、とのことですが、快眠について考えた場合、その領域は、食事、運動、ストレス、メンタルな部分など、とめどなく広がっていくように考えてしまいます。

岩田さん 睡眠は食事、運動、ストレスなどによっても左右されます。睡眠の改善は、眠っているときだけを良くしようとしてもうまくいきません。大切なことは、一日のメリハリをしっかりして、生体リズムをきちんと整えることだと考えています。 そのリズムを整えることで、ホルモン系、免疫・代謝系、自律神経系のバランスがよくなり、睡眠のトラブルも解決されると言われています。 そのようなことを考えると、まずは、生体リズムを整えるための同調因子への取り組みが、快眠のための一つのポイントとなると思います。

-なるほど。ではその同調因子に働きかけるために、大切な要素とは?

岩田さん まずは、光を調整するということですね。朝起きたら朝の光を浴びるとか。夜は、いつまでも人工的な強い光のもとで過ごすのではなく、寝るための光を準備するといったように。 また、寝具についても工夫が必要です。温度や湿度に気をつけるとともに、季節や個人差にも配慮する必要があります。 入眠前の緊張緩和には五感への働きかけも重要になってきますので、アロマといった香りのアプローチや音楽、リラックスグッズなども考慮する要素となります。

-先ほど、子供の睡眠についてお話を伺ったのですが、高齢者の睡眠についてはどのような問題があるでしょうか?

岩田さん 高齢者は眠れないとよくいいますが、まずは加齢とともに睡眠が変化することを認識していただくことが大切です。 高齢者は、若い人に比べると寝床で過ごす時間が長くなるのですが、なかなか寝付けない、また寝ても途中で目が覚めることが多いので、熟睡感が欠如してきます。そのようなことから睡眠に対する満足度が低くなりがちです。 こうした場合は、短い昼寝と夕方の軽運動をお勧めします。 昼間に長時間うとうとしたり、夕方に仮眠したりするのは、生体リズムの観点からよくありません。高齢者は、昼寝は昼食後〜午後3時までの間に30分ほど時間をとるのがベストです。ちなみに、成人では、10分から20分ほどの仮眠がちょうどいいとされています。 運動は夕方5時ごろに行うとよいでしょう。体温が最も高く、運動には望ましい時間帯です。もちろん、激しい運動ではなく、眠るための運動ですから、あまり負荷の少ない運動で結構です。高齢者は生体リズムにメリハリが少なくなっていますので、そのメリハリをつけるのが目的になります。

-なるほど。これだけいろいろな快眠術をご存知の岩田さんですが、岩田さん自身は実際の生活でどのようにその快眠術を実践されているのでしょう?

岩田さん 休日も平日もだいたい同じ時刻に起きるようにしています。私の場合は、基本的なメカニズムは理解していますので、自分に合ったものを取り入れています。 もちろん、寝具などは最適なものを使っています(笑)し、朝起きたら朝日を浴びて、水を飲んで、朝食をちゃんととるということは自然と習慣づいています。 たまに眠れないときがあっても、明日の眠りを準備しているのだと思って、さっと布団からでてリビングでくつろいでしまうとか。起きている時間が長ければ長いほど、その次の眠りには深い睡眠状態が長く出現するのであまり気にしないことです。 そして、睡眠不足のときには、お昼休みに椅子に座って10分ほど仮眠をとったりもしますよ。眠る前にコーヒーを飲んで。そうすると、目を覚ます頃にカフェインの目覚し作用が働きはじめるのでちょうどいいのですよ。

-では、最後に今後の岩田さんの取り組みについて教えていただけますか。

岩田さん まずは、寝具のメーカーとして、寝具についてもっと掘り下げた研究、商品開発を行いたいと思っています。そして、現在、運営中の快眠のセレクトショップをもっと広げていきたいと思っています。 また、様々な企業とのコラボレーションによる快眠のライフスタイル提案、睡眠ビジネスに関心がある企業に対するコンサルティングなども行っていきたいと考えています。

-本日は、お忙しいところ、ありがとうございました。

■取材を終えて

今回は、睡眠に関するテーマについてのお話をお伺いすることができましたが、岩田さんの「根幹から考える」「科学的なバックグラウンドをしっかり持つ」「顧客の睡眠改善を本気で考える」姿勢は、睡眠のみならず、健康ビジネスを流行ではなく今後もしっかりと根付かせるために、とても参考になる取り組みだと思いました。
今回のビジネスキーワード
生活習慣の改善、睡眠環境の整備、生体リズム、同調因子、根幹の部分から考える
[ 取材日:2006年3月16日 ] [ インタビュアー:脇本和洋 ]