Interview
2005.11.30
「ストーリー」を語って着実に共感を得るマーケティングっていいですね
2005.11.30 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 経営戦略第1部 高橋 千枝子 氏
高橋 千枝子[ たかはし ちえこ ]
-まず、高橋さんの現在の主なお仕事について、簡単に教えていただけますか?
高橋さん UFJ銀行のシンクタンクのコンサルティング部門にて、健康業界を中心に、小売りやアパレル、食品といった業界の顧客企業へのB to Cビジネスのコンサルティングを主に行っています。-健康業界(ヘルスケア業界)のコンサルティングの動向はいかがでしょうか?
高橋さん 10年程前から、ヘルスケアに関するコンサルティングの依頼は、少しずつあったのですが、ここ5年くらい前から特に多くなってきましたね。 企業の新規事業のアイデアの一つとして、10年程前は「介護をやりたい」という企業の方が多かったのです。それが「インターネットビジネスをやりたい」という要望に変わり、ここ5年で、「ヘルスケア」というご要望が多くなったという感じです。時代の流れなのでしょうね。-ここ5年ほど、ヘルスケアに関する依頼が多いとのことですが、最初のころのヘルスケアビジネスと、最近のヘルスケアビジネスとで何か変化はありますか?
高橋さん そうですね・・・ 5年前は、誰もが入手できる健康素材を単に商品化して売りたいという依頼が多くありました。今は、独自素材の商品化を行うとか、健康商品ではなく健康サービスの販売、つまりサービス化の依頼が多いですね。 誰もが入手できる健康素材の商品化だけでは、売れない時代になっているのだと思います。新しいビジネスを提供する際の成功するポイントが変わってきているのでしょう。-なるほど。では、これからの健康ビジネスのポイントについて、お伺いしたいと思います。ご自身のレポート 「次世代型の健康ビジネスモデル」で、次世代型健康ビジネスのポイントの一つとしてあげている、「目標達成型のビジネスモデル」について、教えていただけますか?
高橋さん 目標達成型とは、「3ヶ月以内に5kg痩せる」とか、「半年以内に禁煙を成功させる」といった明確な目標達成を支援するものです。願いが叶うことで、効果を実感すると継続性も高まるため、リピートのための一つの手段にもなります。 今、プロモーション費用さえかければ、ある程度のファーストトライアル(トライアル購入)を得ることはできるのですが、続けさせるということが大変難しくなっています。無くなると困るというものではないからです。夏前になるとフィットネスクラブとかに通い始める人は増えるけど、効果が実感できなければ、あまり続かないとか。 先日、友人がトータルワークアウト(肉体改造を行うジム)へ通い始めたのですが、3週間の目標達成のためのプログラムが決められ、苦しみながらでも目標をちゃんと達成しました。「苦しみながらではあるけれど、きちんと目標をクリアできる」というところが、逆に快感になってしまうようです。このように、続けさせるために、「なくなったら困るもの」とさせる必要があるのではと思っています。-そうなると、目標の設定が、難しそうですが、何かアドバイスいただけますか?
高橋さん 目標には、3つのカテゴリがあると思っています。それは、「外見の目標」、「内面の目標」、「心の目標」です。 現在の健康業界では、「外見の目標」を訴求したものが多いようです。例えば、体重が○kgになるとか、この洋服が着られるように体を引き締める、といったように。これからは見た目が5歳若返るというのも外見の目標になるでしょう。 一方、「内面の目標」と「心の目標」は、まだビジネスとしては未成熟な部分があります。-では、まず「内面の目標」は、どのような目標になるといいのでしょうか?
高橋さん なにかしらの健康値を利用するか、感覚の部分に訴えるものになるでしょう。例えば、「何となく目覚めがいい。」というように。内面的なことを法律や規制に触れないスポットをあてて、症状別に訴求するのです。 この時に、「総合的に」という目標はNGで、顧客の期待している特定ベネフィットにフォーカスした目標を設定しなくてはなりません。総合、トータルというキーワードは一見聞こえはいいのですが、顧客が期待している特定の目標に絞り込むことが難しいのです。-続いて、「心の目標」を訴求するにあたって、気をつけることはどのようなものですか?
高橋さん 「心の目標」とは、一人一人の状況に合った自分なりの心の支え(心の平静)を見つけることができるようにサポートしてあげることですね。 例えば、日常的に自分がリラックスできる方法や場所を見つけておいたり、過度なストレスを受けた時のために相談できる相手を持っていたり、また一生を通じて相談できるカウンセラーを持つようにするといったことも含まれます。この「心の目標」をサポートするビジネスはこれから拡大するでしょう。-目標の立て方にも、いろいろな工夫が必要ということですね。しかし、こういう目標達成型プログラムを実現するのは、手間のかかり消費者への提供価格が高くなってしまいそうですが、そのことについてはどうお考えですか?
高橋さん 今の時代、企業側も大きな投資をすれば、パーフェクトな目標達成型プログラムを確立、提供することはできます。投資規模が大きい分、当然のことながら利用料金は高額になってしまいます。消費者がそこまでのお金を払って、カスタマイズされたサービスを受けたいか、ということですよね。ですので、そのターゲットとする消費者のお財布とのバランス(値ごろ感)を見極めて、カスタマイズの度合いを判断しなくてはなりません。 企業がカスタマイズ化したサービスの開発を行った場合、オーバースペックである場合が多いのです。ターゲットとなる消費者が求めているカスタマイズのレベル、払ってもよい金額水準をよく把握する必要がありますね。-なるほど。「最適なカスタマイズ」がポイントとなるのですね。では、今後の健康ビジネスのポイントとしては、他に何か考えられるでしょうか?
高橋さん 「ライフスタイルの提案」があります。一般的なターゲッティングの手法で、男女別、年齢別、所得別などで顧客分類するデモグラフィックスという考え方があるのですが、健康ビジネスではあまりそれが通用しません。たとえば高所得者だから高額健康食品をよく買う、とは言い切れなくなってきました。 考えなくてはいけないのは、収入の多い少ないに関わらず、可処分所得の中で、ヘルスケアにかける割合が多いかどうかです。年収1000万円の初老の女性がアンチエイジングに月10万円かける場合も、年収300万の若い女性がアンチエイジングに月10万円かける場合もあるわけです。ここでは、年齢や性別や所得ではなく、「ライフスタイル(価値感)」が重要な要素になってきます。アンチエイジングに月10万円使う人達の行動様式や価値観を掴まなくてはなりません。-ライフスタイルを訴求するのは、難しそうですね。
高橋さん 訴求する手段として、マス広告だけに頼ると難しくなります。例えば、ライフスタイルにこだわりを持った人々の口コミ、イベント、本の出版なども必要となってくるでしょう。かなりセグメントしたプロモーションが必要になってきます。 ヘルスケアとは関係ないのですが、ライフスタイルを提案している会社として、「ハーレーダビッドソン」があります。ハーレーというバイクを売っている会社といえば、イメージがつくかと思います。しかし、この会社では、バイクを売るのではなく、「ハーレーダビッドソンをコアにしたライフスタイル」を売っているのです。ハーレーダビッドソンを購入することによって、どんな楽しい生活ができるのか、こだわりを持って消費者に訴求しています。言い換えればハーレー文化を訴求しています。-では、著書の「図解健康業界ハンドブック」の中に書かれていた「ストーリーを売る」についてお伺いさせて下さい。「ストーリーを売る」とは製品、サービスにあるこだわりを、消費者に伝えて共感を得ると言うことですよね。
高橋さん そうですね。「再春館製薬」さんや「やずや」さんはストーリーを上手く売っていると思いますね。お得感や割引率を訴求するのではなく、パブリシティを使って、ストーリーや理念をうまく訴求できていると思います。-では、そのような訴求方法を実現させるには、どのようなアプローチをとっていけばいいのでしょう?
高橋さん 私はよくストーリーを持たせるために、顧客企業に対して、消費者に「へぇ〜」と言ってもらえることを2つくらいあげて下さいとお願いします。そして、その「へぇ〜」と言ってもらえることを、著名人によって派手に広告するのではなく、会社の姿勢として地道にPRすることを提案しています。-「へぇ〜」と言ってもらえることを2つ上げるのは、意外と難しそうに感じます。
高橋さん そうでもないと思いますよ。ベネフィットを商品・サービスの機能、効果のみと考えるのではなく、例えば、本社の場所や、原材料の生産地(発祥の秘話、ルーツ)、社長のキャラクター(思い)、開発の経緯など、こだわりがあれば何でもいいと思います。-では、最後に、高橋さんご自身の健康づくりについて教えていただけますか?
高橋さん そうですね。しいて言えば、「無理をしない」ということでしょうか。睡眠も十分にとりますし、運動も程よくしますし、好きなものもちゃんと食べます。ただ、飲み過ぎたり、食べ過ぎたり、といったことはしなくなりました。何事もやり過ぎないようにするということですね。-本日は、お忙しいところ、ありがとうございました。