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2008.04.02 ソネット・エムスリー株式会社 取締役  中條 宰 氏

これまで医療や医師に求められてきたのは、病気やケガの治療であり、命を救うことでもあったが、最近では病気予防や健康管理、美容にまで広がっている。その一方で、医師を信頼できずに病院を点々とする患者や医療訴訟におびえる医師など、患者と医師の距離の拡大が問題となっている。 こうしたなか、患者と医師の距離を縮めるだけでなく、かかりつけ医へ相談する感覚で、医師に質問できるQ&Aサイト『Ask Doctors』が圧倒的な支持を受けている。有料でありながら、会員数33万4,000人(2008年3月時点、モバイルとYahoo会員、無料お試し会員を含む)、登録医師数1,785人(2008年3月現在)を実現し、2005年12月のサービス開始以来、24時間以内の回答率90%以上を維持している。
中條 宰[ ちゅうじょう おさむ ]
早稲田大学第一文学部(心理学)卒業後、株式会社リクルートにて求人情報誌事業企画、新規事業開発業務に従事。2003年ソネット・エムスリー株式会社に入社。医師向けのサイトプロモーション、新規サービス開発などに携わる。

役に立ちたいと考える医師と、迷い悩む患者をつなぐ

ソネット・エムスリー株式会社は、医療従事者向けポータルサイト『m3.com』を運営しており、現在、日本にいる医師の6割以上16万2,000人(2008年3月現在)が会員登録をし、情報収集や意見交換を行っている。今回紹介する『Ask Doctors』は同社の一般生活者に向けた新事業のひとつ。 健康をテーマにした新事業を模索していたとき、テレビ番組や雑誌などの一方向のメディアや、最新情報の掲載には比較的時間の必要な家庭向け書籍、医療機関といった従来のシステムでは、日常化、個別化する患者ニーズを満たすことはできず、その間を埋めるもののひとつとして「医師と患者をつなぐネットサービス」を思い付いたのだという。 「昔はどこの家庭でも『かかりつけのお医者さん』がいました。おじいちゃんからお孫さんまで、ずっとお世話になっている先生がいて、何かあればすぐに相談し、適切なアドバイスをもらうことができました。しかし、核家族化が進むに従い、かかりつけ医を持たない家庭が増え、いざというときにどこの病院へ行けばいいのかすら分からない。そこで、気軽に相談ができる『ネット上のかかりつけ医』というコンセプトを考えたのです」

質問と回答のバランスがサイト継続の鍵

新事業の構想にあたり、健康や医療に関するサイトを調べたところ、数はあるものの、ビジネスとして成功しているところはそれほど多くはないと感じたという。 「病院や薬の検索、病気の解説などが多かったのですが、似たような内容だったり、ビジネスモデルとして成立するかなど問題点が見えてきました。また、いちばんの人気コンテンツが相談コーナーなのに、ドクターの回答が追いつかず、閉鎖するケースもありました。我々には『m3.com』の会員ドクターがたくさんいる。質問と回答のバランスを保つという課題はクリアできるのでは?と思いました」 事業の立ち上げ時は期間限定のサービスとし、糖尿病に関する質問だけを受け付けることにした。『m3.com』に登録している医師数人に声をかけ、無償ボランティアで回答を頼み、2005年5月にβ版としての『Ask Doctors』をスタート。質問者であるユーザーはもちろん、回答協力医師からも高い評価を得て、同年12月、内容をさらに充実させ、有料サイトとして本格的な稼働を開始した」

医師とのやりとりで、悩みを解決へと導く

『Ask Doctors』は一部のQ&Aだけを閲覧できる無料会員と、有料会員(月会費315円)がある。有料会員になると、病名や症状などで分類された27のカテゴリで、月に3件まで新規の質問ができる。すでに100万件を超えた過去の投稿(質問、回答、コメント)を閲覧することも可能だ。ひとつの質問に対して、複数の医師が回答を寄せる場合も多く、セカンドオピニオンを求める会員も多いという。2週間以内であれば回答した医師へさらに質問もできるため、医師とのやりとりのなかで、不安や悩みを解消しやすい」 回答するのは『m3.com』の会員で、『Ask Doctors』のサービスに賛同した現役医師1,775人。質問に回答すると、会員からの評価に応じてポイントがつき、m3.com内で様々な商品と交換できるが、それはわずかなもの。回答の労力とくらべると、割に合わないのでは?と感じざるを得ない」 「困っている人を助けたいという気持ちが、いちばんのモチベーションになっているようです。また、自分の専門外の患者に対し、他のドクターがどんな風に回答するのかという点も確認できるため、『他のドクターの回答を読むと自分にとっても勉強になる』という方も多いですね」と、医師からの支持の要因を分析する」

運営のポリシー

サービスの軸は掲示板形式のQ&Aだが、コミュニティサイトとしての要素も強く、それゆえの問題に直面することも多いのではないだろうか?。」 「会員の方からの問い合わせやニーズに対しては精査して応じ、気持ちよく利用していただけるよう、気を配っています。運用基準やルールを常にバージョンアップしていくことは大変ですが、会員とドクターの双方が、居心地のよいサイトでなければ、継続できません。まれに暴言や誹謗中傷を書き込む方がいるのですが、ドクターや我々が対応する前に、他の会員の方がアドバイスのコメントをつけたり、規約違反の投稿を連絡してくれるケースもあります」 広がりを見せる顧客接点 2006年には携帯3社と提携し、EZweb(au by KDDI)、Yahoo!ケータイ(ソフトバンクモバイル)、i-mode(NTTドコモ)の公式サイトとしてコンテンツを提供。また、Yahoo!ヘルスケア(Yahoo!JAPAN)、OKWave(オウケイウェイブ)、STAGE(シニアコミュニケーション) 、So-net(ソネットエンタテインメント)、海外生活ほっとライン(日本エマージェンシーアシスタンス)などのWEBサイト、シャープのパソコンテレビ『インターネットAQUOS』のインターネットメニューにもサービスを提供し、いつでも、どこでも、誰もが気軽に利用できる身近な「かかりつけ医」的な存在を目指している。

今後の展開

『Ask Doctors』ではより多くの人にサービスを使ってもらいたいという目標のほかに、他の健康関連サイトへ豊富なQ&Aのアーカイブを提供するなど、アライアンス、コラボレーションを積極的に模索している。 「会員数も増えてきたので、今後はターゲットを絞ったアンケートやWEB座談会で意見を集め、それらを食品・健康系の商材を開発している企業へ提供する、といったサービスも考えていきたいですね。また、サイト上での相談だけでなく、病院を紹介したり、一般生活者だけではなく実際に医療の現場で働く医療従事者が病院を評価するなどの仕組みにもチャレンジしたいと思っています」と今後の抱負を語る。

■取材を終えて

新事業を開始するにあたり、現状健康サイトの課題を十分に分析し、自社の強みが生かせると判断。小さくスタートし、コミュニティ運営のノウハウを蓄積し、日本では数少ない有料課金での健康サイトビジネスを確立させている。今後様々な健康関連企業とのアライアンスを模索しており、さらにダイナミックなビジネス展開が行われると期待している。 [ 取材日:2008年3月17日 ]