北京オリンピックreport
今村貴幸 スポルツエグゼクティブアドバイザー
前回2004年のアテネオリンピックに続いて、今回の北京オリンピックも私がトレーナーとして接している選手の一人、金籐理絵が200m平泳ぎに出場しました(アテネ大会は今村元気が出場しました)。そのため、アテネの時と同様にコーチと二人で北京へ行くこととなりましたので、その報告をしたいと思います。
日本代表に選ばれている選手を輩出すれば、そのコーチも日本代表に入れるわけではなく、選ばれた数人が日本代表のコーチとして日本チームに帯同します。そのため、金籐をコーチしている私の先輩は支援コーチとう立場で、すべて自費でオリンピックに行くことになります。当然私も自費での帯同ということです。普段ならそれほど渡航費は高くないはずなのですが、4年に一度のオリンピックということで、日本からの渡航費はアテネも北京も通常では考えられない価格となります(現地の物価は変わらないのですが・・・・)。非常に厳しい経済状態での参加となる為、我々はこれをオリンピック貧乏と呼んでいます・・・・。
我々支援コーチ、トレーナーが選手と会えるのは、基本的にオリンピック会場となります。実際にレースで使うプールでウォーミングアップや練習を行うことが出来る為、そこで、コーチはアドバイスをすることとなります。
普段は非常に明るい金籐も、生れて初めてのオリンピック、世界最高の舞台でのレースを前に緊張していたせいか、毎回のウォーミングアップではやや表情に硬さは見られていましたが、最終的には決勝まで進出、7位と大健闘でした。決勝後のプールサイドでのインタビューでは大泣きをしていたようですが、本人曰く、終わって緊張感から開放されたことと、レースが終わってしまった寂しさが入り混じっての涙とのことでした。今回の北京オリンピックでは決勝進出が目標でしたので、次回のロンドンでは順位を上げてくれるのではないかと期待しています。
今大会は、各社競泳水着の戦いでもありました、皆さんご存知だと思いますが、水着による世界記録の更新が続きました。多くの選手もその水着を着用すると思われていましたが、意外と他のメーカーの水着を着ている選手も多くいました。どのメーカーの水着を着るか、スポンサーとの関係もあり各選手ギリギリまで悩んでいたようです。
金籐は、普段からお世話になっているメーカーの水着を着ることを大会1週間前に決心しました。本人曰く、『水着ではなく努力で速くなれることをオリンピックの舞台で証明したい』という思いでの決心でした。選手達は毎日速くなるために非常に厳しい練習をしています。コンマ数秒の闘いでは、ほんのちょっとしたことが結果に大きく左右することがありますが、金籐はこれまで自分が行ってきた練習に自信と誇りを強く持っていたのかも知れません。
世界最高の選手達のウォーミングアップや、各国のトレーナーチームの活動を観察したのですが、私が見る限り特に特別なことを行っている選手やトレーナー達はいなく、誰もが行っている基本的なことを非常に丁寧に繰り返し行っているようでした。勿論、普段の練習や、トレーナー活動の中ではそれぞれに特別なことに挑戦していると思いますが、やはり最終的には基本が非常に大切なのだということを改めて感じさせてくれました。
今回の競泳の大会で、非常に驚いたことの一つに、これまで殆んど見ることがなかった褐色の肌をした選手が非常に増えてきているということです。決勝に進出した選手はそれほど多くはありませんでしたが、世界の変化を感じることが出来ました。私が、数年ボランティアとして過ごしたことのある途上国では、国際大会に選手が出場することは、自国をアッピールできる大きなチャンスです。国名を知ってもらい、観光客や経済的支援を受けるきっかけともなります。多くの選手に可能性が広がったことは非常に良いことだと思います。
さて、オリンピックはスポーツの祭典、そして世界が平和であることの象徴として開催されているはずなのですが、昨今は放映権に対する莫大なお金の授受、テロなどが大きな問題となっています。
メインスタジアムの鳥の巣があるオリンピック公園に入るには、空港で採用されているセキュリティーシステムと同様な手続きを通らなくてはなりません(他の会場でも同様です)。バックや身体に反応があれば、鞄を開け、身体検査もされることになります。地下鉄に乗る時も同様にバックはセキュリティーに通すのですが、身体検査はしません。しかも、バックを通さないで通過しても何も注意を受けないので、地下鉄に関しては徹底されていない様子でした。しかし、私達が北京に入る数日前にも事件はありましたが、幸い私達が滞在している時は大きな事件はなく、安全に過ごすことができました。
オリンピック公園は、非常に大きく、歩いて移動すると端から端まで30~40分はかかってしまいます。公園内は非常に整備されているのですが、半年前までは全くの新地で、何もなかったそうです。たった半年での変化を見ると、中国の威信を感じることが出来ました。
前回の、アテネの時もそうでしたが、地下鉄や道路は非常に綺麗に整備されています。またオリンピック期間には、当日の観戦チケットがあれば地下鉄は無料で乗ることが出来ます。しかし、前回アテネ大会では、地下鉄に様々な国旗を持った人たちがいたのですが、北京ではその姿を殆んど見ることが出来ませんでした。大会チケットが今回あまり販売されなかったということが言われていましたが、実際にそうなのかも知れませんし、遠いアジアの地での開催が原因なのかも知れません。
行かれたことのある方はご存知だと思いますが、北京市は非常に大きな街で、東京が小さな街に感じてしまうほどです。しかし、大きなビルが立ち並ぶ一方で、昔ながらの長屋生活をされているところもまだまだ残っていました。どこの国にもある光景かも知れませんが、国内での経済的格差を感じさせます。
オリンピック期間中は様々な制限があるため、車の量が減っているはずなのですが、非常に車の量が多く、普段はもっと多くの車が走っているのではないかと想像できます。
今回面白かったことの一つに、電動自転車を非常に多く街で見ることが出来たことです。システムは分かりませんが、ペダルは付いていますが、ペダルを漕いでいる姿を殆んど見ませんでした。走行時に全く音なく、排ガスも出ない為、環境には非常に優しいのではないかと思います。日本でも現在アシスト自転車が流行の兆しを見せていますが、今後、世界的に需要が高まるかも知れません。
年に数回は海外に赴いていますが、今回初めてのアジア地域への旅行でした。非常に近い国なのですが、まったく違う部分も多くありました。オリンピック後の中国がどのように変わっていくのか分かりませんが、今後も注目していきたいと思います。
次はロンドン大会についての報告が出来ればと思います。