「小型フィットネス施設に学ぶ」 VOL.1
市川 亨 PROJECT「 i 」代表 (スポルツアドバイザー)
小型フィットネス施設とは「Curves」(カーブス)に代表される「サーキットトレーニング」や「ヨガ・ピラティス」など30坪~100坪程度のジムやスタジオ型のフィットネス施設のこと。「ジム・スタジオ・プール」を「三種の神器」として複合・大型化を志向してきたフィットネスクラブ業界に新たなトレンドを提案し成長しているユニークなサービスモデルです。
現代女性をターゲットとしたサービスビジネスでのキーワードは『ダイエット』『ファッション』『コミュニケーション』です。
今回は急成長を遂げる小型フィットネス施設の中でもその先導役となった「Curves」を中心にその成長の要因を分析し、参考にしてみました。
●小型フィットネストレンド分析
1992年米国テキサス州で生まれた小さなフィットネスクラブ「Curves」は1995年のFC展開を開始して以降、急激にそのマーケットを拡大し全米で9000店舗以上を展開しただけでなく、ヨーロッパ、そして日本においては2005年2月にベンチャーリンク社がアジア地区の販売権を取得し募集を開始してから2年間で、すでに300店舗の開設と600店舗のFC権の販売が完了しています。
また「Curves」をモデルとした小型のフィットネス施設もすでに米国では20,000店舗以上、国内では480店舗以上が開設され、その勢いは更に加速されています。
●ターゲット分析
小型フィットネスクラブのターゲットは主に従来型のフィットネスクラブに通えなかった女性達で在ると言えます。『ダイエット』のために運動することが必要であると理解していても、仕事や家事、子育て、友人や隣人との『コミュニケーション』など多忙を極める女性達(男性も同様)がフィットネスクラブに通う時間と金銭的余裕を生み出すのは容易では有りませんでした。
そこにブレークスルーを起こしたのが「Curves」のサーキット式トレーニングでした。
●ビジネスモデル比較
■標準的総合型フィットネスクラブ
・施設面積:800坪~1,000坪
・標準設備:マシンジム、スタジオ、プール、浴室、ロッカー
・会員数:3,000名
・月会費:8,000円~10,000円
・年間売上高:3~4億円
・運営形態:直営、受託運営方式
・スタッフ数:30名以上
・初期投資額:6億円~8億円
・商圏設定:半径3KM
・付帯売上:テニス、ゴルフなどのスポーツやマッサージ、セラピー、パーソナルトレーニングなど付帯売り上げ項目は多数
■サーキット型小型クラブ
・施設面積:30坪~50坪
・標準設備:油圧式マシン、更衣室
・会員数:200名
・月会費:4,000~5,000円
・年間売上高:12~15百万円
・初期投資額:1,000~2,000万円
・商圏設定:半径1KM
・運営形態:FC方式が多い
・スタッフ数:2~5名
・付帯売り上げ:ゲルマニウム温浴など少数
●プログラム内容分析
カーブスプログラムのプログラムの特徴は以下18項目になります。
Curvesのサーキット式トレーニングは
(1)油圧式マシンを使った
(2)30秒 の
(3)筋力トレーニングと、
(4)ステップ台を使った30秒の
(5)有酸素トレーニングのセッションと
(6)ストレッチを組み合わせ
(7)1回30分で終わる、
(8)サーキットトレーニングです。
このサーキットトレーニングは、
(9)すべての時間帯で、
(10)いつでも好きなときにでき、
(11)予約も必要ありません。
(12)体力に自信がない人でも、
(13)自分のペースでトレーニングができるのです。一つひとつのマシンが、それぞれ
(14)重要な筋肉群を鍛えられるようになっているので、
(15)覚えにくい、難しいなんてことはありません。そして、
(16)音楽にあわせた楽しいトレーニング。
(17)おしゃべりしながらできますので、「ひとりの退屈な運動」が
(18)「楽しく自分を磨く時間」になる
(紹介文からピックアップ)
●省スペース革命、フィットネス革命といえるか?
【小型フィットネス施設の特徴の整理】
以上標準型フィットネスクラブと小型フィットネスクラブの比較を行いましたが、ここでは小型フィットネス施設の特徴を改めて整理してみます。
参加者サイドの視点
1)従来のフィットネスクラブに参加できなかった層を対象としている。
・フィットネスクラブに参加したことがない人たち
・体型や体力に自信がない人たち
・異性と同じ場所で運動することを好まなかった人たち
2)いつでも参加できて、短時間で満足度を得られるシステムを構築している。
・時間の制約の多い人たちも参加し易い。
3)プログラム内容がシンプル。
・誰もが同じ動きができることで参加する上での精神的なストレスが少ない。
4)常にスタッフや会員同士のコミュニケーションが図れる。
・会話でのストレス解消や情報交換、交流の場を提供している。
・日常的な不満や悩みも相談しやすい雰囲気を提供できる。
5)商圏設定が狭く、徒歩、自転車で通える。
・日常の生活の延長線上で利用することができる。
経営サイドの視点
1)施設規模が小さく、初期投資額が低い
・用地確保が容易で、出店、退店が容易にできる。
・投資回収期間が短い。
・スタッフの人数が少なく、管理、教育が容易である。
2)商圏や会員数が少ない。
・会員とのコミュニケーション密度が高い。
・会員管理が容易である。
3)FCシステム
・初めて事業に取り組み易い。
・会員からFCとして開業し易い。
●省スペース革命、フィットネス革命といえるか?
このように小規模フィットネス施設の特徴を整理してみると小規模でシンプルである利点を最大限に生かし、従来型のフィットネスクラブが目標としてきた会員サービスの原点は、実現していることが伺える。
会員の生活状況も含めた高い密度の会員コミュニケーションと精神的プレッシャーの少ない参加要件など、近所の友人、知人を誘いやすいくコミュニケーション密度がさらに高まる。
また事業主体にとっても投資規模やFC形式を考慮すると、参入が容易で、失敗しても損害は少ないことが事業参入の意欲を高めている。
何よりも標準型フィットネスクラブメンバーが自分でクラブを運営しようと(あるいは出来ると)考えて実行するメンバーが何人いただろうか?
●今後の展望、どんなコンプレックスが可能か?今後も拡大するか?今後の課題?
新しい事業領域は、革命的な先駆者が開いた道を追いかけながら広げ、耕していくプロセスの連続であると考えています。
米国では「Cureves」に続き、差別化を図りながら「Contours Express」「Figures'」「ButterflyLife」などが積極的にFC展開を進める動きがある一方で、参加対象者を広げて男性専用のサーキットジムや子供向けの専用施設もチェーン展開を始めています。
エステサロンが女性だけでなく男性用エステが出来てきたのと同じような動きといえます。
「Curves」自身も「Cooper institute」や「MILK PROMOTE LINK」「AMERICAN WHOLEHEALTH NETWORK」などとのコラボレーション活動や会員以外へのウエイトマネジメントプログラムの提供するだけ無く、最近は病院内での店舗の展開も開始している点は医療機関もその機能を認知し活用する方向が出ている点も見逃せません。
ダイエットというテーマを基盤にして糖尿病や骨粗しょう症など運動習慣により改善可能な医療や予防の領域への貢献度を高めていると言えます。
日本国内においても2004年からサーキットジムを開設した「J-サーキット」「B-LINE」を先頭に独自に事業を始めた企業や個人で開業した方、米国からのライセンスを取得しFC事業を展開し始めた企業など現在活発に活動を始めています。
20数年前にフィットネスクラブが国内で萌芽し現在1800以上の施設が営業しているといわれますが、小型のフィットネス施設への進出は、既存の運営業者以外が過半数を占めていることが特徴的です。
これらのことを総合的に判断し小型フィットネスの事業は、参加者にとっても事業主体者にとってもメリットが大きくリスクが少ない事業形態をしている為、まだまだ成長していく余地が大きく分野だと判断しています。
ButtflyLifeの様にスタジオプログラムを併設したり、DietCenterや医療機関、ドラッグストアなどの医療系分野、エステやネイルサロン、整体、リラクゼーションサロンなどの美容、癒し分野だけでなく福祉系、飲食系、物販などさまざまなコンプレックスの可能性が高い事業だと考えられます。
今後の課題は、既成概念に囚われずに、現在提供されている事業やサービスで見過ごされ、あきらめられている参加対象者に対して、どの様なフォーマットでソリューションを提供することが可能かという発想で事業を構築していくことだろうと考えます。
「若くして高血圧によって命を落とした母親を思い、悲しい思いをする子供を増やしたくない」という一つの小さな思いを具体的な事業としフォーマット化したことで、参加する人たちに優しく温かい気持ちが伝わり、笑顔とともに世界規模の大きなムーブメントを起こしている事実は貴重な教材と言えます。