ハワイで起こっていることは日本で10年後に起こる」

今村貴幸 スポルツエグゼクティブアドバイザー

去る、2007年2月25日より3月3日まで、Honolulu Cardiac Rehabilitation Work Shopに参加してきました。
これは、昨年よりJapan Heart Clubのバックアップによって埼玉医科大学リハビリテーション科が中心となって行われるようになったものです。
主な目的としては、
①海外での最先端の研究について学ぶ 
②英語で講義を受け、英語でのディスカッション能力を向上 
③英語の文献を読む能力の向上 
④施設等を見学し、国内との違いなどを確認し、参考にする、です。

 今回のメインテーマは「メタボリックシンドローム」に関するものでした。様々な研修内容から印象的であった、Honolulu Health Research Institute(HHRI)にいらっしゃる矢野先生の講義についてレポートします。
矢野先生には昨年もお世話になりました。矢野先生は非常に優秀な研究者でいらっしゃるので、研究所がなかなかリタイアを許してくれないとのことと、研究がお好きでいらっしゃる為に、現在82歳ながら現役で頑張っていらっしゃいます。
HHRIは現在、ハワイ在住の日系人の男性を対象に、
①心血管疾患
②加齢による認知機能
③長寿に関する研究を行っています。

 当初この研究はNIHONSAN(ニホンサン)Studyといわれていて、NIは日本、HONホノルル、SANはサンフランシスコを意味し、総数8000名の日系人の男性を対象にした大規模な調査で行われました。つまり、同じ遺伝子をもった人種が生活環境によってどのような病気に罹り、どのような原因によって死亡するか調査したものです(現在でも調査は年1回行われています)。

サンフランシスコは欧米型生活の代表、日本は日本的な生活の代表、ホノルルはその中間という位置づけです。それぞれの地域の研究者が協力した結果、様々なことが分かり始めました。

例えば、虚血性心疾患に罹る確率は、日本人に比べ、ハワイの日系人は1.5倍、サンフランシスコは3倍。BMIの平均値は日本人が22~23であるのに対し、ハワイでは28~29であり、肥満傾向が認められる。しかし、血圧は3群で差は認められない。コレステロールはハワイの日系人が高く、喫煙率は日本が最も高く55%、次いでハワイは20%、サンフランシスコも20%程度。

飲酒率も日本人が最も高い。動物性タンパクの摂取率はハワイとサンフランシスコが高く、植物性タンパクは日本人が多い。

このように元は同じ人種でも生活習慣が大きく異なることが分かりました。これらの研究で有名なのが、糖尿病の調査です。かなり以前に行われた研究結果ですが、同じ家系であるにもかかわらず、ハワイ在住の方と、日本に在住の方で、糖尿病の発症率が異なることが分かりました。
生活環境によって疾患の罹患率が影響するということがはっきり分かった研究調査でした。

 現在、ゲノム研究が進み、将来どのような病気に罹るか分かるようになってきました。その病気のもとになる遺伝子を原因遺伝子とよんでいます(ただし、一つの遺伝子が作用するのではなく、多くの(100)遺伝子が作用する)。

矢野先生は遺伝子と、生活環境が非常に重要であり、たとえ原因遺伝子があったとしても、生活習慣が良ければ発症率は低くなるとおっしゃっていました。生活習慣の改善は、薬(将来的に遺伝子に作用する薬が開発されるであろうということ)を使うのと同じくらい効果があるといわれていました。

現在、日本の食生活は欧米化が進み、逆に欧米では日本食が非常に注目されています。今後生活習慣が欧米化へ進んでいけば、現在欧米で生活されている日系人の方と同じ確率で様々な疾患に罹る確率が高くなると思われます。

 8000名のなかで生存者の約8割に対して認知機能を調べたところ、アルツハイマー症と脳血管性(障害)及びこれら2つ以外のものが主な原因として分かっています。
ハワイの日系人ではアルツハイマー型よりも脳血流異常が多く認められているということです。つまり、生活習慣の改善によってある程度予防が可能ということが考えられます。遺伝子のほかに、高血圧、糖尿病、喫煙、肥満がリスクファクターとして上げられ、予防・改善としては、運動による脳への血流量増加、アセチルコリンを減らさない(最近ではアセチルコリンを減らさないような薬が販売されている)、脳へ常に刺激を与えておくことも現在の能力を維持する為には重要であるということです。

 過去からの大規模な追跡調査結果から、矢野先生は欧米で問題となっている病気は、おおよそその10年後に日本で問題となっている場合が多いといわれていました。
そのため、現在のアメリカを知れば、自分達(日本人)はどのようにしなければいけないかが分かると考えられています。

メタボリックシンドロームは代謝機能異常と肥満が合併したものであるため、病気に対するアプローチが難しいのですが、根底にある原因が肥満であるため、食生活と運動の実践による肥満の改善が重要であることが強調されていました。

現在、日本人男性を中心に肥満者が増加傾向にあります。正しい知識と方法によって肥満を改善するように努める必要があるのではないでしょうか。