「慢性疾患を元気に生きる!」

今村貴幸 (東海大学 スポルツパートナー)

今年も昨年同様、2月24日~3月1日間での期間、Honolulu Cardiac Rehabilitation Work Shopに参加してきました。

2005年よりJapan Heart Clubのバックアップによって埼玉医科大学リハビリテーション科が中心となって行われるようになったもので、今年で3回目の開催となります。

Work Shopの主な目的としては、
①海外での最先端の研究について学ぶ 
②英語で講義を受け、英語でのディスカッション能力を向上 
③英語の文献を読む能力の向上 
④施設等を見学し、国内との違いを比較し参考にすることとする。

 今回のテーマは「慢性疾患を元気に生きる!」です。今回も様々な講師の先生を迎えて行われましたが、Pacific Health Research Institute のDr. Bradley J Willcox, MDは「Midlife Risk Factors and Healthy Survival in Men」というテーマでの講義でした。

Dr. Willcoxは双子の兄弟で研究者をしていて、10年以上前に沖縄に滞在し、数年に渡り長寿の研究をしていました。当時、研究の様子が日本のテレビで放映されていて、もうお亡くなりになられましたが、金さん、銀さんにもインタビューをしている様子が映っていました。講義は当然全て英語で行われましたが、非常にゆっくりとわかりやすく話していただき、非常に聞き取りやすかったです。

 主な内容としては、5820人のMiddle-age(Mean age 54)日系人を対象とした、40年間に渡る研究で、全体の42%が85歳まで生存したとし、全体の11%である655人が85歳以上まで生存していた。

研究項目の内、長寿に関連した項目は、筋力の維持、適性体重であること、適正な血糖値を維持すること、適正な血圧を維持すること、禁煙、過度なアルコール摂取をしないことが挙げられた。加えて特に、高度な教育を受けていること、適正な血中脂質を保つことが挙げられる。と報告していました。

面白いことに、パートナーがいない人は85歳までに死亡している例が多いということでした。既婚者か未婚者で寿命に関わってくるとは興味深いところです。

 85歳までに(特に中高年の時の生活習慣が大切ということでした)生活習慣病に関わる疾患を多く持った人とそうで無い人で大きく寿命にかかわり、昨年もPacific Health Research InstituteのDr. Yanoがおっしゃっていましたが、生活習慣の改善をすることが薬を使うことよりも有効であるとの通りであることが改めて証明されました。

 講義のなかで、ニューズウィークに掲載された、沖縄で100歳になる男性が一人暮らしで生活をしている様子を紹介した記事を拝見しました。長寿であることも素晴らしいのですが、一人で生活するということは、身体的にも精神的(認知的)にも全く問題が無いということです。健康(つまり身体機能や脳次機能が正常)で長生きをしている姿は我々が将来目指すべき姿です。

 要点をまとめると、中年期に生活習慣(食習慣や運動習慣、喫煙、飲酒など)を見直すことで、その後のライフスパンが大きく変わってくるということです。今からでも遅くは無いと思います。一度生活習慣を振り返って見ましょう。

 その他にもUniversity of HawaiiのDr. Nakaya, MD MSによる「Introduction to chronic Kidney Disease:慢性人疾患について」の最新の情報を聞くことが出来ました。ここでもやはり、生活習慣が非常に重要であることが示されました。

運動と腎疾患については、今のところ良いというエビデンスも悪いというエビデンスも無いとの事でしたが、将来的にも運動が状態を悪くするというエビデンスは出ないと思われるとのことでした。現在、透析中の時間を使い、簡単なエクササイズを行う試みがされ、腎機能以外の骨格筋などの機能維持をすることによるQOLを高めることが行われるようになってきています。

 文教大学の石原先生は「慢性疾患と心理」というテーマで講義をしていただきました。先生のお話は日本でもお聞きする機会に恵まれますが、大変興味深いものでした。

今回は、慢性疾患患者の心理として、(1)不安(2)抑うつ(3)心気傾向(4)否定・無視(5)自己判断・処置(6)フラストレーション行動(7)依存的行動(8)自己中心的行動(9)孤独感(10)期待感(11)病気への逃避(12)回復期・維持期の特徴的心理的状態などが紹介されました。

 特に、今回は潜在的敵意や怒りの表出抑制が、CHD(慢性心疾患)との関わりが強いということで、いかに怒りや社会的な諸問題と適応していくかが重要であるかということを聞きました。

 最後に、Pacific Health Research Instituteの研究員で高知大学医学部の都竹先生の「慢性疾患とレジスタンストレーニング」というテーマで、講義と実技を交えて行っていただきました。

道具を使わないベーシックなエクササイズを中心に行っていただきましたが、逆にベーシックなエクササイズで十分な効果があるということも、研究によって証明されていることも紹介していただきました。

これに関しては、私も心疾患の患者さんを対象とした、ホームエクササイズで実証していますが、中・高齢者の方では、いかに継続的に行えるかがポイントであり、手軽に行えることが大きな鍵であるとのことでした。

 今回のワークショップでのなかで、生活習慣の改善、特に運動の実践によってQOLを高めること、これは、疾患の改善に直接働きかける場合もありますし、2次的に身体機能の維持改善に働く場合もあります。特に、運動を実践することで、運動の「提供者」、「受益者」そして、「社会」がそれぞれに利益を得ることが今後の課題であるということが挙げられました。
(アメリカンビジネスでは「Win Win:提供者と受益者両方が得をするという意味」という言葉があるのですが、これに一つ増やし、我々は「Win Win Win:提供者、受益者そして社会が利益を得るという意味」を目指します。)

 超高齢化社会である日本では、今後正しい運動の実践が大きな鍵となりそうです。