2012年に「自分史上最高のボディデザイン」というタイトルでインタビューに応じてくれたのがボディクエストの森俊憲さん。
https://healthbizwatch.com/archive/interview/post-423

その後も数多くのメディアへの出演や著作活動などを拝見してきたので順調に事業展開されていると認識しておりました。
コロナ禍にあってオンライントレーニングにスポットが当たり、数多くのサービスが立ち上がりました。
しかし、苦戦しているプレイヤーを散見するに当たり、8年前から「コミュニケーションが商品」と言い切っていた森さんのオンライン・トレーニングの本質についてもう一度伺ってみました。

森 俊憲(もり としのり) 氏

森 俊憲(もり としのり) 氏

Profile

2007年~、独自のWEBシステムや専用アプリを開発し、受講者が自宅に居ながらマンツーマンの指導・支援を受けられるオンライン上のフィットネスサービスを展開。これまでに16,000名以上への体型管理カウンセリングやパーソナルトレーニングを行う。企業向けの健康指導や講演、各種メディアの監修・モデル等幅広く活動中。「へやトレ」シリーズ(主婦の友社)「体幹を鍛える」シリーズ(宝島社)等、国内外での出版著書多数。

Q1.久しぶりにウェブサイトを訪問して、ボディデザインのスタイルマッピングにある、足算思考のボディデザインのチャート図に大変興味を持ちました。森さんのコンセプト理解につながると思うので少し解説していただけますか?

まず、ボディメイクを目的とするフィジカルトレーニングとは、無理をして他人になろうとするのではなく、「自分らしい魅力を追求していくこと」だと思っています。

心の底では、誰もが自分らしく、よりカッコ良く、気持ちよく生きたいという願望を持っています。その欲求が、洋服やブランド品で自分をデコレーションする消費行動につながります。
しかし、そんなことで成り立っている自分は、本当に自分らしい自分とは言えません。

そのためには、“欠点をカバーしようとするよりも、自分が今持っている長所を最大限にどう生かすか!”ということを優先させるべきだと考えています。

私たちは子供のころからの学校教育の中で、苦手な教科をなくすことを第一に教えられてきたように思います。
苦手な教科があれば、頑張って周りから遅れないように親や先生からお尻をたたかれてきたのではないでしょうか?
会社に入って、上司や先輩からの指導でも似たようなことがあったかもしれません。
そして、嫌々義務的に勉強してきた。そんな記憶はありませんか。私はそうでした…。

トレーニングに関しての相談でも最初は、どうやったら今現在の自分の欠点がカバーできるか?ということのアドバイスを求められる場合がほとんどです。
しかし、私は逆に長所はどこなのかをお聞きするようにしています。
欠点を克服しようという気持ちが強すぎて、そこだけにフォーカスしてしまうと“継続的な行動が伴わず”、結果が出にくいからです。

勉強と同じで、後ろ向きの目標や自己否定から始まるものだと、当然気持ちが上がりません。
『行動をコントロールしているのは気持ち(=感情)です。』
単純なことですが、人間はワクワクできないと、真の意味でのモチベーションにはならないのですね。

ですから、私は会員の方には、長所を伸ばしてくださいといいます。
最初は戸惑う方もいらっしゃいますが、より自分らしさを活かせるほうがワクワクするに決まっています。
ようするに、トレーニングを通じて変化を求めるということは自己表現なのですから、自分らしい最高の身体を目指すということが大事ですし自然です。
考え方として前向きにもなります。

例えば、気になる異性がいるとしたら、嫌われないようにしようとするよりも、大好きになってもらうほうがドキドキワクワクしますよね?それと同じだと思います。
仕事でもミスをしないように注意しながら恐る恐るやるよりも、自分にしかできない大きなプロジェクトを達成してやるんだ!という気持ちのほうが断然行動的になれるはずです。

トレーニングは物理的な作用の上に成り立っているのですから、足し算志向で、やった分だけちゃんと見返りがある。
そのためにも、自分仕様のトレーニングを活き活きと楽しむ。
そうしてワクワクしながら行動し続けているうちに必ず結果が出てきます。

Q2.アドバイザー陣も充実してきていますよね。以前に比べてボディクエストに求められる価値や内容の変化はあると思うのですが、どんなものでしょうか?

<環境変化とボディクエストの進化について>

2020年春、新型コロナウイルスが世界中に蔓延し、感染予防のため、人の流れも経済も止まりました。

人々のフィットネスへの取り組みについても、生活者一人ひとりがこれまでのライフスタイルを見つめ直して、生活環境や経済的な「安心範囲(余力)」の中でなんとかやりくりする。
可能な範囲で健康管理を考えながら、できることを地道にやっていくという心理になっていることだと思います。

“自分にとって、本当に価値があること、実は価値がないこと。”
を考え、判別して、一人ひとりが「自分がやっていることを、真剣に見直し、改める機会」になっています。

そして、WITHコロナで大切なことは、予防対策の実施によって生じてしまう物理的距離をしっかりと埋めるための「人のつながり」です。
オンラインフィットネスに対するユーザーニーズも本当に多様化してきました。
トレーニングを始める際、一人ひとりの方に様々なことをヒアリングさせていただきますが、内容を拝見すると、本当に千差万別。まったく同じケースなど存在しません。

食事制限主体のダイエットに限界を感じてこられた方には、管理栄養士資格を持ったトレーナー。腰や膝が痛い、過去に負った怪我が心配という方にはコンディショニングトレーナー。ゴルフのスコアアップのために身体を鍛えたいという方には、プロ資格を持ったトレーナーなど、よりきめ細かなニーズや期待に応えられる体制をとっていますが、これからもそれらニーズの拡がりに対応する受け皿としてのバリエーションは充実させていきます。

<オンラインパーソナルの元祖というポジショニングの意味や役割など(周辺からの期待など)>

ボディクエスト事業開始から13年、オンライン一筋で顧客サービスを行ってきました。

当初は、なかなかオンラインパーソナルトレーニングの仕組みや効用を理解してもらうことに苦労しましたが、ここ数年はおかげ様で、フィットネスの選択肢の一つとして市民権を得てきたように思います。

ひと口にオンラインといっても、サービスの形態は様々かと思います。
弊社は「忙しいビジネスパーソンや育児でジムなどに行きづらい方」、また、どちらかというと運動が苦手で、「ジムに通う自信がない…」といった方々に対して、無制限のサポートをベースに、トレーナーが心理面で寄り添うようなサービスを行ってきました。

最近では、オンラインパーソナルの元祖という捉え方をしていただくこともありますが、決してそこを意識していたわけではありません。
日々のユーザーさんとのやり取りの中で確かな手応えも感じておりましたので、このまま頑張っていけば、「きっといつか花開く」と信じて、地道に事業を続けていた結果という感じです。

ただ、事業としてやってこられた要因の一つに、担当トレーナーによる「無制限のサポート」というものがあると思います。
サービス提供側からすると、大きな負担にもなる条件ですが、あえてそこを特長にしてきました。
そういう意味で、トレーニング動画など、コンテンツがメインのサービスではありません。

こういった形態で長年事業を運営してきたわけですが、オンラインフィットネスの認知を拡大していくことが弊社事業の成長に直結すると感じておりました。
そこで、これまでの事業経験やサポートノウハウを体系化してオンラインフィットネスのすそ野を広げたいと考え、私は、2018年に一般社団法人「日本オンラインフィットネス協会」を設立しました。

現在は、「へやトレ@ONLINE」というサービスプラットフォームにて、協会にて育成するオンライントレーナーが資格取得後すぐにビジネス展開ができる体制も整えています。
これによって、トレーナーの皆さんが活躍できる機会を創出しながら、生活者の「在宅シーン」におけるフィットネス価値創造への取り組みを推進し、多様なニーズや生活スタイルを先取りした利便性の高いホームフィットネスを追求したいと考えております。
協会活動としては、フィットネス業界の企業様をはじめとした関連業界との協業なども行い、より裾野の広い健康産業全体を視野に入れた事業展開を行っていきたいと思います。

Q3.森さんが考えるオンライン・パーソナルの本質とは何でしょうか?それとこの事業の醍醐味ややり甲斐はどういったものでしょうか?

<「コミュニケーションが商品」>

私が携わるオンラインパーソナルトレーニングでは、一般的にはトレーニングの「指導」と捉えられている部分を「サポート」に置き換えて考えています。

例えば、ジムなどでの対面指導を考えた時、これまでの日本の体育に備わっていた雰囲気が影響して、どうしても「指導する側」と「指導される側」をイメージしがちです。
これは時に、「(トレーニングを)やらせる側」と「やらされる側」といった図式を生み出しかねません。
もちろん指導する側は相手の期待に応えようとしているのでしょうが、もし、それを受ける側が「やらされている」と感じてしまったとしたら、人は強制されると義務感を持ってしまいます。
そうなってしまうと、自分から始めたはずのフィットネスにポジティブに向き合うことが難しくなってしまいます。

この点、オンラインでの指導であれば、対面指導のような過度な緊張を与えることはありません。
ユーザーは、「やらされている」感を覚えることなく、常に自発的にトレーニングに取り組めるのです。
「指導する」ではなく「寄り添うようにサポートする」。
これは、オンラインだからこそ築けるトレーナー像です。

そして、「過度の緊張を伴うことなく、楽しくトレーニングができる」「個々の生活スタイルに合わせて進められる」。
信頼できるトレーナーに心を開き、すべてにおいて無理のない状態で行えることこそ、オンラインパーソナルトレーニングの長所だと考え、極端に言えば、家族よりも頼りになる「絶対的な味方」としてのコミュニケーションを心がけています。

時には、<トレーニングをさぼっています>というような相談が来ることもあります。
そのような場合であっても、トレーニングが続けられない原因を追求するようなことはやめるべきです。
「どうしてできないのか」と指導者目線で叱責するのではなく、やりたいと思ってスタートしたのに、なかなかトレーニングリズムに乗れないユーザーの心の不安に寄り添うことが大切です。
ここでいう「寄り添う」とは、決してトレーニングをさぼってしまっている状況を、見守るだけでそのまま放置しておくという意味ではありません。

モチベーションが上がらないユーザーへフィードバックする際は、ここまでトレーニングが上手く進んでいないことには、敢えて触れないようにします。
できなかった原因を探るのではなく、さりげなく相手がやる気を起こすような、ポジティブな提案をします。
オンライン上とはいえ、常に相手と向き合っている気持ちを忘れずに、「明るく」「前向きな」言葉を投げかけていくことが、何よりも必要なのです。

<お客様からの感謝や反応(人生充実!!!など)>

これは私たちトレーナーにとっても一番嬉しい瞬間ですが、お客様からいただく声として最も多いのが、「今まで何をやっても長続きしなかった自分が、このサービスのおかげで運動習慣を獲得できた!」という内容です。

「自分に自信が持てるようになった」、「トレーニングを好きになれたし、今では、身体を動かさないことのほうが気持ち悪い」、「結果、人生まで変わった」というようなコメントも少なくありませんし、過去に担当させていただいたお客様の中には、今となってはかけがえのない友人のようにお付き合いさせていただいている方もいらっしゃいます。
相互信頼感をベースにお客様と心を通じ合わせ、少しでも相手のためになれるように頑張ろうという姿勢でいると、自然にお互いが「呼応」し合うのですね。

当たり前ですが、トレーニングを行ううえで重要なのは継続です。
自身の体型や健康に対する意識が芽生えて、せっかくフィットネスを始めたのに、途中でやめてしまっては効果を得ることはできません。
たとえ忙しい日々の中で思うようにトレーニングに時間を割けず少々ペースダウンしたとしても、諦めずにトレーニングを続ければ必ず効果は得られるのです。

ちょっとしたことでトレーニングをやめてしまいがちなユーザーの心を切らすことなく継続に導けるか否か。
このための心配りと奮起させるための言葉選びなどが、オンラインパーソナルトレーニングのトレーナーには求められると思います。

人間は決して強くはありません。誰しも弱い部分を持ち合わせています。ましてや、ひとりで何かをやろうとする場合には、それが顕著となることが多々あります。
それはフィットネスにおいても同様です。
だからこそ、ユーザーには、自分の気持ちに寄り添って一緒に苦難に立ち向かってくれる伴走者(トレーナー)が必要なのだと思います。

Q4.今後の戦略ビジョンを少しでも教えてください!!!

今、世の中を取り巻いている空気感、その源泉として多くの生活者の頭の中にあるのは、様々な意味での「先行きへの不透明感や恐れ」だと思います。
会社や企業としても、そのような環境の中で、手探りにでも、いかに顧客信頼度の高いサービスやブランドになりうるかを真剣に考えながら、柔軟に対応していくことが必要です。
誰も答えを持っていない状況ですから、他者の判断や状況を参考にしようと思っていると、タイミングを逃したり、取り返しのつかないことにもなりかねません。

私自身は、極めて直感的な判断しかできない未熟な経営者ですが、
「誰かがやってからではなく、良いと思うことはすぐやる」
「誰もやらない、もしくは、一番最初にやるから意味がある(ある意味、失敗も許される)」
「二番煎じではその取り組みの中で一番になれない」 etc.
こういった判断軸、行動指針の中で事業運営をしています。

最近では、法人企業の皆さまからも、社員の在宅ワークのケアを行いたいので、コンテンツやサポートをしてほしいというお声をたくさんいただくようになりました。
幸いこれまでの間、ずっと在宅環境での運動サポートを行ってきましたし、コンテンツの企画・制作も自社で行える体制がありますので、新コ禍をきっかけに多くの新しい仕事にもチャレンジできています。
これからも、「余計なことは考えず、ただひたすら自分を信じてやるのみ!」の精神で、後悔することのないよう、進んでいければと思います。

【株式会社ボディクエスト】
https://www.bodyquest.jp/

【一般社団法人日本オンラインフィットネス協会】
トレーナーになる 【NOFアカデミー】 https://nof.academy/
トレーニングする 【へやトレ@Online】 https://heyatore.info/

【大人のためのプレミアムジム】
MSM BOX - THE PREMIUM GYM (EBISU/TOKYO)
https://msmbox.jp/

インタビュアー:大川耕平

[取材日:2020年10月15日]