“たかが歩数計されど歩数計”物語から読み解くヘルスケアビジネス

弊社SPORTZ&HBWとも長年お付き合いただいているヘルスケア業界の重鎮小林洋さんに、コロナ禍にあって我々ヘルスケア業界がアプローチすべき方向性にある本質は何かを伺いました。
(前編、後編に分けてお届けします)

小林 洋 氏

健康医療デザインアドバイザー

小林 洋 氏

Profile

1956年京都生まれ。京都工芸繊維大卒 オムロン株式会社でデザインマネジメント担当 オムロンヘルスケア、オムロンコーリンで健康、医療事業担当 オムロンコーリン代表取締役 オムロンヘルスケア執行役員専務を歴任。2016年12月にオムロングループを卒業し、現在はフリーランスとして 健康医療デザインアドバイザー 神戸医療産業都市推進機構 神戸リサーチコンプレックス協議会のコーディネーター

まず、スポルツ大川さんにこのような機会をいただき感謝いたします。
オムロンヘルスケアを卒業して4年近くになり、コロナ肺炎渦中巣篭もりの中前職のこと思い出しながら書いていますが、血圧計物語、体温計物語、体組成計物語、、、、MedicalLink物語などいくつもテーマが浮かんでくるので今回は(最初で最後かもしれませんが)、歩数計物語(たかが歩数計、されど歩数計)というタイトルで報告いたします。

前半はデザイン担当、後半はデザイン含むマーケティング、事業担当という立場での思い出です。
この中にデザイン思考の観点やヘルスケアセンシングの要素、デジタルヘルスケアの展開を見つけていただけると期待します。

Q.思い出話から行きましょうか。

はい。歩数計って万歩計と呼ぶ世代がおられますね。まさに振り子式で“かちゃかちゃ”と動きを計測していた機械式の歩数計は万歩計と呼ばれていました。
これはご存知の方も多いと思いますが山佐時計(株)の商標登録でした。http://www.yamasa-tokei.co.jp/top_category/pedometer_registered_trademark.html

色々な種類があり、ベルトに付けたりぶら下げたり当時高齢者の持ち物感満載でした。
若い人、女性はもちろん近づかない領域でした。

私がヘルスケアプロダクト(当時は健康商品)のデザインを担当したのは、1981年に当時の立石電機に入社しデザイン担当になって2、3年した頃でした。
まだ健康機器事業は当時100億円にも満たない小さなその日暮らしの事業で、血圧計、体温計は存在していたものの小さな規模でグローバル展開もまだまだという状態でした。(健康機器が市民権を得たのはその後15年以上経ってからでしょうね)

歩数計も(万歩計とは言えなかったので)品揃えの一環でした。
ただデザインだけはいろんなトライをしていました。
腰のベルトに装着しないと精度が出ない振り子式ですが、使い勝手を色々と考え、スタイリングもカラーリングも、古い万歩計から脱却するため大きな液晶を採用したり、目立たないようにカバーをつけたりなどなどしていました。
でも機械式、振り子式の構造なので限界はありました。

余談ですがデザインの遊びも含め、スタイリングイメージを共有するために“目玉おやじ”とか“スーパージェッターの流星号”で行くぞとかそんなアニメをモチーフとしたスタイリングで楽しんでいましたが、購入者はもちろん高齢者中心です。
品揃え?結構、景品や贈り物に使われて個人が自ら選択という時代ではなかったと思います。工業デザインと呼ばれた時代です

このころのオムロンの歩数計のブランドは“テクマル”。ダサいですね。
体温計が“けんおんくん”でしたから仕方がないか!
ブランドを見てもターゲットがわかりますね。
高齢化率が今よりもずいぶん低い時代ですが単品の万歩計競合の世界が続きました。

しかし、この機械式、振り子式は使い方によって精度が悪く開発者が苦労して振り子レス、つまり加速度センサーの原型を作り出し、それを商品化できる時代がきます。
何ができるかというと、腰につけるのが一番精度が高いのですがポケットに入れてもカバンに入れても計測精度は落ちないというものです。
振り子ではなく加速度センサーで測定する新しいタイプです。
これすごいんです実は!技術によるInnovationでした!

またこれは現在の3軸加速度センサーではなくなんと2軸を独自に作ったものでした。
たかが歩数計に技術開発でステップアップ、これは使いやすい精度の高い歩数計を提供したいというこの想いが、結果としてこの技術開発に成功しカテゴリーを充実、拡大する起点になります。

Q.大きな変革はデジタル化(加速度センサー)ですよね。たかが歩数計されど歩数計の大きな第一歩。誰がそんなこと思ってたかな?今から考えると!

そうなんです。
加速度センサーからの出力はデジタルになりました。(機械式のカウントではないので
つまり測定のためのアルゴリズムを組んでいくことになります。
安価な量産デバイスがないのでセンサーは自前、アルゴも自前、珍しい機器でした。
でも事業としての認知、可能性についてまだまだ低い理解されない状況が続き開発費など確保には苦労されていたし、たかが歩数計という意識蔓延でした。(安いですしね)

ところが3軸加速度センサーデバイスが安価になったのです。
なぜ?デバイスメーカーの大量生産です。
車のエアーバッグなど衝撃に対するセンサーとして各方面で使われだし、当然そのセンサーを使って開発も始まりました。
結果としてですが、全ての携帯電話、スマートフォンには搭載されることになりますね。

さらに時代として、生活習慣病(当時成人病でしたね)予防のためにウォーキングということがスタートしたことに伴い、歩数計の認知度、さらに加速度センサーのデジタルデータからカロリー計算を行い活動量計として進化することになりました。

このうらに大きなプラットフォームの変化がスタートしていました、携帯電話です。
F社が高齢者向けのらくらくホンを発売しヒットを重ねます。みなさん覚えてますか!
そこには3軸加速度センサーが搭載され、ウォーキングカウントアプリが目玉として採用されたわけです。

でも急には精度のいいアルゴリズムは作れません。
ここで潮目が変わりました!O社からこのアルゴリズムを乗せたチップを供給したのです。
そうですよね、加速度センサーのウォーキングアルゴリズムどこもやってないのですから!
結局累計800万台に搭載されたはず。単価が100円としてすごいですね!
2つ目のされど歩数計ですかね。Innovation2です。

Q.ラッキーですね。これが今のスマホ搭載の歩数計アプリの原点ということですね。

ここからもう少し説明します。いろんな経緯がありました。

少し時間を戻します。USAで歩数計からデータをPCに取り込みPC上のアプリケーションで健康管理をというVB(SportBrain社だったと思うのですが?)が登場。
まだ振り子式でしたが、歩数計には表示はなくPCにつないではじめて表示されるものでしたがアプリの完成度は高く、歩数と食事、カロリーの関係を示しモチベーションを上げていました。(何歩歩くとハンバーガー幾つ食べられますよという簡単でも基本的な考え方はすでにできていました。カロリーのIN-OUTバランスのシーソーがシンボルでした)

これは歩数、カロリーをINDEXとしたヘルスケアサービスモデルの原点だったと思います。
当時のVBを取り込むためにマネジメントへのプレゼンなど仕組みましたが、まだたかが歩数計でうまくいかなかった思い出があります。

でも、これが次のステージへの確証を得ました。
また前段があります。
1990年代後半にかけて、立石電機からOMRONに社名を変更した時に文化的要素を含めて社会変革を調査研究するヒューマンルネッサンス研究所(HRI)が設立され、そこで私は大川さんと出会いました。

そのプロジェクトの一つが“Walking Style”ウォーキングやジョギングの拠点を皇居の周りに作ってビジネスをという企画ですごいですよね。20年以上前ですよ。

そのブランドが“Walking Style”もちろん商標登録してますよ。(万歩計よりはずっとかっこいいと思います)
何しろ早すぎて企画は成功しなかったのですが、ウォーキング周りの考え方やプレーヤ、顧客など色々考えさせられました。いわゆる異業種交流(ウェア、シューズ、ファシリティ、食、飲料、、、)
たかが歩数計されど歩数計の展開領域がまた出てきました。

この企画、サービス化したのは、加速度センサーを搭載した歩数計とBI-LINKという接続でPC上でウォーキングでコミュニケーションするサイトです。
Walking Style.comと名付けスタートしました。
まさにWalkingStyleです。ICTと歩数計、これは今でこそ全く普通の世界ですが、今から20年ぐらい前です。
歩数計の情報をPCに取り込み自らの健康、活動を管理するサイトです。

このサービス、実は発売直後にテレビ東京のトレたまで取材を受けました。
2003、4年ぐらいかな、この時取材した記者が勘が良くて「このデータを裏でこそこそ見ると楽しいでしょう」とあとで言ってきました。
そうなんです。このデータは個人の生活、環境趣向、健康などを反映しているわけで、そこにマーケティング要素が包含されていることを彼は薄々感じていました。
でもそんな人会社にはあまりいなかったですね。(今はみんな分かっていてたまに個人情報は大変と言っているはずです)

アクティブ会員は歩数で競争をしていて、上位の方は5万歩は毎日超えていた記憶があります。(競争はどのアプリでもやはり重要ですね)
ここも、スポルツ大川さんがこのサイトを運営管理してくれて満足度が非常に高かったと感謝しています。
ちなみに散歩の達人のようなコンテンツは大川さんの方が早かったのは確かです。
されど歩数計 Innovation3ですね。

・・・<後編へつづく