こんにちは、脇本和洋です。
今回は「デジタルセラピューティクス」についてお話しします。
初めてこの言葉を聞く人も多いとは思いますが、ヘルスケアサービスのトレンドキーワードとしてぜひ押さえておいてください。

特集:海外事例にみる継続支援アプローチ編

デジタルセラピューティクスは第二世代へ

本編は、ヘルスケアサービスの継続利用を促すアイデアを出す際に役立つヒントを様々な角度でお伝えしています。

今回着目する分野は、デジタルセラピューティクス(以下DTx)という領域です。
なんとなく聞いたことはあるけど、今一歩わからない。
そのような方のために定義、トレンドをわかりやすく紹介しましょう。

<今回のお話し>
1)DTxとは
2)米国のDTx第一世代
3)米国のDTx第二世代
4)DTxのこれから

1)DTxとは

DTxは、米国ではいくつかの定義が存在しています。

米国DIGITAL THERAPEUTICS ALLIANCEによると
DTxとは

  • 単独もしくは、医薬品・医療機器と併用して使い、治療効果を向上させるソフトウエア
  • エビデンスに基づく治療介入をする
  • 国から許可を受けている

としています。

参考> What is a DTx?
https://dtxalliance.org/understanding-dtx/what-is-a-dtx/


また、一方でGrand View Research社という調査会社のDTxに関する市場調査レポートによると

米国のDTx市場は、病院向け・保険会社向け・企業向けなどがあり、FDA(米国食品医薬品局)の許可を受けることを必須とするといった表記は見つからず、広範囲な患者向けプログラムとしているものも見られます。
また、疾患としては、糖尿病と肥満(生活習慣病関連)が大きなテーマであることがわかります。

参考>Grand View Research「U.S. Digital Therapeutics Market Size, Share & Trends Analysis Report By Application (Diabetes, Obesity, CNS Diseases, Others), By End Use (Patients, Providers, Payers, Employers, Others), And Segment Forecasts, 2023 - 2030」
https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/us-digital-therapeutics-market

いずれにせよ、糖尿病などの生活習慣病の領域に絞ってDTxをかみ砕いてわかりやすく言うとすると、

  • 糖尿病などの患者は、服薬を中断したり、生活習慣の改善まではいたらず、うまく維持/改善ができていなかった。
  • そこで、DTxはアプリなどのサービスを提供し、服薬の継続と生活習慣の改善にまで着手し、維持/改善を一歩進めさせるものである。

そう考えていただくとよいです。

2)米国のDTx第一世代

では、次にもう少し具体的に説明しましょう。

DTx市場(生活習慣病領域)での歴史を振り返ってみます。
2000年代の中頃から後半に設立された企業によりDTxは始まります。
代表事例でいうと

・Welldoc(2005年設立)
・HYGIEIA(2008年設立)

といった企業です。

治療行動の支援をしつつも、記録結果を医師と共有できることを特徴としていました。

いずれもFDAから許可を受けるも、資金調達額は2社平均で45億円(1ドル100円換算)となっており、後ほど紹介する第二世代と比べ少ない金額です。
また、売上など実績に関わる数値も今一歩発見することができません。

「治療行動の支援をしつつも記録結果を医師と共有できること」だけでは、行動の継続にはうまく結びついていない。
その結果、成果が今一歩出ないので導入が思ったように進まず、売上などの実績も見つけにくいものとなっていると考えられます。

3)米国のDTx第二世代

2000年代後半から2010年代前半に、DTxは第二世代に入ります。
「行動変容」を強く意識したサービスが現れます。

具体的には、単に記録ができるということだけなく、ヘルスコーチといった専門家とともに行動習慣を定着化するサービスがついています。

事例(生活習慣病領域)としては、

・Livongo Health(2008年設立)
・Omada Health(2011年設立)
・Virta Health(2014年設立)
・Vida Health(2014年設立)

といった企業です。
第二世代はFDAから許可を受けているもの、受けていないものが混在します(弊社リサーチ範囲)。

上記4社の資金調達額は平均で311億円(1ドル100円換算)、売上など実績に関わる数値も公開されています。

第二世代は、第一世代から一歩進み「行動変容」を強く意識しています。

4)DTxのこれから

日本でもDTxの導入が進みはじめています。
では、米国のDTxの第二世代をそのままマネすればよいものでしょうか?

日本と米国では医療保険制度が違います。
米国は医療費が高く、健康予防意識が全体的に高いです。
一方日本は医療費が安く、健康予防意識が全体的に低いです。
この違いを前提にする必要があります。

つまり、日本でのDTxを考えるなら、米国の第二世代の「行動変容の本質」はなにかをよく理解すること。
さらに健康予防意識が低い日本で、どのような工夫を新たに加えるか、その点が今後問われてきます。 【脇本和洋】

今後、日本でのDTxを考えるなら

まず、米国第二世代の研究から始めましょう。

第二世代の代表といえるLivongo Health、Omada Healthが何をしているかをよく知ることが有効です。
その際は以下ヘルスビズウォッチ・レポート(有料)を参考にしてください。

■継続ドライバ型海外先行デジタルヘルス事例16(2023年版)
https://healthbizwatch.com/seminar/report001

・Livongo Health、Omada Healthの行動変容の本質を解説するだけでなく、「行動継続を促す工夫」という視点で500超事例から選んだ合計16事例を解説しています。
これらをヒントに日本版DTxのアイデア創出をすることをお勧めします。

・有名企業/大手企業の方から「アイデア出しに効果があった」といったコメントが寄せられおり、それを紹介しています。

健康ビジネスキーワード

「正解はひとつ」という思い込み

大企業とスタートアップのマッチング機会がとても増えており、うまくいく場合もあれば、途中で空中分解してしまうケースもあるが、今後も増加が予測されている。
スタートアップ達の自由なアイデア発想と行動力、フレキシビリティは、大企業ならずともあらゆる事業プレイヤーにとっては魅力的だし、大企業の環境・資産や資金力も事業開発に欠かすことのできないもの。

ここで、大企業側の課題の一つを例に出すと、まず「組織とはこう言うもの」と言う思い込みがある場合が多く、スタートアップ内の自由奔放に思える行動と業務進行のリズムが理解できないケースがある。
この場合、大企業内の指示系統内コンフリクトがよく発生する。
カウンターを務める担当者同士の世代差が大きい場合によく起こるパターンです。

スタートアップ世代では「オーガニック・リーダーシップ」が当たり前だ。
役割分担と取り決めはあるもののテーマによってそれぞれメンバーが自然にリーダーシップを発揮してリスクも取りに行く。
バーチャルゲームで育った世代としては普通。

大企業の傾向は、正解はひとつ(ベストなチョイス)を指向する。
スタートアップはセレクトをベストに近づけるための問いを設定しアプローチを続ける。
ここでセレクトに合理的な理由がない場合も多い。

この折り合いを超えるとうまく動き始めるケースをいくつか見てきました。

異才とのマッチングが今後の可能性を握ることが明白なだけにこの話、貴社はどう感じましたか?

今週の注目記事クリップ

[1]レット、携帯食・完全食・非常食をかねる<<未来食>>の特許を取得、スマホのように携帯する未来の完全食を発明(PR TIMESより)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000270.000063861.html
特許技術「携帯完全栄養タブレット」を業界で初めて取得したことを発表いたします。携帯完全栄養食『NEOFOOD(ネオフード)』として正式に販売を予定。(2023/08/02)

+++★追加解説動画:5分50秒(編集主幹 大川耕平)★+++
テクノロジーで食の未来をつくるフードテック企業
https://youtu.be/RuBUSrOgexA

[2]キリンホールディングス、CVCファンド「KIRIN HEALTH INNOVATION FUND」が専用の呼吸計とアプリで代謝状態を改善するサービス「Lumen」を展開するMeta Flow社に出資を決定【PDF】
https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2023/0802_02.pdf
https://www.kirinholdings.com/jp/
Meta Flow社は、世界各国で大きな健康課題である肥満対策市場を主な事業領域とし、専用の呼吸計とアプリを通じてユーザーの代謝状態を改善するサービス「Lumen」を展開するスタートアップ企業です。(2023/08/02)

[3]大日本印刷、「FitStats」がヘルスケア領域で初の情報銀行認定を取得
https://www.dnp.co.jp/news/detail/20169600_1587.html
「FitStats」は、DNPが2021年に業務提携した株式会社FiNC Technologiesの協力を得て開発したサービスです。サービス利用者数は、2023年7月末時点で10万人を超え、さまざまな企業にも利用されています。(2023/08/02)

[4]国立がん研究センターなど、日本人における予防可能ながんによる経済的負担は1兆円超え(推計)適切ながん対策により、経済的負担の軽減が期待される
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2023/0802/
がんによる経済的負担と、生活習慣や環境要因など予防可能なリスク要因に起因するがんの経済的負担を推計し、がん予防の経済効果を明らかにしました。(2023/08/02)

[5]issin、「スマートバスマット」がエディオン300超の店舗にて展示販売を開始(PR TIMESより)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000103350.html
ビックカメラ、ヤマダ電機、ヨドバシカメラ、Joshinなどをはじめ12社、展示345店舗へ取扱い拡大。(2023/08/02)

[6]UOCC、トクホと機能性表示食品はどっちがいい?認知度は?(PR TIMESより)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000025.000070676.html
保健機能食品として、特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品がありますが、消費者はどのように捉えているのか、認知度はどのくらいあるのか、アンケート調査を実施。(2023/08/02)

[7]SHANRI、50名未満企業へのストレスチェック・健康サポートサービスを開始(PR TIMESより)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000061997.html
地域かかりつけ医・産業医と連携した50人未満の小規模事業者向けストレスチェック・健康サポート。昨今、規模に関わらずメンタルの不調を訴える事例は多くなっており、従業員数50人未満であっても導入は推奨される傾向に。(2023/08/02)

[8]Welby、WelbyのPHRプラットフォームがマイナポータルと連携
https://welby.jp/category/news/230804150000.html
保健医療情報とライフログデータのシームレスな連携により、新たなPHR利活用ユースケースを創出。(2023/08/04)

[9]BREATHER、深呼吸の習慣化をもたらすブリージングデバイスファミリー「ston s」「ston」「ZORN」が100名中76%の医師の推奨意向を獲得!!(PR TIMESより)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000073545.html
深呼吸の習慣化をもたらすブリージングデバイスファミリー「ston s」「ston」「ZORN」で、エムスリーが提供する「AskDoctors評価サービス」による評価の結果、100名中76%の医師の推奨意向を得て「AskDoctors医師の確認済み商品」マークを取得しました。(2023/08/04)

[10]あすけん、2023年栄養の日のテーマ『間食』に関する調査を実施しました
https://www.asken.inc/news/2023/8/4/eiyoweek
2023年栄養の日のテーマ『間食』に関する調査。猛暑の夏!ダイエッターの間食はアイスより果物が人気。季節の旬の果物を中心に、冷やしても美味しくさっぱりと食べられる食べ物が上位にランクイン。(2023/08/04)

[11]Beyond Health事例:習慣化アプリでフレイル予防、公民連携で市民の行動変容を促す(Beyond Healthより)
https://project.nikkeibp.co.jp/behealth/atcl/feature/00003/072500302/
5人1組でチームとなった利用者が写真や歩数などを投稿、励まし合いながら行動変容を促し、高齢者のフレイル(虚弱)予防などで成果を挙げているスマホアプリ「みんチャレ」を開発したエーテンラボ代表取締役の長坂剛氏にアプリを使った取り組みについて聞いた。(2023/08/04)

[12]Personal Health Tech、100円で始める健康管理サービス「けんさぽ」導入社数200社突破!(PR TIMESより)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000123493.html
「けんさぽ」は健康管理システム「ログシル」と健診予約や健診データ入力などのアナログ作業のアウトソーシングを業界最安値水準である月額100円/人~で提供することで、企業の健康管理業務の負担を大幅に軽減する企業向け健康管理サービス。(2023/08/04)

[13]エコナビスタ、東京証券取引所グロース市場への上場に関するお知らせ
https://econavista.com/news/20230807_release_ceremony/
東京証券取引所グロース市場への上場を機に、私たちはより一層の信頼、認知度を獲得し、高齢者見守りシステム「ライフリズムナビ」の提供を推進してまいります。(2023/08/07)

[14]博報堂、消齢化社会 年齢による違いが消えていく!生き方、社会、ビジネスの未来予測(著:博報堂生活総合研究所)
https://www.hakuhodo.co.jp/news/info/105349/
本書では、30年におよぶ長期時系列調査「生活定点」の膨大なデータをもとに分析した消齢化の背景や、この先日本で起きそうな変化の仮説など、これまでの研究内容をご紹介しています。(2023/08/07)

[15]ブティックスタジオとオンラインのハイブリッドで世界に爆発的に広がる 女性専用ファンクショナルレジスタンストレーニング(Fitness Businessより)
https://business.fitnessclub.jp/articles/-/1767
Pvolveトレーニングの特長は、「P.ball」「P.band」「P.3 Trainer」など、独自で開発した特許取得済の機器を利用して、3Dで身体に負荷をかけながら、ファンクショナルトレーニングを行う点。(2023/08/07)

[16]MISOVATION、グローバル事業共創プログラム『Well-BeingX』に採択(PR TIMESより)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000073369.html
栄養学のテクノロジーを用いた次世代型味噌汁を開発するMISOVATION。スクラムスタジオ株式会社が主催するグローバル・オープンイノベーション・プログラム『Well-BeingX』2期目に採択されました。(2023/08/07)

[17]メディロム、24時間遠隔体調見守りシステム「REMONY」をリリース
https://medirom.co.jp/20230808
世界初、充電不要のスマートトラッカー「MOTHER Bracelet」を用いた、専用の体調見守り集中管理システムが完成。(2023/08/08)

[18]エンパワテック ソサエティー、87.38%がプレコンセプションケア(妊娠前の健康管理)の情報提供やサポートを受けたことがない 調査で明らかに
https://empowertec.co.jp/news/%e3%83%97%e3%83%ac%e3%82%b9%e3%83%aa%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%82%b9%e3%81%ae%e3%81%8a%e7%9f%a5%e3%82%89%e3%81%9b/
妊活・不妊でお悩みの方へ。未来への希望が広がる、プレコンセプションケア(妊娠前の健康管理)アプリ「Marbera」誕生。(2023/08/08)

[19]経済産業省、経済産業省からの委託と称する健康経営セミナーなどへの勧誘にご注意ください【PDF】
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/chuikanki.pdf
https://www.meti.go.jp/
経済産業省では、個別事業者を対象とした健康経営に関する営業電話について、一切関与していません。また、健康経営優良法人認定制度は、認定を受けることで直接的に金銭を享受できる制度ではありませんのでご注意下さい。

[20]いつ誰が減量プログラムから脱落するか?
https://mhealthwatch.jp/global/news20230804-2
オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の研究チームは、オンライン減量プログラムの脱落者を予測するAIを開発し、その研究成果をJournal of Medical Internet Researchで発表した。(2023/08/04)

[21]『mHealth Watch』注目ニュース:フェムテックもステルス化、行動変容不要の最新のヘルスケア事例3選
https://mhealthwatch.jp/japan/news20230814-2
今回の記事の中で紹介している3つの事例は、ヘルスケア意識の強化やヘルスケア行動の決断を必要とせずに「気づいたら健康行動をしていた」というもので、行動経済学の「ナッジ」のアプローチとも言えそうな気がしています。(2023/08/14)



+++★デジタルヘルス解説動画(オーサー 渡辺武友)★+++

【デジタルヘルス・ビジネスの疑問解消!】
デジタルヘルスのビジネスに関わる人に役立つ情報をお届けします。

第10回 現在、DTxが伸びない理由(5分16秒)
https://youtu.be/35jq3gilJLc

第11回 デジタルヘルス製品企画で重要なのはこれだ!(6分49秒)
https://youtu.be/sFXN1mnJ-Ic