[海外事例にみる継続支援アプローチ編]米国の法人向けウェルビーイングプログラムの動向(その2)
こんにちは、脇本和洋です。
今回は、米国の法人向けウェルビーイングプログラムの動向(その2)ということで、一歩深い理解をしていただきます。
ウェルビーイングは近年のトレンドキーワードとなっています。
ぜひ、先手を打って理解を深めておきましょう。
特集:海外事例にみる継続支援アプローチ編
先月号(参考1)では、米国の法人向けウェルビーイングプログラムの具体的事例として、Virgin Pulseのウェルビーイングプログラムを紹介しました。
簡単に振り返ると、Virgin Pulseのウェルビーイングの考え方は「社会的健康」を重視し、「経済的健康」「身体的健康」「心理的健康」にも配慮するというものでした。
このウェルビーイングの考え方は、日本では一般社団法人社会的健康戦略研究所(参考2)の考え方と似たものがあります。
そこで今回は、ヘルスビズウォッチ・オーサーであり社会的健康戦略研究所も兼任する渡辺武友理事に、ウェルビーイングプログラムについて一歩踏み込んで話を聞いたので、それをお届けします。
1)社会的健康の重要性
2)企業における社会的健康
3)健康経営のこれから
4)ウェルビーイングで一歩先を行くには
5)法人向けウェルビーイングプログラム、一歩先を見ることの大切さ
(参考1)先月号>米国の法人向けウェルビーイングプログラムの動向(Virgin Pulseのウェルビーイングプログラム)
https://healthbizwatch.com/column/hbw-1054
(参考2)一般社団法人社会的健康戦略研究所
https://www.kenko-senryaku.or.jp/
1)社会的健康の重要性
【質問】まず、「(一社)社会的健康戦略研究所」の考えるウェルビーイングを教えてください。
渡辺理事:
社会的健康戦略研究所では、「健康」に対して、WHO憲章の「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること(日本WHO協会訳)」とする定義に共感し、社会的健康戦略研究所で定めるコアポリシーにおいてもWHOの定義を基軸としています。
ご質問のウェルビーイングも、この「健康」の定義とイコールと考えています。
特にWHO憲章原文で書かれている「social well-being」に注力し、研究を行っています。
【質問】なぜ、「social well-being」、つまり社会的健康を重視するのでしょうか?
渡辺理事:
人は何かしらの社会と関わっています。
学校であったり、会社であったり、家族もその1つです。
その人が関わる社会が思わしくない状態であれば、その人にとっても影響が出てしまいます。
わかりやすく言うと、例えば会社で上司や同僚からパワハラやセクハラを受ける環境にある場合、その人はメンタル疾患を患う可能性がありますね。
そのような状況で、対象者個人にメンタル治療を行っても、環境が変わっていない会社に復職すれば、またすぐにメンタルに悪い影響を与えてしまいます。
個人は社会から大きな影響を受けるものです。
これは悪い影響だけでなく、よい影響に関してもそうです。
ですので、個人の心身だけをみて改善するのではなく、ベースとなる社会をよりよい状態にすることが先にあるべきと考えています。
もちろん、物事は入り組んで進みますので、社会環境を理想の状態にしてから個人の心身に対応すると、人によっては悪化してしまいますので、実際は同時期に取り組まれます。
2)企業における社会的健康
【質問】社会的健康の重要性はわかりました。では「企業における社会的健康」とはどのようなものでしょうか?
渡辺理事:
現在はVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代と言われ、今までの考え方では立ち行かないことが多くなっています。
そのような背景の中で、事業継続性を高め、さらに発展していこうとなれば、人材の重要性は無視できません。
しかし、昔のように一度入社したら一生涯働くような考え方は、若い世代になればなるほど持っていません。
人材が重要と考えるなら、今の時代、今の自社にとっての社会的に健康な状態が必須となります。
そのために必要なものとして、心理的安全性や働き方改革などが挙げられますが、自社の人材にとって、どんな心理的安全性が必要なのか?それだけで満たされるのか?を考えなくてはなりません。
心理的安全性だけが担保されても、仕事のやりがいにつながらなかったり、成長を実感できなかったりなどの弊害も生まれます。
自社にとっての健全な状態、それが企業における社会的健康と言えると思います。
3)健康経営のこれから
【質問】日本では法人向けウェルビーイングプログラムは、健康経営の中で語られることになると思いますが、健康経営は今後どのようになっていくと思いますか?
渡辺理事:
日本では健康経営を経済産業省が舵取りをして推進してきました。
毎年、健康経営度調査票を提出する企業が増加しています。
「健康経営優良法人2023」認定法人も、大規模法人部門2,676法人、中小規模法人部門14,012法人にもなりました。
これって実は世界的に見ても例のないことでして、米国ではいくつかの民間団体が認定を行っていますが、日本では国主導で行い、しかも強制でない中、毎年参加法人が増えているのです。
ここ数年、中小企業にも広がったこともあり、地域ごとに健康経営を活用していこうとの動きが出てきました。
このような現状からも、健康経営の考え方が軸で進んでいくのは間違いないと思いますが、まだまだ「経営による従業員の健康管理をすることが健康経営である」との誤解もありますので、現在考えられている『進化した健康経営』を訴求していくことが必要です。
健康経営は、誰もが簡単に、同じ程度に理解するには、少々難易度が高いと思っています。
企業の状態により、健康経営にどう取り組むのか違いがあるのは当たり前のことですが、基本的な部分や誰でも必要とすることに関しては、ガイドラインを設けてわかりやすくする必要があります。
また、作成するガイドラインは、日本だけに閉じるのではなく、世界に対しても広めていきたいとの考えがあります。
令和3年12月の「健康・医療新産業協議会 第4回健康投資WG」にて、経済産業省より「健康経営の未来像」で国際ルール化が示されました。
参考>「健康・医療新産業協議会 第4回健康投資WG」(P27)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/004_02_00.pdf
その取り組みが、国際標準化『TC314 Aging Societies WG4 ISO/NP25554 Guideline for Promoting Wellbeing in Local Communities and Organizations(ウェルビーイングの促進)』になります。
4)ウェルビーイングで一歩先を行くには
【質問】国際標準化(ウェルビーイングの促進)についてもう少し詳しく教えてもらえますか?
この取り組みは日本から提案し、国際会議の場で承認されましたので、現在、日本が議長国となり、日本規格協会、産業技術研究所、社会的健康戦略研究所が連携しながら進めています。
現在、ISO/NP25554 Guideline for Promoting Wellbeing in Local Communities and Organizationsには、国内委員と、この取り組みを企業のビジネスに活かすための部会があります。
私は後者の企業ビジネスに活かすための部会を担当しています。
国内委員の役割は、現在は「ウェルビーイングの促進」をガイドライン化することです。
この段階では、企業におけるビジネスへの関わりはあまりないです。
一方標準化は、本来、企業の事業戦略に活用するものです。
「ウェルビーイングの促進」のガイドラインを活かして、どう企業の事業戦略に貢献するのか?を支援する組織が必要になりますので、社会的健康戦略研究所にてビジネスに活かすための部会も創設して取り組んでいます。
標準化を事業戦略に活かすことは、グローバル市場では当たり前になっています。
例えば、Googleはこの活動に年間20億円以上を投じているくらい重要視しています。
残念ながら日本企業でも標準化に対する予算は多いところでも、Googleの1/100以下です。
TBT(国際規格の策定)協定により、WTO(世界貿易機関)加盟国(もちろん日本も含まれる)が技術的な規制や国家規格を設ける際には、国際標準を基礎とすることが義務付けられています。
つまり、どんなによい商品、サービスを作っても、誰かがルールを決めてしまったら、それに従わなければなりません。
このことが原因となり、世界市場で思うように戦えないケースが多く見られます。
しかし、今回は「ウェルビーイングの促進」において『日本』が議長国を努めています。
これは日本企業とって、大きなチャンスとなります。
自社ビジネス発展のためにも、ぜひこの機会を活かして欲しいと思います。
5)法人向けウェルビーイングプログラム、一歩先を見ることの大切さ
今回の渡辺理事へのインタビューいかがでしたでしょうか。
改めて、ウェルビーイングにおける社会的健康の大切さを理解いただけたと思います。
そして、『進化した健康経営』を目指し、長期的視点で健康経営市場で勝負をかけていくには、日本政府が進める国際標準化「ウェルビーイングの促進」の動きは、無視できないでしょう。
この国際標準化「ウェルビーイングの促進」は、社会的健康戦略研究所の浅野健一郎代表理事が国内委員長を努めています。
社会的健康戦略研究所が運営に関わっていますので、もし興味がある場合は、社会的健康戦略研究所の渡辺理事に直接お問い合わせされることをお勧めします。【脇本和洋】
参考情報>国際標準化『TC314 Aging Societies WG4 ウェルビーイングの促進』ビジネス活用
https://healthbizwatch.com/iso-top
●渡辺理事への問い合わせ
https://healthbizwatch.com/consultation?athr=13
健康ビジネスキーワード
「シナジーはファンタジー」
シナジー効果とは相乗効果。複数のプレイヤーが互恵効果を得ること。
とても耳聞こえの良いワードですが、この言葉が何かの合意形成のために威力を持っている組織は要注意です。
これぞシナジー効果という現象を実はあまり見たことがないのではないでしょうか?
シナジーはファンタジーです。
シナジーを安易に使うのではなく、個別具体的な効果を丁寧に定義し追求しましょう。
シナジーでぼかすのをやめましょう。
今週の注目記事クリップ
[1]電通、健康意識が高くても、運動だけはしないタイプも!?7つのヘルスケア・クラスター
https://dentsu-ho.com/articles/8693
ウェルネス1万人調査からひもとく最新のヘルスケア・インサイトNo.2。今回は「第17回ウェルネス1万人調査2023」の分析結果を紹介。皆さんのヘルスケアビジネスがターゲットにしたいのは、どんな特性を持つ生活者でしょうか?(2023/10/04)
+++★追加解説動画:7分23秒(編集主幹 大川耕平)★+++
ヘルスケアビジネス成功の鍵 ヘルスケア・クラスターの理解
https://youtu.be/1k5QSXJK9Lo
[2]伊藤忠テクノソリューションズ、オンラインヘルスケアアプリ「HELPO」を法人向けに提供
https://www.ctc-g.co.jp/company/release/20231004-01631.html
「HELPO」は、チャットによる健康医療相談、オンライン診療、病院の検索、一般用医薬品の購入などをスマートフォンアプリからワンストップで提供するヘルスケアサービスです。(2023/10/04)
[3]野村不動産など、サービス付き高齢者向け住宅初、入居することで自然と社会参加が促され、要介護リスクの低減につながる可能性があることを数値で評価【PDF】
https://www.nomura-re.co.jp/cfiles/news/n2023100402299.pdf
https://www.nomura-re.co.jp/
健康増進型・サービス付き高齢者向け住宅における暮らしと健康維持・増進の関係性の評価 第2弾。(2023/10/04)
[4]大正製薬、セルフコンディショニング管理スマートリング「SOXAI RING 1」を大正製薬ダイレクトで新発売
https://www.taisho.co.jp/company/news/2023/20231005001413.html
「SOXAI RING 1」は、デザイン性・装着性にこだわった、負担なく、ヘルスチェックが可能な最先端スマートリング。「指」への装着で、さりげなく健康管理。(2023/10/05)
[5]住友生命とヘルスケアテクノロジーズが資本・業務提携契約を締結
https://healthcare-tech.co.jp/news/20231005.html
今回の資本・業務提携を通じ、両社の持つサービスやノウハウを活用し、さらなるWaaSサービスの拡充とデジタルヘルスケアの推進に向け連携していきます。(2023/10/05)
[6]エムティーアイ、『CARADA健診サポートパック』疾病の早期発見・早期診療につなげる仕組み「CARADAファストパス」をスタート!
https://www.mti.co.jp/?p=33949
健診結果の説明や二次検査をオンラインで受診できる機能を追加し、自身の健康情報データをもっと便利に活用できる環境を整え、PHRの促進へ。(2023/10/05)
[7]筑波大学、ノンアルコール飲料の提供で飲酒量が減少することを世界で初めて実証
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20231005140000.html
ノンアルコール飲料の提供により飲酒量が有意に減少すること、その効果は提供終了後8週間後も持続していることを初めて見いだしました。(2023/10/05)
[8]セルフヘルスケア市場、6.8兆円(2023年)クロステックが将来的な市場拡大へ寄与(ウーマンズラボより)
https://womanslabo.com/market-231005-1
富士経済が、2023年の国内のセルフヘルスケア関連市場を6兆8,930億円(見込み)と発表した。内訳は疲労回復、メンタルヘルス、睡眠などの20項目で、「セルフヘルスケア」の括りで推計したのは初めて。(2023/10/05)
[9]asken、askenテックブログ更新「あすけんのプロダクトマネジメントチームを作った話」
https://www.asken.inc/news/2023/9/20-techblog-x4s83-pebtl
askenエンジニアによる公式ブログ『asken テックブログ』では、技術やエンジニアの組織の在り方や働き方などについて情報発信を行っています。今回は、弊社取締役 管理栄養士の道江美貴子が執筆を担当しました。(2023/10/06)
[10]ウェルネス・コミュニケーションズ、従業員の生産性向上で人的資本経営へ「みんなの健康支援チーム 2023 beginning」【PDF】
https://wellcoms.jp/data/news/241/news.pdf
https://wellcoms.jp/
人事・労務・産業保健職担当者向けセミナー。開催日は2023年11月10日(金)。睡眠・栄養・運動の3テーマを通して、従業員の生産性向上から人的資本経営に繋げるセミナーを、会場・オンライン配信で同時開催。(2023/10/06)
[11]ワコールなど、基礎体温測定と医療相談機会の提供で働く女性の健康づくりを支援
https://www.wacoalholdings.jp/news/2023/post-43.html
オムロンとLIFEM、ワコールの3社は、基礎体温データと法人向けフェムテックサービスを使った働く女性の健康支援事業の実証実験を開始します。(2023/10/10)
[12]第一三共、Healthcare as a Service(HaaS)の実現を目指し味の素株式会社と食・栄養関連の課題解決に向けた協業を合意【PDF】
https://www.daiichisankyo.co.jp/files/news/pressrelease/pdf/202310/20231010_J1.pdf
https://www.daiichisankyo.co.jp/
協業の第一弾として、味の素社が本日開設した、摂食に関する困りごとに対応したAI搭載献立支援サイト「ReTabell(リタベル)」の普及を共同で進めます。(2023/10/10)
[13]シンコキュウ、深呼吸を誘発し習慣化するデバイス「シンコキュウ」を開発(PR TIMESより)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000130436.html
慶應義塾大学で行われた研究成果を元に開発。パソコンやスマホ利用時の「スクリーン無呼吸症候群」などの日常的な呼吸障害を改善し、生産性とウェルビーイングの向上に貢献します。(2023/10/10)
[14]世界メンタルヘルスデー:仕事・職場でストレスを感じる女性は83%、理由トップ5(ウーマンズラボより)
https://womanslabo.com/news-women-231009-2
厚労省の調査によると、仕事でストレスを感じている人は女性83.7%、男性80.5%。ストレスの内容を男女別に聞いたところ、トップ5は性差が見られた。(2023/10/10)
[15]Apple Watchの体温データ、妊娠可能日予測アプリ「Natural Cycles」と同期可能に
https://mhealthwatch.jp/global/news20231004-2
「Natural Cycles」は女性の月経周期に伴う体温変化を記録するアプリで唯一、避妊目的の利用を米食品医薬品局(FDA)が認証しているアプリ。(2023/10/04)
[16]『mHealth Watch』注目ニュース:NTTコミュニケーションズ、「脳の健康チェックplus」の有償トライアルを開始
https://mhealthwatch.jp/japan/news20231016
今回注目するのは、認知症になる一歩手前の状態を電話でチェックするサービスの有償トライアルに関するニュースです。(2023/10/16)
+++★デジタルヘルス解説動画(オーサー 渡辺武友)★+++
【デジタルヘルス・ビジネスの疑問解消!】
デジタルヘルスのビジネスに関わる人に役立つ情報をお届けします。
第24回 ヘルスケアシステム大手Kaiser Permanente、課題解消につなぐAIアシストとは?(7分28秒)
https://youtu.be/IfsVa9ePl5M