[ヘルスコーチングの視線編]ヘルスコーチングの可能性を探る:「ナッジ」と「ヘルスコーチング」
こんにちは、里見です。
先日、ヘルスプロモーション学会に参加した際、「ナッジ」について学ぶ機会がありました。
そこで今回は、「ナッジ」についてヘルスコーチングの視点でお話してみたいと思います。
特集:ヘルスコーチングの視線編
1、ナッジとは?
『ウィキペディア(Wikipedia)』では、ナッジの本来の意味は「(合図のために)肘で小突く」「そっと突く」という意味で、行動経済学、政治理論、そして行動科学の一概念とされています。
最近では、行動変容を促す手法であるナッジ理論として知られており、幅広い場面での応用が注目されてきています。
人々が自分自身にとって、より良い選択を自発的にとれるように手助けする手法ということで、このナッジはヘルスケア分野での活用も拡がってきている印象です。
このナッジについては、活用のツールが世界中で数多く開発されているらしく、その中の一つに「MINDSPACE」という、ナッジのエッセンスを体系的に整理したツールがあります。
今回は、この「MINDSPACE」を下敷きに、ナッジのエッセンスをご紹介しながら、そのエッセンスについてヘルスコーチングでの視点、活用の可能性などを解説していきます。
2、ナッジのエッセンスを体系的に整理したツール「MINDSPACE」
「MINDSPACE」とは、以下の9個の特性の頭文字を取ったものです。
・Messengers(メッセンジャー)
・Incentives(インセンティブ)
・Norms(規範)
・Defaults(デフォルト)
・Salience(顕著性)
・Priming(プライミング)
・Affect(感情)
・Commitments(コミットメント)
・Ego(エゴ)
この9つは、人の行動変容に影響する要素を社会心理学、認知心理学、行動経済学の観点からまとめたものです。
それでは、9つの要素、特性について簡単にご紹介します。
・Messengers(メッセンジャー)
権威のある、あるいは重要な人からの情報など、誰からの情報かに影響を受ける
・Incentives(インセンティブ)
その行動をとらないと損するように思える。インセンティブやペナルティがある
・Norms(規範)
他の人がやっていること、他の人の態度に影響を受ける
・Defaults(デフォルト)
あらかじめ設定されたもの(初期設定)にそのまま従う傾向がある
・Salience(顕著性)
目立ったり、自分に適していると思うもの、シンプルなものに反応する、惹かれる
・Priming(プライミング)
潜在意識が行動のきっかけになる
・Affect(感情)
感動するものに惹かれる、感動に左右される
・Commitments(コミットメント)
宣言や約束を公表することで行動を達成しやくなる
・Ego(エゴ)
自分に都合の良い、自分が満足するような行動をする
これらの9つは、人に行動を促すために必要な要素であり、効果的な方法の条件と言えます。
ヘルスケアの取り組みでは、特に案内告知、勧奨などの領域で、これらの要素、視点を用いて活用することが多くなってきています。
次に、アプローチの活用、組み合わせなどのポイントについて説明していきます。
3、ナッジが効果的な領域
ナッジは、「(合図のために)肘で小突く」「そっと突く」といった本来の意味を含んでいることから、行動のきっかけづくり、動機付けの領域で特に効果的ではないかと私は考えています。
また、ナッジは継続性に乏しいということも言われており、これまでの研究でも短期的(数週間以下)な調査が多く、継続に対する効果については、まだまだよくわかっていないというのが現在の状況のようです。
例えば、人が行動を起こす際のきっかけとして考えた場合をみてみましょう。
「MINDSPACE」の中のIncentives(インセンティブ)は、ヘルスケアの中では一般的に活用されている要素の一つです。
金銭的な報酬という位置付けのインセンティブの場合には、行動を起こすきっかけ作りとしては有効だと思います。
しかし、インセンティブだけで行動の継続に導くためには、インセンティブを変化させるなど、初期のインセンティブのままで変化がない状況では、継続に導くことは難しいです。
だからと言って、このナッジのアプローチや特性、要素である9つの「MINDSPACE」が行動の継続に全く作用しないかというと、そんなことではありません。
行動の継続、習慣化に向けたコミュニケーションであるヘルスコーチングのアプローチにも通じる点、応用可能な点が多いと感じています。
4、ヘルスコーチングにおけるナッジ、「MINDSPACE」のアプローチ
ヘルスコーチングは、行動変容、健康行動の継続、習慣化に向けたアプローチ、コミュニケーション技法です。
ヘルスコーチングのアプローチ、要素の中でも、人々が自分自身にとってより良い選択を自発的に取れるように手助けするという視点は、ナッジと共通して言えることだと考えています。
また、ナッジの具体的なアプローチ、要素についても、ヘルスコーチングの視点に置き換えると使っている要素、アプローチになっている印象です。
例えば、「MINDSPACE」のMessengers(メッセンジャー)で言えば、ヘルスコーチングで寄り添うヘルスコーチは、健康専門家が担うケースが多いです。
対象者に健康情報を伝えて提供する場合には、あくまでも対象者の選択を支援、サポートする位置付けになりますが、提供する情報、届けるコンテンツについて健康がテーマでは、やはり情報についての背景やエビデンスなどの信頼性、信憑性が重要になってきます。
健康専門家が情報提供することで、その情報に基づいて行動する確率が高まるといったナッジのMessengers(メッセンジャー)の要素は、ヘルスコーチングでも確実に活用している要素なのです。
また、ナッジの要素、特性のNorms(規範)についても、正しい、効果がある行動を選択する際の物差しとして、その行動を選択して成功した人の情報を与えたり、口コミを参考にしてもらうなど、同じような状況の人が何をしているのかという情報を、納得して自ら行動を選択するという行為につなげるために活用していたりします。
さらに、Commitments(コミットメント)は、ヘルスコーチングで重要な要素である目的、ゴールを明確化する際に、自身の言葉でヘルスコーチに明確化して共有する際と同じ要素ではないかと感じています。
人は、一度公言したことを守ろうとする意識が働きますので、公言(ヘルスコーチに対する共有)することで行動が促されるということになります。
また、Commitments(コミットメント)は、自分の取り組みを家族や周囲に話すことで、より効果的に働く印象があります。
このように、ナッジの要素、特性は、実はヘルスコーチングにも活用可能な部分が多いのです。
その理由としては、ヘルスコーチングは継続した取り組みをサポートして対象者のゴールに寄り添う、導くことが中心になります。
対象者がゴールに向かっていくプロセスでは、対象者自らがいろいろ選択して、決断して行動に繋げていくということを繰り返していくことになります。
ナッジの、人々が自分自身にとってより良い選択を自発的に取れるように手助けするというアプローチは、ヘルスコーチングで対象者がゴールに向かっていく途中、局面で行動を継続して習慣化していく際に必要な要素、アプローチと根本的には同じなのです。
ナッジについて、私の感覚では、現状の行動変容ステージ「無関心層」「関心層」「準備期」の人達に、自発的に動いてもらうアプローチ、仕掛けとしてヘルスケア領域では活用されている印象です。
また、上記でも書きましたが、ナッジは継続性に乏しいということも言われており、これまでの研究でも短期的(数週間以下)な調査が多く、継続に対する効果については、まだまだ良くわかっていないということから、行動変容ステージの「実行期」「維持期」の人達の行動の継続、習慣化という領域では、現状活用されていないのではないかと感じています。
しかし、今回説明したようにナッジの要素、特性を行動の継続、習慣化の視点で見てみると、活用、応用できる要素、アプローチなのです。
今回、ヘルスコーチングの視点でナッジを見てみましたが、ナッジとヘルスコーチングを組み合わせることで、行動変容ステージの「無関心層」から「維持期」までカバーできるのではと考えています。
ナッジとヘルスコーチングの組み合わせについてご興味ある方、ディスカッションしてみませんか?
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●ヘルスコーチングの実証実験結果はこちら
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健康ビジネスキーワード
「キャッチアップの肝」
優れた異分野のプロセス技術をキャッチアップすることは多くの事業プレイヤーが試みる。
しかし、上手くいかないケースがほとんど。
変わるトレンド&テクノロジー(A)とすると、それを創出する根源が存在していて、そこにあるのは変わらぬ本質(B)がある。
みんな見えている(A)だけ真似て失敗する。
上手くいかせる重要なことは(B)をベースとすること。
そして試行錯誤しながら自分オリジナルにアレンジがベターです。
今週の注目記事クリップ
+++★注目ニュース解説動画(解説:里見将史)★+++
【今回の注目】
Awarefy、AI新機能「AI ヒント」をリリース。セルフワークに他者の視点を取り入れられる、全く新しい内省体験を実現(2024/01/11)
https://www.awarefy.com/news/press-release-20240111
→解説はコチラ
「メンタルヘルスAI」に学ぶヘルスケアサービス継続のポイント(6分35秒)
https://youtu.be/2F80PtKD04M
+++★注目記事クリップ★+++
[1]早稲田大学など、高齢者の死亡リスクが最も低くなる最適な体格とは?
https://www.waseda.jp/inst/research/news/76261
65歳以上の地域在住日本人高齢者10,912名を対象に体格の指標であるBMIと死亡との量反応関係を検討し、高齢者のフレイルの有無によって、死亡リスクが最も低くなる最適なBMIが異なることを世界で初めて報告しました。(2024/01/17)
[2]日本デジタルヘルス・アライアンス、ヘルスケア領域に特化した生成AI活用のガイドラインを策定
https://jadha.jp/news/news20240118.html
JaDHAでは、ヘルスケアサービスを提供する事業者が、生成AIによる多様なサービスを創出し、利用者が安心してサービス選択できる環境を構築することを目的に、いち早く本ガイドラインを策定しました。(2024/01/18)
[3]東京大学など、不眠症に対する認知行動療法の有効な要素を解明
https://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/press.html#20240118
本研究では、最先端の統計解析手法である要素ネットワークメタアナリシスを用いることで、複数の要素の組み合わせから成る不眠症の認知行動療法の要素ごとの有効性を世界で初めて推定しました。(2024/01/18)
[4]資生堂、「SHISEIDO BEAUTY WELLNESS」より3つの商品ブランドが誕生
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000003754
「SHISEIDO BEAUTY WELLNESS」は、一人ひとりの自分らしい健康美を実現するインナービューティーブランド。第一弾として3つの商品ブランドを順次発売。ツムラと共同開発の「TUNE BEAUTE(チューンボーテ)」など。(2024/01/18)
[5]サイキンソー、個人向け腸内フローラ検査サービス「マイキンソー Gut V2」項目数2倍の検査結果アップデートのお知らせ
https://cykinso.co.jp/news/20230118
今回のアップデートで検査項目数が2倍の20項目に増えるほか、個別菌ごとの実践的なアドバイスが追加となります。さらに、特許も取得しているサイキンソーの独自スコアである「腸内フローラ判定」も搭載。(2024/01/18)
[6]味の素、「One ALL」新発売
https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/presscenter/press/detail/2024_01_18_01.html
日本初“女性のための完全栄養食”誕生!<濃厚クアトロフォルマッジのスープパスタ><バターチキンカレー風味のスープパスタ>をD2Cチャネル(AJI MALL)限定で販売開始。(2024/01/18)
[7]資生堂、ラスベガスで開催された「CES 2024」に初出展
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000003758
適切なスキンケア美容法の実践をサポートするアプリ「Beauty AR Navigation」と、顔画像から将来の肌悩みを予測できるツールを世界で初披露。(2024/01/19)
[8]おいしい健康、パーソナライズ献立提案・栄養管理アプリを活用した管理栄養士による食事コーチング事業を開始
https://corp.oishi-kenko.com/news/20240119.html
本事業のローンチカスタマーとして、学校法人慶應義塾の運営する「慶應義塾大学病院予防医療メンバーシップ」において、2024年1月より本サービスを提供スタート。(2024/01/19)
[9]住友生命、エーテンラボ株式会社との生活習慣行動変容プログラムの開発について【PDF】
https://www.sumitomolife.co.jp/about/newsrelease/pdf/2023/240122.pdf
https://www.sumitomolife.co.jp/
住友生命は、お客さまの健康増進をサポートするVitality健康プログラムを中心としたWaaS(Well-being as a Service)を通じてお客さまのウェルビーイングに資するサービスの提供を目指しています。本プログラムでは、みんチャレの機能をWaaSの各サービスに組み込めるようにします。(2024/01/22)
[10]森トラスト、街歩きスマホアプリ「MIALK 神谷町」を提供開始
https://www.mori-trust.co.jp/news/2024/20240119/
三井情報と連携し、神谷町エリアの街歩きスマホアプリ「MIALK(ミアルク)神谷町」を配信し、神谷町エリアの地域コミュニティ活性化に向けた実証実験を開始します。(2024/01/22)
[11]エクサウィザーズ、超高齢社会の新しいWebアプリマーケティングツール「CareWiz トルト for me」あいおいニッセイ同和損害保険が導入決定
https://exawizards.com/archives/26594/
AIによる歩行・口腔機能分析を活用し、パーソナライズした情報提供が可能となるもので、今回が初の導入事例となります。本サービスは、一般企業向けに2024年2月にリリースを予定しています。(2024/01/22)
[12]アールビーズ、ランナー世論調査 2023:コロナ禍を経て、健康のために走り始めた人が増加。ランニングの楽しみ方は多様化が進む(PR TIMESより)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000036.000009592.html
2018年以来5年ぶりに実施された「ランナー世論調査」(一般財団法人アールビーズスポーツ財団調べ)より、“コロナ禍を経てランナーはどう変わったか?”を調査。(2024/01/22)
[13]「ソーシャルメディア」の使いすぎがメンタルヘルスを悪化|1日に30分減らしただけで仕事の満足度も向上(保健指導リソースガイドより)
https://tokuteikenshin-hokensidou.jp/news/2024/012823.php
「フェイスブック」「X(旧ツイッター)」「LINE」などのソーシャルメディアの使いすぎは、ストレスを高めるという研究が発表された。(2024/01/22)
[14]2023年12月の世界のスタートアップ資金調達額トップ20[ヘルスケア編](TECHBLITZより)
https://techblitz.com/fundraising-list-healthcare-202312/
今回は<ヘルスケア>に関連するスタートアップのうち、2023年12月に資金調達を行った企業の調達額トップ20社をリスト形式のレポートにまとめました。(2024/01/23)
[15]Amazon、デジタルヘルスの利点を発見できるようにすることを目的とした『Health Condition Programs』
https://mhealthwatch.jp/global/news20240122
糖尿病前症、糖尿病、高血圧などの慢性疾患の管理に役立つデジタルヘルスの利点を人々が見つけやすくすることを目的とした新しい取り組み。(2024/01/22)
[16]『mHealth Watch』注目ニュース:筑波大学、ノンアルコール飲料提供による飲酒量減少プロセスに性差あり
https://mhealthwatch.jp/japan/news20240129
今回の調査結果である男女でのプロセスの違いについては、男女での飲酒行動の違いなども影響しているため、解明されていないことが存在していると説明されています。(2024/01/29)