こんにちは。脇本和洋です。

今号のテーマは「Femtech(フェムテック)」。
Female(女性)とTechnology(テクノロジー)をかけ合わせた造語で、女性特有の疾患を解決しようという取り組みです。
今回は、Femtechの領域の中でも「更年期障害」に着目して3つ事例を紹介します。

特集:海外事例にみる継続支援アプローチ編

Femtech(更年期障害領域)における3つの注目事例

Femtechの領域(健康課題、疾患)は、大きく3つに分けることができます。

1)生理管理/妊娠/出産/産後ケア/乳児見守り
2)更年期障害(注1)
3)その他(尿漏れ、冷え、セクシャルウェルネス、貧血、子宮に関わる疾患など)

2013年から現在までは、1)の生理管理/妊娠/出産/産後ケア/乳児見守りという領域で様々な事例が現れ、現在も増えています。この領域には1,000以上のサービスがあるとされます。

そして、2017年ぐらいから現れはじめ、近年開拓されてきているのが、2)の更年期障害をテーマにしたFemtechです。
更年期障害は英語でMenopause(メノポーズ)と言われるため、「MenopauseTech」「MenoTech」とも呼ばれたりします。

今回は、Femtechの中でも更年期障害という領域に絞り、

  • 機器
  • 食品
  • コミュニケーションサービス

という切り口でベンチャー企業3社を紹介します。


(注1)更年期障害とは
45歳~55歳位の女性(更年期の女性)において、女性ホルモン減少で自律神経が乱れることによって起こる心身の不調を指す。主な症状としては以下のようなものがあるが、個人差が大きい。

・ホットフラッシュ(突然の汗)、ほてり、のぼせ
・動悸、息切れ、めまい、頭痛、冷え症、疲れやすさ、肩こり、腰痛
・気分の落ち込み、意欲の低下、イライラ感、不眠
など

事例1.機器によるアプローチ「Grace」

1つ目の事例は、更年期障害の一つである「ホットフラッシュ」に対する解決策。
ホットフラッシュは、突然に上半身や顔が熱くなり、大量の汗がでるというもの。
不快で恥ずかしいと感じさせるものです。

ホットフラッシュが起きた際には、まずは体を冷やすことが基本ですが、Graceはその点に着目します。

■Grace(Astinno社)
https://www.gracecooling.com/

■資金調達額:約5,000万円(2022年1月時点、現在開発中)

■サービス概要

  • リストバンド型のウェアラブルデバイスで、ホットフラッシュに伴う体温上昇を素早くキャッチし、手首を冷やす機能をもつ
  • ホットフラッシュと気づく前にセンサーが察知し、対策を打てることを目指している

■サービス継続の工夫

  • 即効性があることがサービスを続ける第一の理由になると思われる
  • ウェアラブルデバイスにホットフラッシュが起こるタイミングが記録されることにより、起こりやすいパターンに本人が気づけることも、続ける動機になると予想する

事例2.食品によるアプローチ「Womaness」

2番目に紹介するのは、更年期障害を専門に商品を販売するWomaness。
食品(サプリメント)を中心としつつも、化粧品、尿漏れ対策商品なども販売する。

■Womaness
https://womaness.com/

■設立:2020年

■資金調達額:4億円(2022年1月時点)

■サービス概要

  • 例えば、ホットフラッシュではサプリメント、冷却用のミスト、ボディケアシートなどを提供
  • ホットフラッシュのサプリメントでは、天然素材で作った医師推奨のものを提案

■サービス継続の工夫

  • 創業者であるSALLYさんが更年期障害を経験し、選び抜いていることが購入を続けるために必要な信頼性につながっている
  • 天然素材というサプリメントのブームにしっかり乗っている
  • 更年期障害に対する暗いイメージを感じさせない、明るく前向きに感じさせるデザイン性に配慮したパッケージにしている。このような印象を与えていること自体も継続性を高める工夫になっていると思われる

事例3.コミュニケーションサービスによるアプローチ「Gennev」顧客感情とは?

更年期障害の改善には、睡眠・運動・食事に関して見直すこと、つまり基本的な生活習慣の改善が有効です。ここに着目しているのが3つ目に紹介するGennevです。
Gennevは、本メルマガで過去にも取り上げたので、最近のトピックも紹介しましょう。

■Gennev
https://gennev.com/

■設立:2015年
※CEOのジル・アンジェロさんがInc社(ベンチャー企業を支援する業界誌)の第3回Female Founders 100に選ばれる(2020年10月)

■資金調達額:4.5億(2022年1月時点)

■サービス概要

  • 自分の更年期タイプを知り、自身の健康づくりの現状を俯瞰する
  • ヘルスコーチと話し、自分に合ったプラン(ゴール、食事・運動などの健康行動)を知る
  • サプリメント購入の際、場合によってはビデオ通話を使い医師による処方を受ける
  • ヘルスコーチ、医師とメッセージをやりとりする

■2020年から2021年の主なトピック

  • 2020年6月:更年期障害のタイプ分類を発表(例:タイプ1は閉経前の女性、タイプ3は閉経後数年たった段階の女性、など)。そのタイプに合わせてサービス提供ができるようにしている様子
  • 2021年6月:職場における更年期障害のリサーチ結果を発表(調査対象の女性の45%が更年期障害の症状により病欠したことがあると回答。66%が従業員が無料で更年期障害の専門医に相談できることを望むと回答)。自社の取り組みの意義を訴求する

■サービス継続の工夫

  • 同社のサービスは単なる遠隔診療ではない。ヘルスコーチが、基本的な生活習慣を改善し定着させる支援をする(ヘルスコーチは行動変容のトレーニングを受けた栄養の専門家)
  • ヘルスコーチはガイド役でありサポート役である。顧客とプランを設計し、経過を共有しながら、顧客に寄り添って進めていく

今後期待できる更年期障害領域

今回は、更年期障害領域における3つのアプローチを紹介しましたが、いかがでしたか。

そもそもFemtechが注目される背景としては、以下の2つが大きいとみています。

(1)SDGs(エスディージーズ)の目標5にジェンダー平等が謳われ、女性が社会で活躍するために、女性特有の健康課題を解決することが重要であるという認識が高まってきている。

(2)日本では2019年、健康経営銘柄の選定要件に「女性の健康保持・増進に向けた取り組み」が追加されたり、2021年にはフェムテネック新興議員連盟が提言を行うなど、国をあげて女性の健康を支援していこうとしている。

そして、このFemtech領域の中でも、更年期障害が注目されている理由は何でしょうか?

私としては、以下の2点があると思っています。

●日本の更年期領域は、サプリメントと漢方が市場をけん引しており、すでに市場があることがわかっていること

●実際の解決法としては、睡眠、運動、食事、ストレス対策といった生活習慣の改善が基本となり、多くの健康ビジネスのプレイヤーがもつ今までの経験が生きること

Femtech市場へのアプローチを考える場合、「更年期障害領域」を検討の一つとして入れてはいかがでしょうか。 【脇本和洋】

参考>本編「海外事例にみる継続支援アプローチ編」をお読みの方へ

我々スポルツが今までに調べてきた500超の事例から実績をベースに16事例を選定。米国先進事例の「行動継続を促す工夫」を調査分析したレポートの紹介です。

詳細は以下となります。ぜひ参考にしてください。

●ヘルスビズウォッチ・レポート
継続ドライバ型海外先行デジタルヘルス事例16(2023年版)
ー サービスの継続利用を高めるアイデアを、
チームで精度高く短期間で生み出すための発想素材! ー

健康ビジネスキーワード

「ブランドビジネスはブランド信者コミュニティの育成、そしてそれは、、、」

世の中の不透明感が増す中で不安だから、共感できるコミュニティへの所属意識を多くの生活者が持ち始めている。

その意味で、生き方を重ねプロセスを共有するのがブランドビジネス。
コンセプト、ポリシー、共鳴、相互理解、共有、尊敬、貢献という自分のココロで感じる価値、つまり情緒価値を多くの生活者が求めている。

機能的価値一辺倒になりがちなヘルスケア事業が今こそ学ぶべきはブランドビジネスではないでしょうか?

今週の注目記事クリップ

[1]オムロン ヘルスケア、体重計を持っていても測定していない理由第一位は男性「面倒くさい」女性「現実逃避」
https://www.healthcare.omron.co.jp/corp/news/2022/0209.html
肥満度が標準および肥満度1~4の30代~50代の男女1,306人に普段の体重測定の状況や健康意識に関する調査を実施。その結果、体重計(体組成計含む)を保有している人は全体の86%。そのうち33.2%の人が習慣的に測定していた。(2022/02/09)

[2]アフラック、「アフラックの休職保険」の発売について【PDF】
https://www.aflac.co.jp/news_pdf/20220209.pdf
https://www.aflac.co.jp/
休職の実態を踏まえ1年未満の比較的短期の休職状態を保証する生命保険。病気やケガで働けなくなった場合は医師の診断書に加え、勤務先から休職証明書を提出することで実際に会社を休職した期間を支払い対象とする。(2022/02/09)

[3]ベネクス、コロナ禍でも元気な人 健康維持の秘訣は運動よりも「休養」!ー10万人調査による「ベネクスリカバリーレポート 2022」Vol.2ー
https://www.venex-j.co.jp/info/2022/02/20220209-01.html
日本リカバリー協会の技術協力のもと「リカバリー(休養)」に関する調査・研究結果の情報提供を受け、コロナ禍における「健康作りの3要素(運動、栄養、休養)」に対する意識の変化を分析。(2022/02/09)

[4]IoTおもしろ実験室:スマートリング「Oura Ring」で睡眠分析、寝落ちも確実に認識された(日経デジタルヘルスより)
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01109/020500027/?ST=ch_digitalhealth
今回は、Oura Ringの製品概要を紹介した後に、本コラムらしくクラウドAPIを使って計測データを収集する方法を解説する。(2022/02/09)

[5]理化学研究所、ヒトのように表情をつくれるアンドロイドを開発
https://www.riken.jp/press/2022/20220210_1/
本研究成果は、アンドロイドが表情を通してヒトと感情的なコミュニケーションをとることを可能にし、介護現場などにおけるアンドロイドの活用といった社会応用につながると期待できる。(2022/02/10)

[6]筑波大学、食物繊維を多く摂る人は要介護認知症の発症リスクが低下する
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20220210140000.html
本研究では、国内の3つの地域における住民約3,700人を最大21年間にわたって追跡調査し、中年期に食物繊維を多く摂ることで、高齢期の要介護認知症の発症リスクが低下する可能性を世界で初めて明らかにした。(2022/02/10)

[7]アシックス、デジタルを通じてランニングをより楽しめる場を提供!Zwift社とパートナーシップを締結
https://corp.asics.com/jp/press/article/2022-02-10
第一弾として、2022年6月にサイクリング・ランニングトレーニングアプリ「Zwift」のワークアウトメニューに、アシックス独自のランニングトレーニングプログラムを追加する。(2022/02/10)

[8]グローバルニュートリショングループ、GNGグローバルニュース2022年2月10日号
https://global-nutrition.co.jp/gnggn/globalnews-20220210/
「コロナと共に生きる」とは?食品の未来はどう変化するのか?、欧州消費者がプラントベース食品に求めるもの(調査)、欧州の食品戦略案におけるスポーツニュートリションの規制や課題、などの記事を取り上げる。(2022/02/10)

[9]東京大学大学院、世界初「免罪符型」健康食品CMが「不健康な行動をしても良い」と誤った認識を誘発することを実証【PDF】
https://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/release_20220214.pdf
https://www.m.u-tokyo.ac.jp/
免罪符型の広告が、視聴者の「健康食品を摂取すれば、不健康な行動をしてもよい、健康行動をしなくてよい」という誤った認識を高めていることを明らかにした。(2022/02/14)

[10]ライオン、生活者の約9割が「帰宅後に手を洗う」と回答も、実際は手洗い前にウイルスを広げていることがシミュレーションで判明!【PDF】
https://lion-corp.s3.amazonaws.com/uploads/tmg_block_page_image/file/7934/20220214-4.pdf
https://www.lion.co.jp/ja/
約9割が「帰宅後、手を洗う」と回答も、手洗い前にリビングなどに立ち寄って色々なところに触れていることが判明。家庭内でのウイルス伝播を防ぐためには、帰宅後、玄関での手指消毒をした上で洗面所に直行し手を洗うことが重要。(2022/02/14)

[11]ベースフード、「みつけてベースフード」開始!
https://basefood.co.jp/news/744
「みつけてベースフード」は、ベースフードを取り扱うファミリーマート店舗を検索できるLINEアカウント。また、ベースフードのない店舗へ取り扱いをリクエストすることもできる。(2022/02/14)

[12]日立製作所と日本老年学的評価研究機構、シニアの「社会参加」を促し介護予防を支援する新事業を立ち上げ
https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2022/02/0215.html
本事業の中核ツールとして、シニアの社会参加を促進するスマホアプリ「社会参加のすゝめ」を2022年春にリリースし、一般向けに無償公開。今後、企業や自治体などと連携し、健康長寿社会の実現をめざすエコシステムの構築に取り組む。(2022/02/15)

[13]インテージヘルスケア、第31回 生活健康基礎調査:市販薬購入時にドラッグストアで聞きたいこと
https://www.intage-healthcare.co.jp/news/release/d20220215/
京浜・京阪神の16-79歳の男女2,563人を対象に「健康」に関する意識と実態の把握を目的とした自主企画調査を実施。市販薬購入時に聞きたいことは、全年代で「商品の選び方」、60-70歳代は加えて「安全面」。(2022/02/15)

[14]綜合ユニコム、サウナ施設の開発・運営計画資料集を発刊
https://www.sogo-unicom.co.jp/data/book/0520220102/
若年層を中心に拡大するサウナマーケット!加熱するサウナブーム下において、高集客・安定経営を実現するサウナ開発の要諦を徹底解説。

[15]集中力・生産性向上をサポートするウェアラブルデバイス『FOCI 2』
https://mhealthwatch.jp/global/news20220210
FOCI 2は、呼吸パターンから集中・落ち着き・ストレス・疲労などのメンタル状態を計測するウェアラブルデバイス。(2022/02/10)

[16]調査:Apple Watchユーザーらのアクティビティデータ分析結果
https://mhealthwatch.jp/global/news20220210-2
コロナ禍でApple Watchを用いて記録されたワークアウト1,800万回超の初期分析から、65歳以上の高齢者は若年層より順調に週に最低150分のアクティビティを実施するという目標を達成していることが分かった。(2022/02/10)

[17]手のひらサイズのパーソナルトレーナー!? 体脂肪管理デバイス『Bello 2』
https://mhealthwatch.jp/global/news20220215-2
Bello 2は、左右の二の腕、左右の太もも、腹部の計5箇所に数秒押し当てるだけで、体脂肪、内臓脂肪、代謝レベル、BMIなどの情報をスキャンする。(2022/02/15)

[18]Peloton、新たにウェアラブル心拍モニターをリリース
https://mhealthwatch.jp/global/news20220215
新製品のBluetooth心拍モニターは、光学センサーで心拍数を検出し、5つのLEDライトで心拍ゾーン、Bluetooth接続状況、バッテリーの充電状態を表示する。(2022/02/15)

[19]『mHealth Watch』注目ニュース:NECと九州大学、感情推移や行動履歴のデータから健康行動につなぐ実証実験
https://mhealthwatch.jp/japan/news20220221-2
今回注目するのは、NECと九州大学が開始する日常生活データから健康行動を促すヘルスケアサービスの実証実験に関するニュースです。(2022/02/21)