こんにちは。脇本和洋です。

今回は、米国のヘルスケアビジネスのトレンドを知る上で重要となる「医療保険会社の健康サービス」をとりあげます。
米国では医療保険会社が中心となって医療制度が成り立っています。
医療保険会社は医療費の支払いを減らすため、予防(ヘルスケアサービス)にとても積極的です。

特集:海外事例にみる継続支援アプローチ編

なぜ米国の医療保険会社のサービスに注目するのか?

私が企業内のメンバーに向けて、ヘルスケアビジネスのトレンド・成功事例をお話しするプライベートセミナーを行っている際、

「米国のヘルスケア(予防)産業で、最も注目している業界はどこですか?」

と聞かれることがあります。

その際は「医療保険業界です」と答えています。

今号は医療保険業界に注目する理由をわかりやすく説明し、次に、米国の医療保険業界における2010年当時から現在までのヘルスケアサービスのトレンドを整理します。

<今回のお話>

・米国のヘルスケア産業で、なぜ医療保険会社に注目するのか?
・2010年から2015年頃における行動継続の支援は?
・2015年頃から現在までの行動継続の支援は?
・今後はどんな動きに注目か?

米国のヘルスケア産業で、なぜ医療保険会社に注目するのか?

米国では公的医療は高齢者など一部に限られます。
多くの人が自分の勤める会社を経由して「民間の保険会社の医療保険」に加入しています。

このしくみをわかりやすく言うと、加入者は病院にかかった場合「民間保険会社の保険証情報を伝え診察を受け医療費を支払う」ということです。

当然、保険会社も医療費を病院に支払うことになっており、加入者が病院にかかればかかる程、医療保険会社は医療費を多く支払うことになります。
医療費抑制が経営課題となり、様々な健康サービスを「継続して」使ってもらい、少しでも病気にならないように(病気が進行しないように)する必要があります。

そこで、米国の医療保険会社は健康行動を継続して行ってもらうために数多くの工夫をしています。
健康行動の継続支援は医療費抑制のための重要ポイントであり、本気でやっているのです。

つまり日本から見ると、米国の医療保険会社のヘルスケアサービスは、健康行動の継続支援のヒントを得るための、

『絶好の参考の場』

と言えるのです。

これが、米国の医療保険会社に注目する理由です。


※ヘルスケアサービスについて情報公開が積極的な保険会社としては、以下4社を覚えておいていただくとよいでしょう。

  • UnitedHealthcare(ユナイテッドヘルスケア)
  • Kaiser Permanente(カイザーパーマネンテ)
  • Aetna(エトナ)
  • Humana(ヒューマナ)

2010年から2015年頃における行動継続の支援は?

メルマガ本編で、初めて医療保険会社のサービスを取り上げたのは2010年4月のことでした。

当時取り上げた事例はAetna、Kaiser Permanente、Humanaのウェルネスプログラムであり、その内容は

  • 歩数計(モニタリングサイト利用)の割引(インセンティブ)
  • 会員特別価格での施設サービスの利用(インセンティブ)
  • 電話ベースの健康相談/担当看護師による健康指導(指導)

といったものでした。

その後、2013年頃のモバイルヘルス(スマホアプリ等)の普及を受け、データに基づく指導が受けられるサービスが現れます。
その代表として取り上げたのは、Kaiser PermanenteのMy Health Managerというサービスでした。

My Health Managerは会員が健康医療データを一元管理できるもの。特長はデータが医師と共有され様々な予防指導が受けられる点でした。

つまり、この当時は、

  • インセンティブ
  • データ共有によるアドバイス

によって、行動継続を支援していた。
そういってよいでしょう。


※参考>バックナンバー「米国の企業向け健康プログラム(その2)保険会社編」(2010年4月)
https://healthbizwatch.com/archive/column/261-2

※参考>バックナンバー「PHRでKaiser Permanenteが成功する理由」(2019年10月)
https://healthbizwatch.com/archive/column/867-2

2015年頃から現在までの行動継続の支援は?

その後データを活用したアドバイスは進化し、ヘルスコーチングというサービスになって現れます。

ヘルスコーチングというサービスでは、専門家が一方的に指導するのではなく自発性を促すアプローチをとります。
米国にはヘルスコーチング専門の外部企業がいくつもあります。
医療保険会社はこうしたヘルスコーチング専門企業を活用します。

例えば、UnitedHealthcareはRallyという外部のヘルスコーチングサービスを活用しています。

そして健康行動の継続のためのもう一つの切り口が、エンターテイメント性の高いサービスの提供です。

例えば、UnitedHealthcareはPelotonと提携しました。
Pelotonは本メルマガで幾度か特集したオンラインホームフィットネス企業。
自宅にいながらにして、ニューヨークのバイクスタジオでの臨場感と一体感を楽しめるというもの。
インストラクターによるエンターテイメント性の高いレッスンが特長です。

つまり近年では、

・ヘルスコーチングを導入する
・エンターテイメント性を高める

この2つで健康行動の継続を支援している。
そう見てよいでしょう。


※参考>バックナンバー「米国医療保険会社2社の健康サービス」(2021年5月)
https://healthbizwatch.com/column/hbw-942

※参考>バックナンバー「米国医療保険会社2社の健康サービス動向」(2022年4月)
https://healthbizwatch.com/column/hbw-986

今後はどんな動きに注目か?

継続支援のトレンドはわかったけれど、行動に至らない「健康意識が低めの人」に対してはどんなアプローチをしているのか?

そう思われた読者の方もいらっしゃるでしょう。

確かに、医療保険会社の加入者の中には健康意識が低めの人もいます。
そうした人に対しては、少し違う切り口でアプローチしていると見ています。

例えばUnitedHealthcareなら、シニア向けにRenew Activeというサービスと提携。
このサービスは地域での趣味イベントの積極利用を促します。例えばダンス、ボーリング、ハイキングなど。
まず趣味から入ってもらい、趣味をもっと楽しむために健康づくりをしてもらうというアプローチです。

別の言い方をすると

  • 最初から健康と言わない
  • 入口を健康にしない
  • 最初は健康を陰に隠す
  • 結果的に健康づくりをさせる

というアプローチです。

医療保険会社の健康サービスは全方位になります。

  • 病気の人
  • 健康に興味はあるも長続きしない人
  • 健康に興味の薄い人

などです。

医療保険会社は上記それぞれに対してアプローチをしています。
その面でも医療保険会社に採用されるプログラムは何で、どんな本質があるかを見極めておくことは、日本のヘルスケアビジネスの一歩先を考える上でも有益な情報になると思います。 【脇本和洋】

参考>本編「海外事例にみる継続支援アプローチ編」をお読みの方へ

我々スポルツが今までに調べてきた500超の事例から実績をベースに16事例を選定。米国先進事例の「行動継続を促す工夫」を調査分析したレポートを作成しました。

詳細は以下となります。ぜひ参考にしてください。

●ヘルスビズウォッチ・レポート
継続ドライバ型海外先行デジタルヘルス事例16(2023年版)
ー サービスの継続利用を高めるアイデアを、
チームで精度高く短期間で生み出すための発想素材! ー

健康ビジネスキーワード

「イノベーションに平均はない!」

みんなに支持されようと分かりやすく作っていくと平均的な指向になる。
誰もが分かるものは標準的であるべきで、ゆえに最初からみんなで一緒にできることはどうしても常識的なことになる。
つまり、平均・標準・常識。

これら3つ起点の発想からはイノベーションは生まれない。
新しい価値を生むプロセスでは一旦平均・標準・常識を捨てる必要がある。
偏っていて極端で一見奇異な着眼点からのみ、イノベーションの可能性が広がります。

今週の注目記事クリップ

[1]Futonto、オーダーメイド枕で眠りの質を高め、睡眠サポート飲料「睡眠改善」で起床時の疲労感を軽減する相乗効果に期待(PR TIMESより)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000393.000019730.html
オーダーメイド枕の店まくらぼで森永乳業株式会社「睡眠改善」のサンプリング企画を実施。リモートワークやハイブリッドワークなど働き方の変化や社会情勢や経済的不安などから、より一層“睡眠”への意識が高まっています。(2023/04/09)

+++★追加解説音声:100秒(編集主幹 大川耕平)★+++
前回に続いてサプリメントとプロダクトのマーケティングミックスです。
https://youtu.be/pwwf4reS-5k

[2]アヲハタ、朝食に関する調査結果で判明した“朝食の理想”にこたえる新メニュー「朝パフェ」を紹介
https://www.kewpie.com/newsrelease/2023/2939/
全国の20-60代の男女3,000人を対象に、朝食に関する調査を実施。理想の朝食は「栄養バランス」「時短」「お腹の調子を整える」。(2023/04/05)

[3]デロイト トーマツ コンサルティングなど全7社、ヘルスケアの民主化・高度化に向けた医療データ利活用の提言書を公開
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/news-releases/nr20230405.html
本提言は、製薬企業、プラットフォーマー、デジタル/テクノロジー企業、コンサルティングファームがそれぞれの視点・経験を元に議論を重ね、個々のプレーヤーではなく産業・組織の垣根を超えた対応策をまとめています。(2023/04/05)

[4]インテグレート、機能性・エビデンスだけで売る時代の終焉!「ウェルビーイングで変わる!食と健康のマーケティング」日本経済新聞出版より発刊
https://www.itgr.co.jp/5408/
代表取締役CEO 藤田康人が編著を務めた書籍。本書では、変化してきた幸せの形から今求められるウェルビーイングとは何か、時代の変遷をとらえながら、現代に必要なヘルスケアビジネスについて考えていきます。(2023/04/05)

[5]ぴんぴんころり、ChatGPTを活用したAIツール「かめ子かあさん」を開発
https://kasan.tokyo/news/20230406/
ベビーシッター経験もある熟練主婦の「かめ子かあさん」は質問者に寄り添い、掃除や料理や育児に関して的確な回答をするように設定されており、音声での質問も可能。(2023/04/06)

[6]issin、国内初 自動で体重管理ができる「スマートバスマット」に3つの新機能を追加
https://issin.cc/blogs/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9/20230406
4月11日「ペットの日」を記念して“抱っこ”や“おすわり”で犬・猫・小動物の体重測定ができる「ペットモード」を搭載。β版開始から1か月で約270頭のペットが利用、家族全員の体調管理をこの1台で実現。(2023/04/06)

[7]朝日新聞出版、老化・寿命研究で世界をリードする今井眞一郎・ワシントン大教授講演会が5月11日に開催!(PR TIMESより)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001695.000004702.html
2023年5月11日(木)18時半-20時半にリアルとオンラインで開催。「NMNを中心とする健康長寿社会の未来 人生100年時代へのソリューションを探る」と題して、『人生100年時代』にワクワクする毎日を生きる知恵を紹介。(2023/04/07)

[8]アースリボーン、2023年最新進化版!生活を快適にする機能を満載したスマートウォッチ「KUMI U3 Pro」(PR TIMESより)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000111.000080785.html
100種類以上のスポーツモードがあり、運動データを正確に把握。GREEN FUNDINGにて、高機能と美しさを兼ね備えたスマートウォッチ「U3 Pro」の先行販売を開始。(2023/04/07)

[9]宝島社、生理休暇、更年期障害etc. フェムテックに関する福利厚生の充実を求める声が9割超!(PR TIMESより)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001806.000005069.html
フェムテック・フェムケア啓発プロジェクト「もっと話そう! Hello Femtech」は、10-70代の読者3349名を対象に「フェムテックに関する意識調査」を実施。「フェムテック」という言葉を知っている人は11ポイントアップし全体の6割近くに。(2023/04/07)

[10]ウェルネスフード推進協会、ウェルネスフードアワード2023応募開始のご案内
https://www.nihon-kenko.jp/index.php/report/
ウェルネスフードアワードは、QOLを向上する食品および食品素材にフォーカスしたアワードです。展示会「ウェルネスフードジャパン」内にて開催され、今年で第6回目を迎えます。応募期間は2023年4月10日(月)~5月15日(月)。(2023/04/10)

[11]Google、ヘルスケアにおける3つの新しい取り組み
https://mhealthwatch.jp/global/news20230405-2
デジタルヘルスアプリ開発者向けのオープンソースツールの立ち上げから、低コストでのケアオプションを特定する新しい検索機能の構築まで、Googleはヘルスケア領域での活動を活性化させている。(2023/04/05)

[12]『mHealth Watch』注目ニュース:コーチ・エィ 目標について話す頻度が高いほど目標に向けて行動することが明らかに
https://mhealthwatch.jp/japan/news20230417
今回の調査結果はヘルスケアに限定したものではなく、一般的なビジネスの現場での調査結果になります。ヘルスケアの領域でもビジネスの現場と全く同じで、個人の健康改善、健康への取り組みも、目標を達成するためには行動が必須になってきます。(2023/04/17)