こんにちは。脇本和洋です。

[海外事例にみる企画ヒント編]は、健康ビジネスの高収益化をテーマに、サービス、マーケティング、事業運営のヒントを海外事例からお届けしています。

今号は、成功する企業が必ず取り組む、本番サービス発売前の「テストマーケティング」を紹介します。

特集:海外事例にみる企画ヒント編

2年で売上を4倍にした上場ベンチャーが本番サービス前に取り組むこと

新規事業の立ち上げでは、本番サービス発売前にあることをやっておかないと、スタートの勢いがあっという間に萎んできます。

例えば、
・社内実証でいい健康効果がでたけど、思ったより売れない
・ちゃんと使って貰えば必ず結果がでるのに、継続しない

といった結果が待っています。

健康業界では、社内実証で商品の確かさを確認すると、いきなり本番販売をしてしまい、お客さんが本当に買ってくれるのかを見極めていないケースが多く見られます。

それは、高収益企業が行う「テストマーケティング」を実施していないためです。

※「テストマーケティング」とは
本番サービスを発売する前に、顧客に有料で販売しながら改善を繰り返し、どうすれば売れるか(売れ続けるか)を検証すること。

「テストマーケティング」を実施しない理由としては、テストの設計・分析ノウハウが体系化されていないためその価値がわからないことや、高収益化に成功した企業のテストの内容が公開されることもなく、テストマーケティングの大切さを学ぶ機会がないことなどです。

ただ、我々のリサーチでは成功事例のテストマーケティングの内容がわかってきています。

そこで今号では、近年高収益化に成功した企業で、テストマーケティングの情報を知ることができる上場ベンチャー企業「Peloton」を紹介します。

※本メルマガでは、今までにPelotonのサービス内容を中心に紹介してきました。
今回は「テストマーケティングの工夫」という切り口で取り上げます。
良質な事例ですので、これからも様々な切り口で成功のエッセンスを探っていきます。

Pelotonの事業概要

■企業名:Peloton Interactive, Inc
https://www.onepeloton.com/

■設立:2012年(上場2019年)

■サービス概要
ニューヨークにあるスピンバイクスタジオで行われる一体感あるライブクラスを、自宅でも体験できるサービス

参加者は、エクササイズバイクを購入し(2,245ドル)、その後オンラインのライブクラスを受講(月39ドル)します。ニューヨークのスタジオと一体感を感じるフィットネスを自宅で楽しめるというものです。

■直近の売上動向
218億円(2017年)→ 435億円(2018年)→ 915億円(2019年)

※詳しいサービス内容をお知りになりたい場合、本メルマガの最後にバックナンバーを用意していますので、ご参考ください。

Pelotonのテストマーケティングの工夫

Pelotonのテスト期間は、2012年12月から2014年4月頃までの約1.5年です。

【商品とサービス】

・バイクは、Eric Villency氏(デザイナー)に依頼したオリジナル製品とする
(ただし、強度、乗り心地などは改善余地を残す)

・ライブクラス配信のために、レッスンをショーとして魅せることができるインストラクター(女性)を採用

・ライブクラスの配信場所は自社オフィス内のスペースをアレンジして利用。クラスを疑似的に再現した(同社社員とバイク好きなアルバイト数名がグループでバイクに乗り、インストラクターの掛け声で、夢中になってバイクをこぐ)

・バイクを購入した人は、自宅からライブでそのクラスに参加する。夢中になってバイクをこぐ人から刺激を受けるとともに、魅力的なインストラクターから声をかけてもらい、一体感を感じる

・バイクは受注生産方式をとり、在庫リスクを減らした

【販売】

・ポップアップストア(空き店舗を活用し、一定期間のみ開店)をニューヨーク近郊で展開。Pelotonの世界観を大切にしたストアで、体験を重視

・広告や店内での体験を工夫し、購入確率を高めた

・そして、一度購入した人が継続して会員であり続けるために、どのようにサービス面の工夫(声のかけ方など)をすればよいかを分析し、何度も改善した

・購入確率(反応率)、継続率の数値を改善していき、その後投資家から多額の資金を獲得することに成功する

テストマーケティングで重視したKPIは?

Pelotonが「テストマーケティング」期間で最も重視したこと、それは継続課金のキモである「継続率」を高めることです。

ではどうやって、継続率を高めていったのでしょうか?

そこには、高収益の成功KPIの存在があります。

PelotonのCEOのJohn Foley氏は、プレゼンテーションやメディアでのインタビューで、高収益KPIとして「NPS(R)」という指標を重視していると公言しています。

●NPSとは

NPSとは「Net Promoter Score(ネットプロモータースコア)」の略で、簡単にいえば、顧客からどれだけ信頼を得ているかを測る指標です。

NPSの優れている点は、事業の収益性(特に顧客の継続購入、LTV)と相関が高いため、NPSを高めていくことが高収益化に直結するという点です。

PelotonのNPSは91ともされますが、最近のインタビューでは、NPSは100を目指すとも宣言しています。

テストマーケティングの段階からこのNPSを計測し、仮説を検証しながらNPSを高めたことが事業成功の背景にあると予想しています。

改めて整理すると、Pelotonのテストマーケティングの工夫の要点は、

・購入確率(反応率)と継続率を高めることに専念した

・継続率を高めるために、NPSに注目した

・NPSを高めるために、仮説検証(分析)を繰り返した

ということです。

【テストマーケティングをワンランクアップさせるための高収益KPI】

今回紹介した高収益KPIであるNPS。

日本の健康業界ではまだ、なじみがない指標です。
一方、米国ではこの指標を利用し、高収益化ビジネスが生まれています。

海外の成功企業のように、テストマーケティングでもこの指標をうまく使いこなし、事業成功へのスピードを高めたいものです。

本メルマガの参考バックナンバー

<2020年>

・健康ビジネスの高収益に結びつくある指標とは
https://healthbizwatch.com/column/hbw-887

・売上好調Livongo Healthが最も重視するKPI指標とは
https://healthbizwatch.com/column/hbw-899

<2019年>

・急成長企業Pelotonを支えるインストラクター
https://healthbizwatch.com/archive/column/859-2

・急成長企業Peloton社にみる「離れていても一体感を感じる工夫」
https://healthbizwatch.com/archive/column/855-2

参考>本編「海外事例にみる企画ヒント編」をお読みの方へ

我々スポルツが今までに調べてきた500超の事例から実績をベースに16事例を選定。米国先進事例の「行動継続を促す工夫」を調査分析したレポートの紹介です。

詳細は以下となります。ぜひ参考にしてください。

●ヘルスビズウォッチ・レポート
継続ドライバ型海外先行デジタルヘルス事例16(2023年版)
ー サービスの継続利用を高めるアイデアを、
チームで精度高く短期間で生み出すための発想素材! ー

健康ビジネスキーワード

「このスタンスが最強では!?」

Never lose. I either win or learn.
私は決して負けない。勝つか学ぶかのどちらかだ!(ネルソン・マンデラ)

今週の注目記事クリップ

[1]asken、音で楽しむフィットネスアプリ「BeatFit」と業務提携
https://www.asken.inc/news/2020/7/8/beatfit
今回の業務提携では、1日の摂取カロリーと共に、BeatFitで実施した運動の消費カロリーをあすけんアプリ内で記録することが可能となり、あすけんアプリを利用中の方を対象に、新規でBeatFitにご契約いただく方は、期間限定でBeatFitを特別価格で利用できる。(2020/07/08)

[2]SOMPOひまわり生命保険、生活習慣病の予防をサポートするアプリ「リンククロス 健康トライ」の提供開始【PDF】
https://www.himawari-life.co.jp/~/media/himawari/files/company/news/2020/a-01-2020-07-09.pdf
https://www.sompo-hd.com/
本サービスでは、スマートフォンで健康診断の結果を撮影するだけで、生活習慣病リスク(血圧、血糖値、脂質異常など)を6年後まで予測する機能や、スマホに顔を向けるだけ、非接触で、現在のストレスレベルを判定する機能などを提供。(2020/07/09)

[3]東京海上日動火災保険、【業界初】「治療と仕事」「介護と仕事」両立を支援する商品の発売【PDF】
https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/company/release/pdf/200713_01.pdf
https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/
東京海上日動火災保険は、がん等に罹患した従業員が治療をしながら働き続けることを支援する「治療と仕事の両立支援特約(三大疾病用)」、親族の介護をしながら働き続けることを支援する「介護と仕事の両立支援特約」を発売。(2020/07/13)

[4]ポケモンを集めて楽しく歯磨き-無料アプリ『Pokémon Smile』登場
http://mhealthwatch.jp/global/news20200708
このアプリは、子供たちの歯磨き習慣を改善するための拡張現実(AR)ゲームで、スマートフォンのカメラを利用して子供が歯磨きする様子をモニタリングする。子供たちは「むしばきん」に捕まったポケモンたちを助けて捕獲することができる。(2020/07/08)

[5]バランスのとれた体づくりをサポート!スマホアプリと連動する『CAT-b.c.s.』
http://mhealthwatch.jp/column/news20200710
チームにポジティブな雰囲気をもたらし、また離職率を下げるため、ピアレビューやピアボーナスの手法が有効とされる。新しく開発されたプラットフォーム『OldRobo』では、従業員同士の相互評価にゲームの要素を組み込み、コミュニケーションを促進している。(2020/07/10)

[6]『mHealth Watch』注目ニュース:JR東日本高輪ゲートウェイ駅で消毒ロボ『パトロ』の実証実験開始
http://mhealthwatch.jp/japan/news20200720-2
『パトロ』は、巡回警備を目的にしたロボットでしたが、その特性である障害物探知機能を活かして消毒を組み合わせました。これからの時代にあった警備ロボットとしての価値化を行ったわけです。(2020/07/20)