こんにちは。脇本和洋です。

今号では、本編で長年テーマとしている、
「デジタル×糖尿病予防」に関する事例を2つとりあげます。

ひとつは、2017年に紹介したOmada Health、そしてもうひとつは、2019年に紹介したLark Technologiesです。
代表企業であるこの2社の、直近の動きをチェックしてみましょう。

特集:海外事例にみる継続支援アプローチ編

「デジタル×糖尿病予防」代表事例の最新動向

米国では、糖尿病患者と糖尿病予備軍を合わせると1億人超とされ(2017年に米国疾病管理予防センターが発表)、糖尿病は重要な疾患テーマになっています。
今回は、その糖尿病をメインのテーマとしてビジネスを行い、資金調達額も100億円を超えている

  • Omada Health(オマダヘルス)
  • Lark Technologies(ラークテクノロジーズ)

という2つの事例を紹介します。
いずれも、本編で取り上げたことのある事例であり、最新動向を追います。

Omada Health:グループコーチングからパーソナルコーチングへ

■企業名:Omada Health, Inc.
https://www.omadahealth.com/

■設立:2011年

■資金調達:256億円(2021年11月時点)

■サービス概要
企業・保険会社向けに生活習慣病予防プログラムを提供。Rock Health(米国の代表的なヘルスケアのインキュベーション団体)が育成した成功事例としてよく取り上げられる企業。1,500以上の法人にサービスを提供しています。

■売上(2020年):100億円(推定)

■2017年当時のサービス概要
・プログラムに参加すると、体重計と活動量計が送られてきます。次にライフスタイルなどを入力すると、コーチが紹介されます。プログラム参加者は1グループ最大24名で、グループでプログラムに参加します。

・プログラムでは、適切な食事・運動を続ける様々なコツを学ぶとともに、グループでお互いの進捗を確認しあったり、刺激やヒントをもらいながら行動を続けます。

■サービスの変化(2021年11月)

2つの変化が見られます。

1)プログラムの種類の増加
糖尿病だけでなく、腰痛などのリハビリ系のプログラムと、不安への対応などのメンタル系のプログラムが加わっています。プログラムの詳細は公開されていませんが、専任のコーチがついて、運動習慣や心を安定させる考え方を身に着けていきます。

・腰痛などのリハビリ系プログラム
https://www.omadahealth.com/programs/musculoskeletal
・メンタル系プログラム
https://www.omadahealth.com/programs/behavioral-health

2)プログラム訴求ポイントの変化
2017年当時は、グループで行うことを訴求したプログラムでしたが、現在の訴求はパーソナルコーチと行うことになっています。同社が2021年10月にパーソナルコーチングによる効果データを公表している点から考えても、パーソナルコーチングを主軸においた方が、効果が高いと考えたものと思われます。

Lark Technologies:メンタル系プログラムを追加

■企業名:Lark Technologies, Inc.
https://www.lark.com/

■設立:2011年

■資金調達:195億円(2021年11月時点)

■サービス概要
企業・保険会社向けに生活習慣病(糖尿病、高血圧症など)予防プログラムを提供。AIを使って自動でコーチングする点が特色です。

■売上(2020年):10億円(推定)

■2019年当時のサービス概要
・AIコーチングとは、学習機能をもったAIがコミュニケーションをとるというもので、リアルの「人」は存在しない形です。

・例えば、血圧が異常に高い場合、AIコーチが危険と判断し即時にかかりつけ医に連絡をするようアドバイスします(アラートを出す)。また、昼食に不適切な食事を摂った場合には、簡単な注意を行います。多めに運動した場合、「今日は平均値よりもずいぶんたくさん運動しましたね!」とリアルタイムに褒めます。

■サービスの変化(2021年11月)

AIコーチングが主であることは変わりませんが、プログラムとして糖尿病だけでなく、不安への対応といったメンタル系のプログラムが加わっています。
このプログラムは、認知行動療法というカウンセリング手法を使い、マインドフルネスの要素も加え、AIを使ったコーチングをします。

・メンタル系プログラム
https://www.lark.com/prevention/

最新動向の注目点

今回は、「デジタル×糖尿病予防」で代表的な2つの事例の最新動向を紹介しました。
新たに増えたプログラムのテーマに着目してみましょう。

  • Omada Healthは、腰痛などのリハビリ系とメンタル系
  • Lark Technologiesは、メンタル系

でした。

このテーマを選んだ理由は単に、
「糖尿病プログラム以外で稼げそうだったから」というものでしょうか?

糖尿病であったとしても、糖尿病予防プログラムに参加しない人を想定した場合

  • 肥満で腰痛があり、そもそも運動がやりにくい
  • ストレス(不安)を抱えており、そちらが気になって過食を治したり、運動する気がしない

コロナ禍もあり、こんな理由が予想されます。

「糖尿病が気になっても、糖尿病予防プログラムの入り口に立てない人が数多くいる。その人達のために、まず腰痛やメンタル系のプログラムを用意しよう」。

2社はそう考えたのではないでしょうか。
別の言い方をすると、新たにプログラムを増やす際に、

『自社のメインプログラムを受けられない原因となっているテーマに着目した』

ということです。
この点は、メインプログラムの参加者を増やす上で、注目の切り口だと思います。

以下にバックナンバーも用意しましたので、興味のある方は参考にしてください。 【脇本和洋】

※参考>Omada Healthバックナンバー(2017年9月)
https://healthbizwatch.com/archive/column/post-485

※参考>Lark Technologiesバックナンバー(2019年2月)
https://healthbizwatch.com/archive/column/553-2

参考>本編「海外事例にみる継続支援アプローチ編」をお読みの方へ

我々スポルツが今までに調べてきた500超の事例から実績をベースに16事例を選定。米国先進事例の「行動継続を促す工夫」を調査分析したレポートの紹介です。

詳細は以下となります。ぜひ参考にしてください。

●ヘルスビズウォッチ・レポート
継続ドライバ型海外先行デジタルヘルス事例16(2023年版)
ー サービスの継続利用を高めるアイデアを、
チームで精度高く短期間で生み出すための発想素材! ー

健康ビジネスキーワード

「ネガティブリストの可能性に注目」

本来チャレンジと失敗はセットなので、よりチャレンジを一貫したスタンスで模索するためにもネガティブリストの運用が注目を集めています。
変容する目標を固定して制限するより、やらないことを明確にすることで自由性を拡張するという考え方です。

そもそも、失敗は避けるべきものではない。
解そのものが変化していく時代には、ネガティブリストの運用が試行錯誤の幅や深さといった可能性を広げる!

※ネガティブリスト:やらないと決めたことのリスト

今週の注目記事クリップ

[1]オムロン ヘルスケア、血圧計使用者に「家庭血圧計に関する意識調査」を実施
https://www.healthcare.omron.co.jp/corp/news/2021/1208.html
40-70代の血圧計使用者1,072人を対象に調査。はじめて家庭用血圧計を購入したきっかけは「健康診断の結果で高血圧と判明した」「医師から購入(測定)を勧められた」「高血圧の治療で必要だと思った」がTOP3。(2021/12/8)

[2]インテージ、コロナ2年目「2021年、売れたものランキング」を発表
https://www.intage.co.jp/news_events/news/2021/20211208.html
1位のオートミール(291%)を筆頭に、2位の麦芽飲料、4位のプロテイン粉末と健康系食品・飲料が上位。(2021/12/08)

[3]アシックス、子どもの足の成長を予測するデジタルサービス「ASICS STEPNOTE」を開発
https://corp.asics.com/jp/press/article/2021-12-08-1
アシックススポーツ工学研究所が20年以上にわたり蓄積してきた子どもの足形計測データをもとに足の成長を予測する。過去・現在・未来の記録をさまざまなグラフで確認することができる、など。(2021/12/08)

[4]PHC、Teladoc Healthとの提携を通じた遠隔医療システムの発売について
https://www.phchd.com/jp/phc/news/2021/1209
Teladoc Healthが開発・製造するリアルタイム遠隔医療システム「Teladoc HEALTH」を日本国内で初めて提供開始。本製品は、医師不足が課題となっている小規模な医療施設や遠隔地の医療機関においても緊急時の専門医療の提供を可能とするシステム。(2021/12/9)

[5]朝日広告社、第1回「ウェルビーイングに関する調査」を実施【PDF】
https://www.asakonet.co.jp/wp-content/uploads/2021/12/5cfdbc451f3b49c87980c377d1f83cee.pdf
https://www.asakonet.co.jp/
全国20-60代の男女2,000名を対象に調査。「14のサステナブルキーワード」の認知・共感度と、普段の生活における幸福度や独自に開発した「60のウェルビーイング指標」を用いた設問等について、聴取および分析。(2021/12/09)

[6]笹川スポーツ財団、WHOガイドライン達成率から見える日本人の身体活動の実態“国民の約半数が身体活動不足”【PDF】
https://www.ssf.or.jp/files/SSF_Release_20211209.pdf
https://www.ssf.or.jp/
調査の結果、日本人の総身体活動量におけるWHO身体活動ガイドライン推奨基準の達成率が、全体で53.3%、男性は59.6%、女性は46.9%であり、特に30歳代女性では37.9%にまで落ち込んでいることがわかった。(2021/12/09)

[7]森永乳業、「ホットミルク休憩」をすると心理的「安定度」が「スマホ休憩」の約4倍!心が落ち着いた状態に変化
https://www.morinagamilk.co.jp/release/newsentry-3811.html
「ホットミルクで心までホッとするおいしさ」に着目し、首都圏の35-54歳の女性に参加いただき「ホットミルクがもたらす気分の変化」について検証。(2021/12/09)

[8]電通、第15回ウェルネス1万人調査を実施
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2021/1210-010475.html
ベーシックな健康意識・行動のトラッキング、新型コロナウイルス感染拡大の中で生活者の健康意識・行動に起こった変化、ヘルステックをはじめとするデジタルソリューションの一般化が健康行動に与えた変化などを調査するとともに、生活者の健康意識・行動をクラスター分析して7タイプに分類。(2021/12/10)

[9]ファンケル、機能性表示食品「BRAINs(ブレインズ)」新発売【PDF】
https://www.fancl.jp/news/pdf/20211213_brainsshinhatsubai.pdf
https://www.fancl.jp/
加齢により低下する「認知機能(記憶力・注意力)の維持」と「一時的な不安感の軽減」に働くサプリメント。(2021/12/13)

[10]東北大学、高齢者 歯20本未満だと6年後の閉じこもりが1.4倍多い
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2021/12/press20211213-02-oral.html
本研究では、26,579名の高齢者の6年間の追跡調査により、歯の本数と3つの口腔機能(咀嚼困難、むせの経験、口腔乾燥症)が将来の閉じこもりと関連するのかについて検討。(2021/12/13)

[11]江崎グリコ、子どもの就寝時刻は夜9時以降が半数以上【PDF】
https://www.glico.com/assets/files/NR20211213__2.pdf
https://www.glico.com/
子育てアプリ「こぺ」の新サービスとして、子どもの睡眠サポートプログラムを開始するにあたり、0-2歳までの子どもを持つ家庭における「睡眠」に関する課題を調査。約7割の親が夜9時までに子どもを寝かせたいと思う一方で理想と現実との差が明らかに。(2021/12/13)

[12]コクヨ、仕事と生活を楽しむワーキングチェアー「ingLIFE(イングライフ)」発売
https://www.kokuyo.co.jp/newsroom/news/furniture/20211214fn.html
Multi Objective Chairをコンセプトとしており、仕事や学習、食事、ゲームなどの自宅での様々なシーンに対応した製品。独自の機構で在宅での座りすぎ問題を解消。重力で座面を動かし、体幹を自然に整える機能性。(2021/12/14)

[13]インテージ、「健康食品・サプリメント+ヘルスケアフーズ+セルフヘルスケア市場実態把握レポート2021年度版」発刊
https://www.intage.co.jp/news_events/news/2021/20211214.html
2021年度の日本の健康食品・サプリメント市場規模(同社推計)は1兆3,732億円で、対前年2.6%減少。コロナ2年目で「男性30-50代の購入金額」が急増、「体脂肪抑制」ニーズと市場が特に拡大、など。(2021/12/14)

[14]2021年の女性ヘルスケア市場トレンド、総決算!(ウーマンズラボより)
https://womanslabo.com/category-trend-8-211214-1
各所から発表された女性市場・女性ヘルスケア市場に関連するトレンドアワードを編集部がリサーチ&ピックアップ。ニューノーマル2年目となった2021年。今年はニューノーマルを継続しながらも、快適性・利便性・娯楽を積極的に求める消費行動が顕著に見られた。(2021/12/14)

[15]新社会システム総合研究所、データヘルス計画、コラボヘルスの推進と令和4年度の重点施策
https://www.ssk21.co.jp/S0000103.php?gpage=22071
開催日は2022年1月27日(木)。事業主単位の健康スコアリングレポートや成果連動型民間委託方式での保健事業への支援等の今後の方向性の紹介と共に、第3期データヘルス計画に向けた課題と展望を説明する。

[16]新社会システム総合研究所、GAFAM+BATと最先端スタートアップが先導する世界のヘルスケアDXー日本企業が取り組むべきビジネスのポイントー
https://www.ssk21.co.jp/S0000103.php?gpage=22056
開催日は2022年1月28日(金)。今回は、GAFAM+BATとグローバルスタートアップの事例を中心に、ヘルスケア領域のDXの最先端の潮流を解説。

[17]Fast Company、ヘルスケア・イノベーション企業トップ10を選出
https://mhealthwatch.jp/global/news20211208-2
米国の月刊ビジネス誌「Fast Company」が、2021年を代表するテック企業として65社を選出。このうちヘルスケア企業は、Biospectal、Brightseedなどの10社。(2021/12/08)

[18]調査:遠隔医療を使用する意思はあるが、対面ケアを好む患者
https://mhealthwatch.jp/global/news20211214-2
調査によると、参加者の66.5%が将来少なくとも何らかのビデオ訪問を希望しているが、自己負担費用が要因でなければ対面訪問とビデオ訪問のどちらかを選択する場合、53%が対面訪問を選んでいる。(2021/12/14)

[19]『mHealth Watch』注目ニュース:国立成育医療研究センター、スマホアプリによる情報提供でリテラシーが向上!
https://mhealthwatch.jp/japan/news20211220-2
今回のニュースのテーマは「不妊治療に関する情報提供」ですが、今回の情報提供とリテラシーの向上に関しては、ヘルスケアの他の分野、テーマにも参考になる情報だと思います。(2021/12/20)