こんにちは、里見です。

ヘルスコーチングにおける生成AI活用の可能性や課題、役割について、これまで4回にわたって解説してきました。


その(1)「ヘルスコーチングとAIの相性」

その(2)「生成AIをヘルスコーチングで活用する」

その(3)「ヘルスコーチングで生成AIと人のどちらが効果的か」

その(4)「ヘルスコーチをサポートする役割の生成AIの活用」


5回目の今回は、WHO(世界保健機関)が提供する生成AIを使った「SARAH(Smart AI Resource Assistant for Health)」で使われている行動変容のアプローチについて、ヘルスコーチングの視点で解説したいと思います。


特集:ヘルスコーチングの視線編

ヘルスコーチングの可能性を探る:ヘルスコーチングにおける生成AIの活用:その(5)WHOの生成AI「SARAH」でも使われているヘルスコーチングのアプローチ


1、WHOが提供する生成AI「SARAH」とは?


世界保健機関(WHO)が、2024年4月に生成AIを活用した健康アドバイス「SARAH(Smart AI Resource Assistant for Health)」を公開しました。

「SARAH」は、世界中の誰もがアクセス可能で、現時点で8つの言語に対応し、無料で提供されています(残念ながら日本語には対応していませんが、入力のみ日本語でも可能です)。

現時点で、この「SARAH」が扱うテーマは、運動、栄養、禁煙、ストレス管理、睡眠などで、日々の健康的なライフスタイルに関わる行動変容を支援し、予防的なヘルスケアの普及を目指しています。

2、「SARAH」の狙い、目的とは?


「SARAH」は、現時点はまだまだテスト的なリリースであって本格的な運用ではないと私は考えています。

WHOとして生成AIを使った「SARAH」を提供する最大の目的は、「情報への公平なアクセス」を実現することだと思われます。

スマートフォン1つで、自分の健康を守るためのアドバイスを手に入れることができる世界を目指し、医療領域へのアクセスが限られている地域や状況でも、信頼できるアドバイスが24時間制約無しに受け取れる環境を整えようとしているのだと思います。

また、最大の狙いは、健康情報を「ただ伝える」だけのアドバイスではなく、「利用者が行動に移せるよう促す」という行動変容支援型アプローチが、「SARAH」の最大の特徴で、その行動変容のアプローチに生成AIを活用しています。

3、「SARAH」におけるヘルスコーチング的アプローチ


WHOの生成AIを使った行動支援ツール「SARAH」には、ヘルスコーチングのアプローチがいくつも取り入れられています。

それは、ヘルスコーチングと「SARAH」双方の狙いや目的に、行動変容を支援するという共通点があるからこそ、「SARAH」にヘルスコーチング的アプローチが取り入れられているのです。

以下に、「SARAH」が行っているヘルスコーチング的アプローチとその具体的な内容をいくつかご紹介します。


1)目標設定と行動変容の支援


アプローチ:
利用者が「健康になる」という漠然とした目標ではなく、具体的な行動を設定できるように導きます。

ヘルスコーチングの観点:
ゴール達成に向けて、必須となる行動を具体的・現実的に実行可能に近い形で落とし込んで利用者の行動変容をサポートします。
この部分も生成AIがサポートしています。


2)動機づけの維持


アプローチ:
利用者自身の選択に対して、ポジティブなフィードバックや励ましの言葉を繰り返してコミュニケーションを行います。
このポジティブなフィードバック等も生成AIが作り出して提示します。

例:「とてもよい選択です」「その一歩はあなたの健康に大きな違いを生みます」

ヘルスコーチングの観点:
内発的動機を刺激し、見てくれている安心感や自分ごと化を高め、行動を始めやすくし、継続を促します。


3)行動に対する選択肢の提供


アプローチ:
食事、運動、睡眠、ストレス管理、禁煙など、健康に関わる複数の領域に対して、具体的で利用者が実践可能なレベルにした行動のアイデアを提示します。
この利用者に合わせた具体的な行動の提示と選択支援についても、生成AIがアイデアを提示しています。

ヘルスコーチングの観点:
利用者が主体的に選択できるように選択肢を具体的に提示して、利用者の決定権、選択権を尊重しています。


4)即時性のあるフィードバックと情報提供


アプローチ:
利用者の入力に応じて即座に利用者に対して情報やアイデアを提示します。
このリアルタイムのフィードバックも生成AIが対応し、利用者に合わせたフィードバックや情報提供を行っています。

例:「よりよく眠るには何をすればいい?」と尋ねると、リラックス法やルーチンの重要性を提示。

ヘルスコーチングの観点:
タイムリーにフィードバックすることで、正しい情報(理解)と行動の結びつきを強化します。
また、情報や選択肢を提示する際の個別性を重視して、パーソナライズされた情報を提示することで、見てくれている感、安心感を高めます。


5)継続的な対話とフォロー


アプローチ:
「SARAH」は会話型AIとして、利用者が何度でも質問したり、継続して使ったりできる設計になっており、その人の情報を保有しながら会話を継続できます。
この会話も生成AIによって成立させています。

ヘルスコーチングの観点:
継続的な関係性の構築も、行動変容には必要なアプローチです。
また、実際のヘルスコーチが対象者の状況に合わせた声がけを通して、対象者のモチベーションへの働きかけや行動との向き合い方に対してもアプローチしています。


6)ポジティブなアプローチ


アプローチ:
利用者がうまくいかないケースでも、批判しないで前向きなアプローチ、ポジティブな声がけをします。
このポジティブな反応も生成AIが対応します。

ヘルスコーチングの観点:
安心して行動に向き合える「心理的安全性」を重視するアプローチです。



行動変容を支援する「SARAH」では、上記のようなポイントでヘルスコーチングのアプローチと共通点を見ることができます。

単なる健康情報の提供ではなく、利用者の行動を変え、習慣を育てるためにWHOが生成AIを活用したということは、今後の生成AIの活用に拍車がかかる大きな動きだと私は見ております。


次回は、生成AIを活用した行動変容支援ツール「SARAH」をさらに掘り下げて解説していきたいと思います。ぜひご期待ください。



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健康ビジネスキーワード

「デジタルとウェルビーイングの交差点」

モノの価値は、機能から“共創のツール”へと進化しました。
そしてデジタル化によって、点だったサービスが線になり、物語となってつながるのです。
その物語の中心には「人とのつながり=コネクティビティ」があります。

同じく、健康支援の現場も変化しています。
カンパニー全体を対象にした支援から、プロジェクト単位でのピア&トゥギャザーな関わりへと向かっています。

共通の目的をもつ仲間同士で支え合うことで、より自然で持続可能なウェルビーイングの実現が可能になるのです。

この時代、企業に問われるのは“個人の行動変容をいかに物語としてデザインできるか”かもしれません。
貴方はどう考えますか?

今週の注目記事クリップ

+++★注目記事クリップ★+++

[1]労働者は慢性的な腰痛に悩まされている。今こそ新たなアプローチが必要
https://ht-watch.com/2025/04/post-13.html
デジタルヘルスツールは慢性腰痛プログラムの管理に有望な代替手段として浮上しており、楽観視できる理由がある。しかし、その可能性にもかかわらず、支払い改革の遅れと使い古された神話が、ケアの提供と採用に多大な影響を及ぼしている。(2025/04/10)

[2]Collective HealthとNoom Health、体重管理のパートナーに
https://ht-watch.com/2025/04/collective-healthnoom-health.html
従業員健康保険管理プラットフォームCollective Health社は、デジタル ヘルスケアプラットフォームおよび減量支援企業Noomのエンタープライズ部門である「Noom Health」と提携し、Collective Health + Noom Med with SmartRxを提供する。(2025/04/11)

[3]新しいスマートウォッチの指標が心臓の健康状態を総合的に示す
https://ht-watch.com/2025/04/post-14.html
1日の歩数や安静時の平均心拍数などの指標は、すでに心血管疾患の健康状態を予測するために使用されている。しかし、イリノイ州シカゴのノースウェスタン大学の医学生であるZhanlin Chen氏は、心臓の健康状態をより確実に示す可能性のある新しい複合指標を開発した。(2025/04/15)

[4]デジタルMSKソリューションは、患者を高額で不必要な手術から救う
https://ht-watch.com/2025/04/msk.html
2019年から2021年の間に、推定20万件を超える不必要な脊椎手術により、メディケアに20億ドルの費用がかかっている。研究によると、手術が必要な場合でも、デジタル理学療法(PT)によって結果を改善できることがわかっている。(2025/04/15)

[5]カリフォルニア・アーモンド協会、世界の専門家が合意:アーモンドは心血管代謝健康に貢献し、体重管理を支援(PR TIMESより)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000058.000053148.html
専門家たちは、毎日のアーモンド摂取が心臓の健康、体重管理、そして腸内細菌叢を支える確立された食事戦略であることを確認しました。また、この論文では、アーモンドの多量摂取(少なくとも1日50g、約2日分)を行うことで一部の人々にわずかな体重減少をもたらす可能性があることも示されています。(2025/04/15)

[6]富士経済、「データヘルス計画・健康経営・PHR関連市場の現状と将来展望 2025」発刊
https://www.fuji-keizai.co.jp/report/detail.html?code=122407803
データヘルス計画、健康経営に関連するサービス・システムを対象に2030年までの市場規模を算出すると共に、第3期データヘルス計画施行後の企業動向や異業種の本格参入が進む周辺企業の動向を分析する。(2025/04/03)

[7]ブレインスリープ、一般医療機器ウェア「ブレインスリープ ウェア リカバリー」販売開始
https://brain-sleep.com/blogs/news/11678
ブレインスリープは睡眠時間の延伸が難しい状況の中、限られた時間でいかに質の高い睡眠を取り、疲労回復をするかが重要だと考え、疲労回復効率を最大化するプロダクトとして「ウェア リカバリー」を開発しました。(2025/04/09)

[8]オイシックス・ラ・大地、がん患者さん向け食事支援サービス「がん患者さんとつくったヘルスケアOisix」がWELLBEING AWARDS 2025にて「GOLD」を受賞
https://www.oisixradaichi.co.jp/news/posts/250409wellbeing/
当社は2024年5月から、がんの治療をされている方と家族の食事サポートを目的としたがん患者さん向けの食事支援サービス「がん患者さんとつくった ヘルスケアOisix」の販売を開始しました。(2025/04/09)

[9]Crumii、女性の健康と自己決定を支援する医療・ヘルスケア情報メディア「crumii」正式ローンチ!(PR TIMESより)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000155698.html
生理、妊娠・出産、婦人科疾患、避妊・中絶など、女性の健康に関する幅広い情報を提供し、医療従事者だけでなく、当事者や患者の視点も大切にしながら発信していきます。(2025/04/09)

[10]日本イーライリリーと持田製薬、クローン病を加え対象を拡大。「炎症性腸疾患との暮らしを、話せる社会へ。」プロジェクト【PDF】
https://mediaroom.lilly.com/jp/previewPDF/2025/25-15_com.jp.pdf
https://www.lilly.com/jp/
「便意切迫感」の経験があるクローン病患者さんを対象に意識調査を実施したところ、99%の患者さんが「トイレを気にすることなく、なんでもできる生活をしてみたい」と回答しました。(2025/04/10)

[11]ジョリーグッド、北米の介護現場にVR認知症ケア教育、ジョージメイソン大学と共同で多文化対応と離職率改善へ
https://jollygood.co.jp/news/4619/
本プロジェクトは、ナーシングホームで働く実際の介護者を対象に、被介護者の立場に寄り添った認知症ケア教育プログラムを提供する取り組みです。(2025/04/10)

[12]サンスターグループとDoctorbook、法人向け新サービス提供開始!『SmileScan』のオーラルケアDXが戦略的な健康経営を支援
https://jp.sunstar.com/notice/press_release/20250410_007484.html
本サービスでは、歯科衛生士による「啓発講演」の提供を通してお口と全身の健康に関する理解促進やオーラルケアの重要性を啓発推進するほか、アプリ提供によるセルフケア習慣化プログラム「スマイルケアコーチング」で利用者のオーラルケア習慣の定着をサポートします。(2025/04/10)

[13]MTG、「SIXPAD Core Belt 2」「SIXPAD Abs 2」新発売
https://www.mtg.gr.jp/news/detail/2025/04/article_2339.html
サウナスーツ構造の電極構造「アルトダイン」を新開発し、ジェルシートや水を使わずに「巻くだけ」で始める手軽なEMSトレーニングを叶えます。(2025/04/10)

[14]インテージヘルスケア、全国のクリニック勤務医1,200人を対象に「医療機関における物品販売に関する調査」を実施
https://www.intage-healthcare.co.jp/news/d20250411/
最も多くのクリニックで販売されていた/販売されている物品は「サプリメント」。特に、「産婦人科」「眼科」での販売割合が約5割と高い。物品の販売意向のある医師は「患者からのニーズ」が重要な要素となっている。(2025/04/11)

[15]ローランド・ベルガー、「食と健康」に関わるグローバル市場は中長期的には「世界三極」へー6つの未来予測を発表(PR TIMESより)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000089.000020895.html
食と健康の多様化にどう向き合うべきか国別の消費者データを分析し、6つの未来予測と企業への提言を示唆したレポート「グローバル各国の『食と健康』~未来予測と事業機会~」を発表しました。(2025/04/11)

[16]インフォーマ マーケッツ ジャパン、「Diet & Beauty Fair 2025(併催展:WELLNESS & BEAUTY TECH 2025)」
https://www.dietandbeauty.jp/dietbeauty-fair-2025top/
今年で24回目を迎える美容・健康産業の総合見本市「Diet&Beauty Fair」、“WELLNESS”と“BEAUTY”の最先端テクノロジーが集う初開催のビジネストレードショー「WELLNESS & BEAUTY TECH」の二展示会が、今秋東京ビッグサイトにて開催。(2025/04/14)

[17]オムロン ヘルスケア、新しいカフで使い心地を進化させた血圧計を新発売~機器とアプリで「脈間隔の乱れ」をお知らせ~
https://www.healthcare.omron.co.jp/corp/news/2025/0415.html
柔らかい素材を採用した新しい腕帯で使い心地を向上させたオムロン上腕式血圧計HCR-7728TおよびHCR-7628Tを発売します。(2025/04/15)

[18]メタジェン、[共同研究成果]ビフィズス菌BB536とラクチュロースを含むシンバイオティクスヨーグルトが整腸作用に加えて、心の健康度や労働パフォーマンスを改善することが明らかに
https://metagen.co.jp/2025/04/14/20250414-1528/
ビフィズス菌BB536とラクチュロースを含むシンバイオティクスヨーグルトの摂取により、排便状況に加え、心の健康度や労働パフォーマンスといった生活の質に関する項目の改善が認められました。(2025/04/14)

[19]ロレアルグループ、皮膚の健康へのアクセス向上を目指す2,000万ユーロ規模のプログラム「ACT FOR DERMATOLOGY」を開始
https://www.loreal.com/ja-jp/japan/press-releases/group/j-act-for-dermatology/
世界中で皮膚疾患を抱える数十億人の人々を支援するため、知識、教育、アドボカシー、ベストプラクティスの提供を通じて戦略的パートナーと連携。(2025/04/15)

[20]健康と経営を考える会、第11回 健康と経営を考える会シンポジウム開催のお知らせ
https://kenko-keiei.org/topics/announce/3314.html
開催日は2025年5月30日(金)。この度、企業、健保、行政、アカデミアの皆様がともに集い『未来社会を創る健康経営のデザイン』について議論を深める機会にしたいと考えております。(2025/04/15)

[21]『HealthTechWatch』注目ニュース:東京大学、食にまつわるリテラシーと食に対する動機づけ
https://ht-watch.com/2025/04/post-17.html
今回の研究では、食にまつわるリテラシーの8つの項目と食に対する動機づけの15項目のそれぞれが、食事の質、肥満および腹部肥満とどのように関連しているのか確認しています。(2025/04/21)