[ヘルスコーチングの視線編]ヘルスコーチングの可能性を探る:ヘルスコーチングにおける生成AIの活用:その(7)WHOの生成AI「SARAH」のヘルスケアサービスとしての課題とハードル
こんにちは、里見です。
ヘルスコーチングにおける生成AI活用の可能性や課題、役割について、これまで6回にわたって解説してきました。
その(1)ヘルスコーチングとAIの相性
その(2)生成AIをヘルスコーチングで活用する
その(3)ヘルスコーチングで生成AIと人のどちらが効果的か
その(4)ヘルスコーチをサポートする役割の生成AIの活用
その(5)WHOの生成AI「SARAH」でも使われているヘルスコーチングのアプローチ
その(6)WHOの生成AI「SARAH」のパーソナライズ、共感へのアプローチ
前回は、WHOが開発した生成AI「SARAH」の行動変容支援における特徴的な設計、特にパーソナライズや共感的フィードバックの観点から、ヘルスコーチングとの親和性についてご紹介しました。
今回は一歩踏み込んで、「SARAH」の課題や限界、そして実際にヘルスケアサービスとして実装する際に直面する課題やハードルについて、ヘルスケアサービスの企画・開発に関わる皆さんの視点に立って、掘り下げていきたいと思います。
特集:ヘルスコーチングの視線編
1、「SARAH」は何が優れていて、どこに限界があるのか?
世界保健機関(WHO)が、2024年4月に公開した生成AIを活用した健康アドバイス「SARAH(Smart AI Resource Assistant for Health)」について、まずは前回の振り返りを含めて紹介します。
WHOとして生成AIを使った「SARAH」を提供する最大の目的は、「情報への公平なアクセス」を実現することで、医療領域へのアクセスが限られている地域や状況の中でも、信頼できるアドバイスを24時間制約なく受け取れる環境を整えようとしています。
「SARAH」は、単なる情報提供にとどまらず、行動変容の支援を目的に設計されているため、行動変容を支援する上で多くの可能性を示しています。
また、「SARAH」のアプローチには、ヘルスコーチングの考え方として以下の点がしっかりと取り込まれています。
- 個別に寄り添う(パーソナライズ)
- 感情を理解し、励ます(共感的フィードバック)
- 安全で信頼できる関係性の構築(情報の信頼性)
しかし、同時にヘルスコーチングの視点から見てみると、商用のヘルスケアサービスとして展開するには越えるべき壁、ハードルも少なくないと感じています。
2、「SARAH」の課題と提供ハードル
1)パーソナライズの「限界と誤解」
「SARAH」は、ユーザーの入力に基づいてある程度パーソナライズされたアドバイスを行います。しかし、これは行動データやライフスタイル情報を深く学習・連動したものではなく、会話ベースの一時的なパーソナライズに留まっています。
→通常のヘルスコーチングの場合:
- 継続的なトラッキング(行動・生体データやコミュニケーションデータとの連携)が求められます。
- ライフスタイルや価値観に基づいた「深化するパーソナライズ」が必要です。
「SARAH」のモデルをそのまま活用するだけでは、「きっかけづくり」には対応できても、「行動変容を定着させる」レベルには届きにくいと考えます。
2)感情、共感への対応
「SARAH」はポジティブなフィードバックや共感的なコメントを返す設計ですが、ユーザーの細やかな感情の変化や“言葉の裏にある本音”まで汲み取ることは困難です。
→ヘルスコーチングでは:
- 非言語情報(表情・トーン・沈黙など)への対応が行動変容に直結
- 「テンプレート的な共感」ではなく、個別のストーリーに共鳴する応答が必須
「質問」に対する「回答」や「文脈記憶」など、表面的な対応ではなく、一段階深い設計が必要になってきます。
3)安全性・エビデンスの担保 vs 柔軟性
「SARAH」はWHOのガイドラインに基づく「安全第一・リスク回避」の設計がされています。一方、ユーザーが求めるのは、「自分に合わせた柔軟な選択肢」「現実的なアドバイス」です。
→エビデンスとのバランス:
- 医療的エビデンスと行動科学的アプローチのバランス
- AIに“やっていいこと・やってはいけないこと”をどこまで動的に学習させるか
単なる「情報提供AI」にとどまるのか、行動伴走型での「ヘルスコーチ」として進化させるのかは、設計のバランスが求められます。
4)エンゲージメントとユーザー継続率
「SARAH」は「無料でいつでも使える」役割を担っていますが、ヘルスコーチングに求められる継続的なコミュニケーションや寄り添い、習慣化支援については、アプローチがまだ不十分です。
→ヘルスケアサービス提供時の課題:
- 行動定着のためのモチベーション設計
- 継続利用を促す体験デザイン(例:週次フィードバックなど)
人とAIのハイブリッドによる介入タイミングなどの最適化を図り、継続を支える仕組みが求められます。
5)法的・倫理的ハードル
「SARAH」はWHOが提供しているため、現時点では生活習慣の改善、行動変容がメインのアプローチになっていますが、商用で展開する際には、以下のような大きなハードルが見えてきます。
→商用サービスとして提供する場合:
- 医療機関との役割分担(診断行為との線引き)
- 医療機器認証の適用可否(AIによる行動介入が治療行為とみなされる場合)
- 個人情報保護との整合性
- 誤作動時のリスク対応(責任所在)
- れらの「法的なリスク」について対応が不可欠になってきます。
3、生成AIをパートナーとしてどう活かすか?
今回WHOが生成AIを活用して「SARAH」を提供したことは、今後の行動変容における生成AIの活用という視点では大きな影響を与えると思います。
しかし、「SARAH」のような生成AIは万能ではなく、まだまだ「日常的な小さな支援を担う伴走者」と捉えることが現時点では現実的だと感じています。
さらに、生成AIの活用によってユーザーの行動変容に効果的に機能したとしても、ビジネスとして捉えた時に、ビジネスの成立、拡大にも機能していなければ成り立ちません。
現時点の「SARAH」の場合には、その商用での利用、活用シーンについては、あくまでも「SARAH」を参考にどう自社の商品、サービスに組み合わせてビジネスに役立てて、ビジネスとして成立させるかを想像することが必要なのです。
ヘルスケアの領域で生成AIの活用は今後さらに進化していくと思われますが、生成AIを活用することがゴールではなく、どうビジネスに結びつけられるかが求められてくるのです。
生成AIを活用したヘルスケアサービスの出口戦略の一つのアイデアとして、我々は「きっかけデザインAI」といった生成AIを活用してユーザーの行動変容を促し、商品の効果実感を高める仕組みをご提供しております。
「きっかけデザインAI」のご紹介はもちろん、デモを含めた勉強会も実施しております。
詳しくは、以下のサイトをご覧ください。
貴社のメンバーに向けた勉強会として、「生成AI×ヘルスケアサービスの最新活用術」というテーマで「きっかけデザインAI for Biz」のデモも含めて、ご提供しております。
https://healthbizwatch.com/member/kikkakedesign-ai
ぜひご活用いただければと思います。
---【Japan Health】「きっかけデザインAI for Biz」のご紹介
世界最大級の医療・ヘルスケア展「Arab Health」の姉妹展「Japan Health」が6月25日(水)-27日(金)の3日間、開催されます。
スポルツでは、「Japan Health」で、生成AIを活用したヘルスコーチングサービス「きっかけデザインAI for Biz」を展示いたします。私 里見も、3日間ブースで「きっかけデザインAI for Biz」のデモのご紹介はもちろん「ヘルスコーチング」や「行動変容」について、説明させていただきます。
ぜひ、この機会に「Japan Health(ジャパンヘルス)」に足をお運びいただき、生成AIを活用したヘルスコーチングサービス「きっかけデザインAI for Biz」を体験していただければと思います。
「Japan Health(ジャパンヘルス)」
日程:2025年6月25日(水)-27日(金)
会場:インテックス大阪(大阪市)
主催:インフォーマ マーケッツ ジャパン株式会社
スポルツのブースは、Hall 6B B-1314 です。
「Japan Health(ジャパンヘルス)」でお待ちしております!
●ヘルスコーチングの実証実験結果はこちら
健康ビジネスキーワード
「まっすぐ伸びる幻想が、成長を止める」
ビジネスの成長は、たいてい“ぐにゃり”と曲がっている。
むしろ、直線的に進む成長なんて、ほとんど幻だ。
成果が出るまでには、思考が揺れ、感情が波打ち、試行錯誤で踏み外すこともある。
でもそれが、普通。むしろ曲がりながらしか、深くは学べない。
例えば、
・学習の曲線は、必ず“伸び悩み”を含む
・成果の曲線は、後になってからグッと上がる
・感情の曲線は、不安とワクワクが同居する
この“曲線のストーリー”を経た先にしか、本当の成果はない。
曲がることを恐れるな。焦るな。笑って乗りこなせ。
まっすぐ進めない時ほど、進んでいる証拠だ。
今週の注目記事クリップ
+++★注目記事クリップ★+++
[1]Hinge Health、17%株価上昇もダウンラウンドIPOの仲間入り
https://ht-watch.com/2025/06/hinge-health17ipo.html
デジタル理学療法企業のHinge Healthは、先日のニューヨーク証券取引所での初日の取引を37.56ドルで終えた。これは前日に設定した32ドルのIPO価格より約17%高い。(2025/06/11)
[2]Calm Health、メンタルヘルス支援アプリを国際展開
https://ht-watch.com/2025/06/calm-health.html
瞑想アプリ『Calm』を搭載した臨床メンタルヘルスプラットフォームを提供するCalm Healthは、まず英国とカナダの市場で展開し、世界的にその範囲を拡大している。(2025/06/13)
[3]AIカメラがカロリー計算!?キッチンスケール『Qalzy』
https://ht-watch.com/2025/06/aiqalzy.html
『Qalzy』に食材を置くと、AIカメラが食材を撮影。Wi-Fiに接続していればスマートフォンアプリに自動で食材が同期される。カロリーだけでなく、タンパク質や炭水化物などの摂取量も算出できる。食材の認識精度は90%以上だという。(2025/06/16)
[4]研究:人工妊娠中絶を予測するAI
https://ht-watch.com/2025/06/ai-9.html
エチオピアの研究チームは、エチオピアにおける中絶の予測因子を特定することを目的とした機械学習モデルを開発した。(2025/06/17)
[5]Wellmira、歩数計アプリ「RenoBody(リノボディ)」で英語表記機能をリリース!
https://www.wellmira.jp/news/press/2301/
本機能は、海外に拠点がある企業様や非日本語母語話者の従業員を抱えるグローバル企業様からのご要望を受け、実装いたしました。本機能のリリースにより、グローバルな職場環境でもご活用いただける健康経営支援サービスに進化しました。(2025/06/11)
[6]キュアコード、心疾患・心不全患者向けアプリ「ハートサイン」がマイナポータル連携を開始しました
https://curecode.jp/news/2025/heartsign_mynumber_20250611/
この新機能により、ユーザーはマイナポータルAPI経由で取得した自身の医療・健康情報をハートサイン内に自動で取り込むことが可能となり、個人の健康管理と医療サポートがより効率的かつ高度に行えるようになります。(2025/06/11)
[7]エスエス製薬、「頭痛の我慢に関する5カ国調査」を公開 “我慢は美徳“は嘘?日本人の意識と行動に大きなギャップ
https://www.ssp.co.jp/news/2025/20250611/
日本人の頭痛に対する“意識と行動のギャップ”が5カ国の中で最も大きいことが明らかになりました。「頭痛は我慢すべきではない」と回答した人は40.2%と、5カ国で最も多く、我慢しない意識は比較的高い一方で、実際には77.2%の人が「我慢することがある」と回答しており、約37ポイントものギャップが生じています。(2025/06/11)
[8]ビーアイシーグループ、女性向けの革命的な痛み緩和デバイス「Rosi(ローシー)」薬事認証を取得
https://www.bicgroup.com/ja/archives/rosi-pain-management-device/
女性のために設計されたウェアラブルで革新的な痛み緩和デバイス「Rosi(ローシー)」が2025年6月10日に低周波治療器の医療機器として薬事認証されたことをお知らせいたします。(2025/06/11)
[9]小林製薬と近畿大学、ビタミンC誘導体・セージエキスに関する新知見~シミの一因“慢性炎症”を防ぐ世界初のシミ対策~
https://www.kobayashi.co.jp/newsrelease/2025/20250611_02/
ビタミンC誘導体(L-アスコルビン酸 2-グルコシド)およびセージエキスが、紫外線や加齢に伴う慢性炎症で生成される炎症性物質(GM-CSF)の発現を抑制することにより、シミの原因となるメラニンの生成を防ぐ作用を発見しました。(2025/06/11)
[10]エクスポート・ジャパンと日本視覚障がい者美容協会、視覚障害者の情報アクセスを支援(PR TIMESより)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000003003.html
視覚に障がいのある方々が日常生活に必要な様々な製品情報へ安心・安全にアクセスできる社会の実現を目指し、ユニバーサル対応のQRコード「Accessible Code(R)(アクセシブルコード)」の普及促進に向けたパートナー協定を締結いたしました。(2025/06/11)
[11]ファンケル、男性向け情報誌「FANCL M」を創刊~オトナ男性の「これから」を応援する「自分メンテナンス」マガジン~
https://www.fancl.jp/news/20250052/news_20250052.html
男性の健康やライフスタイルに寄り添う男性向け情報誌。50代以降の男性をターゲットに据えた本誌は、忙しい毎日でも手軽に読める誌面構成で、男性の健康と美容を体の内外両面からサポートします。(2025/06/12)
[12]VRデジタル療法のBiPSEE、特定臨床研究を完了し、治験準備開始
https://bipsee.co.jp/news/RXePV5VX
高知大学医学部附属病院との共同研究として実施していた、うつ病に対するVRデジタル療法に関する特定臨床研究(ランダム化比較試験)にて、対象患者のうつ病スコアが大きく減少したことを確認しました。(2025/06/12)
[13]東京科学大学とぐるなび、漬物由来の乳酸菌が持つ「免疫機能を調節する力」を解明
https://www.isct.ac.jp/ja/news/ti4ztndoad8r
今回の成果は、乳酸菌が私たちの健康に与える影響を遺伝子レベルで理解する手がかりとなるものです。このことは、植物性ヨーグルトなどへの応用や、新たな機能性食品の開発にもつながる可能性があります。(2025/06/12)
[14]笹川スポーツ財団、国内の筋力トレーニング推計人口は約1,629万人【PDF】
https://www.ssf.or.jp/files/SSF_Release_20250616.pdf
https://www.ssf.or.jp/
笹川スポーツ財団では、1992年から隔年で「スポーツライフに関する調査(スポーツライフ・データ)」を実施しています。最新の2024年調査では、20歳以上の年1回以上・筋力トレーニング実施率は15.9%、推計実施人口は約1,629万人となりました。(2025/06/16)
[15]吉野家ホールディングス、吉野家の「牛丼」と発酵性食物繊維「グアー豆食物繊維」を同時摂取すると食後の腸内環境を整え、代謝改善や筋量維持を促進することが判明【PDF】
https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS08813/9f5c50b8/9868/4563/a132/aba6a3e2f93f/20250617161544372s.pdf
https://www.yoshinoya-holdings.com/
吉野家ホールディングス、太陽化学、京都府立医科大学は、生活習慣病を気にかける消費者の食の選択肢を広げることを目指し、2023年4月より京都府立医科大学へ産学連携共同研究講座「食と健康研究講座」を設置し、牛丼を高付加価値にする研究開発を開始しています。(2025/06/16)
[16]オムロン ヘルスケア、家庭で計測したバイタルデータを活用し、医療機関での早期治療介入を実現
https://www.healthcare.omron.co.jp/corp/news/2025/0617.html
「在宅における心不全ICTモニタリングプロジェクト」実証調査が終了。今回の実証実験では、患者の日々の心不全診療にICTと家庭で測定したバイタルデータを活用することで、心不全の増悪低減と医療費の効率化が期待できることがわかりました。(2025/06/17)
[17]インテージヘルスケア、更年期症状、医薬品やサプリメントなどの対処はわずか27%。未対処者の実態を分析
https://www.intage-healthcare.co.jp/news/d20250617/
今回発刊のレポートでは、全国40-59歳の更年期の女性を対象に行った「更年期(メノポーズ)世代のニーズ探索調査」より、更年期女性のセルフケアの現状、特に更年期症状を対処していない女性の実態の一部をご紹介します。(2025/06/17)
[18]ロレアル、長寿研究の中核に美
https://www.loreal.com/ja-jp/japan/press-releases/group/20250617-longevity-press-release/
ロレアル グループは、パリで開催された第1回ロンジェビティ(健康長寿)イベントにおいて、美を長寿を構成する重要な柱の一つとして確立し、肌の健康は、より長く健康的な生活に不可欠な要素であることを示しました。(2025/06/17)
[19]『HealthTechWatch』注目ニュース:エムティーアイ、女性ホルモンと口腔内トラブルに関する調査
https://ht-watch.com/2025/06/post-46.html
今回取り上げたのは、ウィメンズヘルスケアサービス『ルナルナ』を提供しているエムティーアイがサンスターグループと共同で実施した「女性ホルモンと口腔内トラブルに関する意識・実態調査」の研究結果です。(2025/06/23)
[20]グローバルニュートリショングループ、TPCマーケティングリサーチ株式会社と業務提携~互いの強みを活かし、ヘルスケア・食品業界の支援体制を強化~
https://global-nutrition.co.jp/information/%e3%80%90%e3%83%97%e3%83%ac%e3%82%b9%e3%83%aa%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%82%b9%e3%80%91tpc%e3%83%9e%e3%83%bc%e3%82%b1%e3%83%86%e3%82%a3%e3%83%b3%e3%82%b0%e3%83%aa%e3%82%b5%e3%83%bc%e3%83%81%e6%a0%aa/
今後は、共同での市場分析、コンサルティングサービスの提供、セミナーの開催などを通じて、変化の激しいヘルスケア・食品市場における企業の成長と競争力強化を支えるパートナーとしての役割を果たしてまいります。(2025/06/25)