こんにちは、渡辺武友です。
常に話題となるデジタルヘルスですが、最新テクノロジーを使うことで、果たしてビッグビジネスになっていくのでしょうか?
今回は軌道に乗り出したデジタルヘルスを分析していきます。

特集:健康ビジネス・マーケティング&収益化編

デジタルヘルスをビジネスとして伸ばすために

世界的に見ても、年々、デジタルヘルスにチャレンジする企業が増加しています。
大型の投資などが話題になることがありますが、実際に収益を伸ばしている企業はごく一部に留まっているのが実態です。
今後、デジタルヘルスをビジネスとして成立させ、スケールするために必要な視点とは何か?
米国の動向、日本の未来像から予測していきます。

米国におけるデジタルヘルス導入の実態

米国の医療に対する支払い方法が“量から質へ”と変化してきています。
成果報酬型の「Value Based Health Care(以下VBHC)」です。

今までのアナログな医療提供だと、例えば、体調不良で病院に来た人を治療し、薬を処方したとしても、その人がその後病院に来なければ状態が改善したのか、悪化したのかもわかりませんでした。

今はデジタルを活用することで、その後の状態を追跡することもできるようになりました。
追跡することにより、治療の結果はどうなったのか?その治療に患者は満足しているのか?を知ることで治療の質を評価できるようになったのです。

このようなVBHCの導入により、無駄な医療コストを抑え、患者満足度も高めることで、医療費全体のコスト改善につなげようという取り組みです。
すでに米国では、保険制度の半数近くがVBHCに置き換わってきています。

とても効果的な取り組みではあるのですが、簡単にはすべてがVBHCに移行できない壁があります。
その理由の一つに、デジタルヘルスそのものに課題があるのです。

まだヘルスケアプロバイダーがデジタルヘルスを全面的に受け入れていない

コンサルティング会社のSimon-Kucherの研究(※1)によると、デジタルヘルスには患者中心のソリューションと医療従事者中心のソリューションがあり、患者中心のソリューションにおいては、デジタルヘルスの導入に対して、ヘルスケアプロバイダーは3つのタイプに分かれると伝えています。

1) 治療の選択肢にデジタルヘルスを取り入れることに懐疑的なタイプ
2) デジタルヘルスを熱心に推奨するタイプ
3) 中間的な立場で「慎重な冒険者」タイプ

3つ目の中間的な立場が全体の7割を占めているとのことです。
デジタルヘルスに関して見聞きしたり文献を読んだりしているが、利用には疑念を抱いており、利用してもらうには説得が必要になる層です。

全体の2/3の医療従事者がデジタルヘルスに納得していなかったり、ソリューション自体を知らなかったりするので、発行される処方箋(デジタル治療)は限られます。
この課題をクリアしない限り、どんなに優れたテクノロジーを導入しても、ヘルスケアプロバイダーの採用、患者の利用促進にはつながらないと言えます。

デジタルヘルスの導入促進のために

患者中心のソリューションにおいて、ヘルスケアプロバイダーがデジタルヘルスを積極的に採用するためには、患者が自ら継続的に取り組むための仕掛けが必要となります。

この課題を解決するものとして、米国のデジタルセラピューティクス(デジタル治療:以下DTx)は第2世代に移行してきています。

[DTx第1世代]
デバイスを使ったバイタルデータの取得によるデータ管理。
取得したデータを元に、治療に貢献する“正しいアドバイス”を行う。

デジタルを活かすことで状態を見える化し、日々、改善効果の高い医療的指導が受けられます。
ただし、その指導に従って行動できるかは患者自身のやる気に依存します。
改善効果の高い指導となれば、患者自身にそれなりの努力が求められます。
そもそも生活習慣病のような痛みを実感していない疾患などでは、最初は取り組んだとしても、効果を実感できないと離脱しやすいのは予防領域と同じです。

[DTx第2世代]
デバイスを使ったバイタルデータの取得によるデータ管理。
取得したデータを元に、個々の患者に合わせ“無理なく取り組めるアドバイス”を行う。

第1世代の機能に追加して、患者の継続支援となるサポートを提供します。
ヘルスビズウォッチでも紹介してきたLivongo HealthやOmada Healthが相当します。
(Livongo HealthやOmada Healthについてはヘルスビズウォッチ内検索でチェックしてください)

このようにDTxが第2世代になってきたことで、現状のVBHCに対応しています。
しかし、まだ7割ものヘルスケアプロバイダーがデジタルヘルスを利用していない以上、さらなる患者の継続利用促進に注力し、DTx第2世代の啓発活動が必要となります。

国内におけるデジタルヘルス導入促進

国内医療では、まだ成果報酬型は導入されていませんが、現在政府が導入を進めているPay For Success(※2)の導入を考えると、そう遠くない未来でヘルスケア全般にも成果報酬型が導入、移行していくことになるでしょう。

そのときに、日本でも米国と同じ課題(思ったように患者が継続利用してくれない)に直面することとなるでしょう。
そのような状況になってから対策を考えたのでは、2手3手遅れることになるのは過去のビジネスモデルからも容易に想像できます。

すでに米国で導入が進んでいるDTx第2世代型も、それほど簡単に立ち上がったわけではありません(また、様々な壁もまだまだあります)。
継続促進につながる仕組み作りに、それ相応の時間を費やしてきています。

ただ、今なら米国で前例を作ってくれているので、日本市場に適したものとして検討すれば近い将来に向けた準備には申し分ないのではないかと思われます。

デジタルヘルスを活用したビジネスとして成立する未来に向けた活動を、今こそするべきときと言えるでしょう。


(※1)Simon-Kucherの研究
「Q&A: What providers need for digital health adoption」
(mobihealthnews 2023/5/5掲載)
https://www.mobihealthnews.com/news/qa-what-providers-need-digital-health-adoption

(※2)Pay For Successとは?
「これから主流となるPay For Successに向けて」
https://healthbizwatch.com/column/hbw-965

健康ビジネスキーワード

Tell me your one-liner

あなたのビジネスを1行で説明してください。

半年前と3年前にも掲載したテーマですが、今一度噛み締めてみましょう。
ChatGPTの出現によってあなたのビジネスやあなたのポジショニングは再定義の必要はないでしょうか?
ビジネスパーソンが現在取り組んでいる役割やプロジェクトに関して、one-linerでプレゼンテーション(表現)できることが理想です。

その3つの要素は
・顧客
・課題
・解決具体策

あなたの1行はどうなりますか?
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今週の注目記事クリップ

[1]OGATORE、YouTube登録者129万人突破の理学療法士オガトレ、新プロジェクト「PiTsalon(ピットサロン)」を始動!(PR TIMESより)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000020.000062420.html
継続が難しい、本気でカラダを変えたい…そんな方にこそ自信を持っておすすめできるサロンをつくりました。オンラインレッスンに加え、講義動画150本以上、理学療法士への体のお悩み専用相談窓口も。(2023/05/31)

+++★追加解説動画:7分(編集主幹 大川耕平)★+++
今回紹介するオガトレはウェルビーイング・プロバイダーの1モデルです。
https://youtu.be/DYO-UaDJZdU

[2]厚生労働省、「健康日本 21(第三次)」を推進する上での基本方針を公表します
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33414.html
厚生労働省では、国民が主体的に取り組める新たな国民健康づくり対策として「21 世紀における国民健康づくり運動(健康日本 21)」を展開しています。(2023/05/31)

[3]SOMPOひまわり生命、祝金総額3億円超!「健康☆チャレンジ!制度」で1万人以上のお客さまが健康に!
https://www.himawari-life.co.jp/-/media/himawari/files/company/news/2023/a-03-2023-05-31.pdf?la=ja-JP
チャレンジされた12,564件のうち8割を超える10,103件(5月22日時点)のご契約において、お客さまが喫煙状況や健康状態(BMI、血圧など)の改善に成功。(2023/05/31)

[4]オムロン ヘルスケア、インドに新工場を建設
https://www.healthcare.omron.co.jp/corp/news/2023/0531.html
インドで生活する多くの方の健康課題の解決に向けて、インド国内に血圧計の生産拠点を設け、一人でも多くの人に血圧計を届ける体制を整えます。(2023/05/31)

[5]展示会レポ:AIでどんな事ができる?ヘルスケアマーケティングに使える最新ソリューション(ウーマンズラボより)
https://womanslabo.com/category-news-market-230601-1
編集部が、ヘルスケアマーケティングで活用できる最新のAIソリューションを探しに「NexTech Week【春】」へ。展示会主催者や出展者に話を聞いた。(2023/06/01)

[6]CureApp、新サービス「ascure 重症化予防(血圧コース)」を提供開始
https://cureapp.blogspot.com/2023/06/cureapp-ascure.html
「ascure重症化予防(血圧コース)」は主にLINEを使用し進めるプログラム。医療専門職によるオンライン面談を実施し、個々人の受診へのモチベーションや背景を踏まえた上で、適切なアドバイスや生活習慣改善のための動機づけを実施、サポートします。(2023/06/01)

[7]幸年期マチュアライフ協会と日本インフォメーション、「男女の更年期」の性差で異なる自覚症状と対策行動の実態を2,000人大調査
https://www.maturelife.org/news/%e8%aa%bf%e6%9f%bb%e3%83%aa%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%82%b9%e3%82%92%e3%82%a2%e3%83%83%e3%83%97%e3%81%97%e3%81%be%e3%81%97%e3%81%9f/
「更年期」を自覚し前向きに対策行動を行う『幸年期』“アクション”が人生100年時代を幸せに生きる「健幸ウェルビーイング」の礎に。(2023/06/01)

[8]矢野経済研究所、シニア関連市場に関する調査を実施(2023年)
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3265
国内のシニア関連12市場65サービスを調査し、2021年からのシニア関連マーケットの動向を幅広くまとめた。シニア関連市場のコロナ禍からの回復は道半ば、訪問サービスや介護福祉用品、介護食・高齢者食などはコロナ禍でも成長が続く。(2023/06/02)

[9]asken、習慣化アプリ『みんチャレ』との40・50代女性のダイエットに関する共同アンケート結果を発表
https://www.asken.inc/news/2023/6/6/4050
アラフォー・アラフィフ女子のダイエット理由1位は健康維持。Z世代は理想の自分や美しさのためにダイエットを継続。40・50代の4人に1人は、ダイエット中でも運動習慣なし、など。(2023/06/02)

[10]日本製薬工業協会、医薬品評価委員会:製薬企業におけるデジタルヘルスに関する現状調査と考察
https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/results/allotment/CL_202306_TF1.html
臨床評価部会2022年度タスクフォース1では、製薬企業におけるデジタルヘルスをテーマとして、3つの資料を作成しましたので、ご一読いただけますと幸いです。(2023/06/02)

[11]cotreeなど、メンタルヘルステック5社が合同で業界の最新トレンドを発表(PR TIMESより)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000054.000103500.html
cotree、Melon、emol、ミッドナイトブレックファスト、I'mbesideyouの5社は、メンタルヘルステック業界の各専門領域サービスを展開する企業として、業界の現状やコロナ禍以降の展開、最新トレンドなどについてまとめました。(2023/06/02)

[12]東京慈恵会医科大学、98%の日本人が「ビタミンD不足」に該当
http://www.jikei.ac.jp/news/press_release_20230605.html
島津製作所と新開発の液体クロマトグラフィー・質量分析法(LC-MS/MS)システムを使用して、2019年4月から2020年3月までの期間に東京都内で健康診断を受けた5,518人を対象に調査を実施。(2023/06/05)

[13]サンスターなど、2型糖尿病のある人の食物繊維、ビタミン、ミネラル不足の裏には歯の喪失やハグキの問題がかくれている可能性
https://www.sunstar.com/jp/newsroom/news/202306062/
共同研究により、クリニック通院中の2型糖尿病のある人を対象に、アンケートを用いて歯の本数、ハグキの状態と食品、栄養素摂取量の関係を調査し関係性を分析。(2023/06/06)

[14]新社会システム総合研究所、「予防・健康づくりのエコシステム構築とPHR推進に向けたヘルスケア産業政策の展開」を開催
https://www.ssk21.co.jp/S0000103.php?spage=pt_23347
開催日は2023年7月5日(水)。講師は、経済産業省 ヘルスケア産業課 総括補佐 藤岡雅美氏。今回のセミナーではPHRを中心に、経済産業省における政策をご紹介させていただく。

[15]米メディケアが肥満を病気として扱うべき理由
https://mhealthwatch.jp/global/news20230601-2
肥満の有病率の増加は、医療費の増加と相関している。肥満は、糖尿病、心臓病、がんなどの他の疾患を発症するリスクが増加する。(2023/06/01)

[16]調査:Sensor Tower、ヘルスケア/フィットネスアプリ市場インサイト
https://mhealthwatch.jp/global/news20230605-2
近年、世界のヘルスケア/フィットネスアプリのIAP(アプリ内課金)収益は増加を続けており、2019年から2021年にかけて、それぞれ43%、50%、33%の成長を実現している。(2023/06/05)

[17]「ChatGPT」の使用に伴う6つのリスク、研究者らが指摘
https://mhealthwatch.jp/global/news20230606-2
生成系AIのリスクに対する懸念が高まっている。欧州の研究者らは「ChatGPT」の使用に伴う6つのセキュリティリスクを提示した。(2023/06/06)

[18]『mHealth Watch』注目ニュース:Nox Health、Pear Therapeuticsの資産に390万ドルの入札について
https://mhealthwatch.jp/global/news20230612
すでにニュースで取り上げた「破産したPear Therapeutics、資産をオークションにて600万ドルで売却」の続報として、MobiHealthNewsによるNox HealthのCEOへのインタビューが公開されたので紹介します。(2023/06/12)